大和ハウスリート投資法人の価格急落要因

大和ハウスリート投資法人(3263)(以下DHR)の価格は9月1日に前日比4%近く急落し、3月23日の年初来安値266,000円を割り込む265,500円となった。価格急落の要因は、8月31日にDHRのスポンサーである大和ハウス工業が、DHRの保有投資口の売出(以下、本件売出)を公表したためだ。

本件売出は、スポンサーが保有する191,200口のうち、最大で100,000口(※1)を売却するものだ。スポンサーは、2022年5月に公表した中期経営計画で掲げた「資本効率向上のため」のため本件売出を決定し、投資口売却資金を不動産開発資金などに重要する予定としている。

本件売出後にスポンサーが保有する91,200口に関しては、継続保有する方針(※2)を示し、1年間のロックアップ期間が設定されている。またスポンサーは、DHRに対し保有物件の優先的売買交渉権の付与などのスポンサーサポートを継続することを表明(※2)している。さらに本件売出後のスポンサー保有比率は、資産規模が同水準の他銘柄と比較して平均的な保有比率を維持する(※2・※3)ものとしている。

中長期的なスポンサーサポート継続に対する投資家の懸念が生じる可能性も

本件売出は、特定の投資家に対してではなく市場を通じて行うものであり、増資と同様に投資口の需給環境を悪化させる要因になる。従って増資と同様に価格が下落することも想定されていたと考えられる。短期的には、価格への影響が生じたことになる。さらに長期的な影響として以下の2点が挙げられる。

1.REITへの投資と資本効率

スポンサー売却要因に関しては、他の投資家への「ミスリード」ともなる要素があると考えられる。具体的にはDHRへの投資(保有)は、「資本効率向上」というプロセスに合致しないとスポンサーが判断したとも取れるためだ。

スポンサーはDHRと合併したニューシティ・レジデンス投資法人の再生計画に参画し、極めて低い投資単価で増資に応じているなど、スポンサー保有投資口の単価は現状の市場価格よりは大幅に低い。つまり、保有投資口分の分配金利回りという面では高い状態であったにも拘わらず、投資口の半分以上を売却するという決定を行っている。

さらに本件売出でスポンサーが回収する資金は250億円程度である。23年3月期の総資産が6兆円を超えるスポンサーであり、今後の金利上昇懸念はあるが前述の保有投資口の分配金利回りを比較すれば、低い金利で借入金の調達も可能性と考えられる。

2.スポンサーサポート継続への懸念

スポンサー動向に対して、より悲観的な見方をとれば、資本効率という面で運用会社株式の売却も想定せざるを得ない。例えば、直近では2022年3月に日本都市ファンド投資法人(8953)(以下JMF)及び産業ファンド投資法人(3249)(以下IIF)のスポンサーであった三菱商事とUBSグループ(以下、両者を併せて旧スポンサー)は、資本金5億円の運用会社株式をKKRグループに2300億円(20億ドル)での売却を公表した。

三菱商事のプレスリリースに拠れば、運用会社売却の要因は「事業ポートフォリオの最適化と強化」であり、売却した運用会社以外のアセットマネジメント会社で「不動産開発・運用ビジネスを、海外においても(中略)加速させております」としている。

JMF及びIIFは物件の管理に旧スポンサーが直接関与していないなど、DHRと異なる側面がある。しかし、大和ハウス工業も2021年11月にシンガポール証券取引所の物流系銘柄を上場させるなど海外展開を加速している。この物流系銘柄の上場時のポートフォリオは日本国内の物流施設で構成(※4)されており、DHRのスポンサーを継続しなくてもスポンサー保有物件の売却先は確保されている。仮に運用会社株式を高値で売却できれば、極めて高い資本効率になると考えられる。

つまり本件売出は、スポンサーの売却背景が他の投資家から見れば判断が難しいという側面もある。従ってDHRの価格低迷が続くようであれば、本件売出後の保有投資口の継続保有方針に対し、スポンサー側のより明確なアピールが必要となる可能性もありそうだ。


※1:売出口数9,5000口、オーバーアロットメントにより売出口数5,000口(上限)の合計
※2:DHR公表の【「投資口売出しに関するお知らせ」等に関する補足説明資料】に拠る
※3:同様の資産規模で保有比率が高い銘柄として日本プロロジスリート投資法人(3283)があり、直近決算期のスポンサーグループの保有比率は15%程度となっている
※4:現時点(2023年9月)ではスポンサー保有の国内不動産でDHRの投資基準に合致する物件は優先交渉権の付与を受けておりシンガポール上場のREITに優先して物件取得が可能