進化する自動運転、中国と米国の2強が技術革新に挑む

自動運転は画期的な技術です。世界中のドライバーが運転の労力から解放され、車内というプライベートな空間で移動時間を仕事に充てたり、休んだり、楽しんだりすることができれば、世の中が大きく変わりそうです。交通事故の減少も期待されます。

この分野でも米中が技術開発でしのぎを削っています。中国勢では検索エンジン大手の百度(BIDU)がオープンソース型のプラットフォーム「アポロ計画」を主導しています。百度が自動運転車を制御するソフトウエアなどの技術情報を国内外の参加企業に公開し、参加企業が各々開発を進める仕組みです。

これに対抗する米国勢は自動車メーカーやIT大手が参入し、スタートアップ企業もチャンスをうかがっている構図です。公道実験が盛んに行われる米カリフォルニア州の自動車局が2023年2月に発表したデータによると、2021年12月~2022年11月の12ヶ月間の走行距離が最も長いのはアルファベット[GOOGL]傘下のウェイモで、475万400キロメートルでした。

【図表1】米カリフォルニア州での公道試験の走行距離(2021年12月~2022年11月)
出所:カリフォルニア州自動車局
※ 単位:キロメートル

ゼネラル・モーターズ[GM]傘下のクルーズが226万8,500キロでこれに続きますが、セーフティードライバーが運転席に乗車しない状態で走行する実験では87万9,500キロに上り、ウェイモの8万3100キロの10倍超に達しています。

3位はアマゾン・ドットコム[AMZN]傘下のズ―クスで、走行距離は88万8,600キロです。ドライバーなしの走行距離はゼロです。

4位はトヨタ自動車(7203)や中国のIT大手、テンセントが出資するスタートアップの小馬智行(ポニー・エーアイ)で、45万1,300キロ(ドライバーなしはゼロ)。米国と中国の公道で走行実験を着実に積み上げています。

5位はアップル[AAPL]で、22万7,700キロ(ドライバーなしはゼロ)。電気自動車(EV)「アップルカー」の開発動向は依然としてベールに包まれていますが、数年後と予想されるリリース時にどの程度まで自動運転機能を持つのか注目されそうです。

6位はグーグル[GOOGL]で自動運転技術の開発を手掛けていたエンジニアが立ち上げたスタートアップのニューロです。走行距離は15万4,300キロで、このうちドライバーなしが1,500キロに達しています。ニューロにはソフトバンクグループ(9984)やグーグルが出資しています。

そこで、今回は米カリフォルニア州で走行実験を行っていない有望企業も含め、自動運転技術関連の銘柄をご紹介します。

画期的な技術革新で、今後有望と期待される自動運転技術関連銘柄5選

ゼネラル・モーターズ[GM]、ロボタクシーを実用化

GM傘下のクルーズは、元々自動運転技術を開発するスタートアップ企業でした。マサチューセッツ工科大学(MIT)で学んだカイル・ボークト氏らが中心になり、2013年に創業しています。

2014年には自動操縦装置を開発し、自動運転への第一歩を踏み出しました。転機が訪れたのは2016年です。GMが創業後わずか3年のクルーズの買収に乗り出したのです。

買収額は明らかになっていませんが、10億ドルを超えたと伝わっています。ちなみに2016年は自動運転元年とも言える年で、5月にGMによるクルーズの買収が完了。12月にはアルファベットの社内プロジェクトだったウェイモが分社化しました。

自動運転技術への関心はその後も高まり、2018年には本田技研工業(以下ホンダ)(7267)とソフトバンクグループがクルーズに資本参加します。ホンダは資本参加を機に自動運転の分野でGMと提携することを決めています。

さらに2021年にはマイクロソフト[MSFT]とウォルマート[WMT]がクルーズに出資しています。マイクロソフトは自動運転分野での自社のクラウドサービスの活用、ウォルマートは将来的な宅配サービスでの利用を見越し、投資に踏み切ったのです。

自動運転の実用化の進捗状況をみると、GMは高速道路の一部区間でハンズフリー(ハンドルから手を離して操作をシステムに委ねる)を実現する「スーパークルーズ」を複数の車種に搭載しています。先進運転支援システム(ADAS)と呼ばれる技術で、自動運転ではテスラ[TSLA]の「オートパイロット」と同様、レベル2(またはレベル2プラス)に分類されています。システムが操縦しますが、人間が常に監視し、緊急時には対応する必要があるのです。

一方、クルーズはシステムが運転の主体として責任を持つレベル4以上の技術開発を目指しています。その象徴がGM、クルーズ、ホンダの3社で共同開発している「クルーズ・オリジン」です。クルーズ・オリジンは6人乗りですが、運転席がなく、人間が運転に関与したくてもできない構造なのです。

さらにクルーズは2022年2月に米サンフランシスコで完全自動運転タクシーの「ロボタクシー」を始めています。運賃を受け取って目的地まで乗客を運ぶ一般向けの商業サービスで、走行試験ではありません。米テキサス州オースティンとアリゾナ州フェニックスでもサービスを開始しており、レベル4の自動運転はすでに実用段階に入っていると言えそうです。

【図表2】ゼネラル・モーターズ[GM]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表3】ゼネラル・モーターズ[GM]:株価チャート
出所:トレードステーション

アルファベット[GOOGL]、自動車メーカーに技術提供

アルファベットの傘下に次世代技術の開発を推進する「X」という研究機関があるのは有名な話です。「X」の別名はムーンショットファクトリー。月探査ロケットの打ち上げ(ムーンショット)のような壮大な計画を念頭に新たな時代の技術を切り開くのが狙いです。

