日本の個人投資家の投資行動を見ていると、他の先進国と比べて異なる特徴が見えてきます。

それは、預貯金比率が極めて高いことです。

日本の家計の金融資産の半分以上が預貯金

日本銀行が四半期ごとに発表している日本の家計の個人金融資産の配分を見ると、資産全体の半分以上が預貯金であることがわかります。

直近2023年3月末時点の日本銀行調査統計局「資金循環統計」で見ても、預貯金は全体の54.2%と高い比率のままです。

これは、米国の12.6%、ユーロ圏諸国の35.5%(2023年3月末時点)と比べると対照的です(※)。

日本人が投資に消極的な5つの理由

日本人が全体としてリスクを取って投資を行うことに消極的であるのには、次のような合理的な理由があると考えます。

1.マネーリテラシーの欠如

日本の公的教育では金融教育が行われてきませんでした。投資を始める人は、ネットや書籍などの断片的な知識から我流で始めるしかありません。

体系的な知識を得ることができず、効率的な投資が実践できない結果、感情的な投資によって失敗する人も少なくありません。

投資の成功確率が下がっていることが、「投資=危険」という偏見に繋がり、リスクを取らなくなってしまうのです。

2.リスクに対する過剰な回避

心理学の実験によれば、国際比較によって日本人は他人から非難される可能性があることを避けようとする傾向が強いという結果が出ているそうです。

失敗することを極端に恐れる余り、チャンスがあってもそれを活用しようという意識が低く、安定した方法を選んでしまうとのこと。つまり、資産運用で言えば、投資よりも元本保証の預貯金を選んでしまうという訳です。

3.投資に対する偏見

これは、金融教育が行われてこなかったことにも関連しますが、日本人の投資に対する偏見もマイナスの影響を与えています。

投資と聞くだけで、「ギャンブル」「あぶく銭」といったネガティブなイメージを持ち、投資が人生にとって大切な問題であるという意識が希薄です。

自分で稼いだお金と同様、投資でお金を稼ぐことも大切だという意識が広がらなければ、いつまでたっても投資に対する偏見は変わりません。

4.デフレ経済の長期化

1980年代後半からバブル経済が発生した反動により、1990年代から30年近くデフレ経済が続きました。

株価の低迷と物価の下落基調が長期に渡り続いたことで、リスクを取らない預貯金が良いという思い込みが刷り込まれてしまったのです。

5.高齢者への資産の偏り

日本の個人金融資産の6割以上は65歳以上のシニア層が保有していると推計されます。

一般的に、年齢が高くなればなるほどリスク許容度が小さくなり、リスク資産の保有に消極的になります。

預貯金に資産が偏っていることは、高齢化という日本の環境変化を考えれば、ある意味合理的な行動とも言えるのです。

2024年から始まる新しいNISAが変化のきっかけとなるか?

2024年からNISAの制度が拡充され、税制優遇による資産形成が最大で1800万円まで可能になります。

既に投資信託会社やネット証券が手数料の引き下げを行い投資資金の呼び込みを始めており、NISAの知名度は急上昇しています。

新しいNISAをきっかけに資産運用に関心を持つ人が増え、預貯金から株式市場などの金融市場に資金が流れ込む可能性は高いと思います。

わかりやすく、シンプルな金融制度の整備が最優先の課題

岸田政権は「資産運用特区」を作り、海外の高度な運用ノウハウを日本の投資家にも提供するとしています。

しかし、日本国内には既に低コストのインデックスファンドが存在しているため、資産運用の高度化によって日本の金融資産の偏りという問題の本質を解決できるとは思えません。

例えば、日本国内には投資信託だけでも約6,000本があると言われています。数が多すぎて、投資を始めようにも、どの商品を使ってどのように始めたら良いのかわからないという人も多いのです。

預貯金から投資への流れを作るためには、投資初心者・未経験者をどのように資産運用マーケットに呼び込むかを考える必要があります。そのために必要なのは、まずはシンプルでわかりやすい資産運用の手法を提供することだと思います。

(※)日本銀行調査統計局「資金循環の日米欧比較」
https://www.boj.or.jp/statistics/sj/sjhiq.pdf