そのムーンショットファクトリーから誕生した代表的な企業が自動運転技術を開発するウェイモです。先述のようにウェイモは2016年12月に分社化し、独り立ちしています。

アルファベットによる自動運転技術の開発は2009年にスタートしました。人員を含めた累計の投資額は膨大で、この分野ではGM傘下のクルーズと2強を形成しています。

米カリフォルニア州での自動運転車の公道実験では、2020年度(2019年12月~2020年11月)はウェイモが101万2,016キロとクルーズの129万9271キロを下回りましたが、2021年度には372万1,349キロとなり、クルーズ(140万1,768キロ)を逆転。2022年度は475万400キロとクルーズ(226万8,500キロ)の2倍以上に差を広げています。

ロボタクシーの分野でもウェイモとクルーズはつばぜり合いを演じています。ウェイモも2022年にサンフランシスコでロボタクシーの運行を開始し、フェニックスでもサービスを始めています。ロサンゼルスやオースティンでもロボタクシーのサービスを始める計画で、準備を進めているようです。

技術面で先行する2強のうち、ウェイモは親会社が自動車メーカーでない点も強みの1つです。自動運転技術を自前で開発していないメーカーに提供し、技術・システムを搭載する自動車が増えればウェイモの技術が業界のスタンダードになり得るためです。

自動車メーカーにとって直接的または潜在的なライバルのGMに自動運転技術を握られるよりも、ウェイモの技術を採用するほうがハードルは低いのではないかと思います。

実際、フィアット・クライスラー・オートモービルズ(FCA)は自社の自動運転車にウェイモの技術を採用すると発表しています。また、ウェイモは日産自動車やルノー、ボルボ・カー、ジャガー・ランドローバーとも提携しており、提供先を広げています。

【図表4】アルファベット[GOOGL]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表5】アルファベット[GOOGL]:株価チャート
出所:トレードステーション

アマゾン・ドットコム[AMZN]、自動配達ロボの開発では苦戦

アマゾン・ドットコム傘下のズークスも自動運転技術を開発するスタートアップ企業でした。創業は2014年。共同創業者で最高技術責任者(CTO)のジェシー・レビンソン氏はスタンフォード大学でコンピューターサイエンスの博士号を取得しています。父親はアップルのアーサー・レビンソン会長で、実業界のサラブレッドとも言える存在でしょうか。

アップルも自動運転技術の開発を進めていますが、ジェシー氏らが率いるズークスは2020年にアマゾンに買収され、傘下に入りました。ズークスは創業当初から運転席やハンドルがない自動運転車の開発を目指しました。そして2023年3月にはロボタクシー専用に設計・開発された車両としては、世界で初めて公道で乗客を送迎しています。

一方、アマゾンは荷物を配送する自動運転車の開発にも取り組んでいますが、こちらは苦戦しているようです。小型の自動運転配送ロボット「スカウト」を開発し、試験にも取り組んでいましたが、2022年10月に試験を停止すると発表しました。自動運転機能というよりも配達の方法が顧客の需要にそぐわない点が問題視されたとみられています。

ただ、米国ではトラック運転手の人件費が高騰しています。最近大きな話題になったのは米物流大手ユナイテッド・パーセル・サービス[UPS]と労働組合の全米トラック運転手組合(チームスターズ)の労使交渉で、結果は衝撃的でした。

2023年7月に合意した内容に基づく計算では、フルタイムのトラック運転手の年収は諸手当を含めれば最終的に17万ドル(約2400万円)に達すると報じられています。アマゾンは労組の設立に慎重で、全米トラック運転手組合と団体交渉を行っていませんが、もちろん対岸の火事ではありません。運転手の人件費が高騰すれば社内の物流部門の運営に跳ね返るのは必至です。

トラック運転手の人件費高騰に危機感を募らせているのはアマゾンだけではないようです。米カリフォルニア州の公道試験の走行距離で6位だったニューロは自動配達ロボットの開発に取り組んでいますが、パートナーにはウォルマート[WMT]、ドミノ・ピザ[DPZ]、ウーバー・テクノロジーズ[UBER]のウーバーイーツ、セブン&アイ・ホールディングス(3382)のセブンイレブンなどラストワンマイルの配達を重要視する企業が名を連ねています。

【図表6】アマゾン・ドットコム[AMZN]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表7】アマゾン・ドットコム[AMZN]:株価チャート
出所:トレードステーション

キャタピラー[CAT]、超大型ダンプの運行を自動化

自動配達ロボットの開発が進み、自動運転車と産業用ロボの垣根が低くなっている印象ですが、公道を走行する際の安全性の確保が産業用ロボットと大きく異なる点です。公道以外では自動運転のハードルは相対的に低く、早々に実用化している企業も散見されます。

建設機械の世界最大手、キャタピラー[CAT]も早期に実用化した企業です。主に鉱山現場での採掘物などを運搬する超大型ダンプの自動運転化を進めています。

鉱山現場は人里離れた場所にあることが多く、関係者以外が立入禁止であれば、自動運転システムは導入しやすくなります。また、過酷な労働環境の現場が多いようなので、自動化で人員不足問題を解消できれば、顧客である鉱山開発のオペレーターにとって導入の利点が大きいと言えます。

キャタピラーは「CATマインスター・コマンド」という自動化の仕組みを鉱山開発のオペレーターに提供しています。オペレーターは鉱山機械の遠隔操作なども可能ですが、やはり超大型ダンプの運行の自動化が中核サービスのようです。

運行の自動化でドライバーの休憩時間も不要になり、長時間労働を心配する必要もなくなります。鉱山現場の生産性の向上に直結するため、今後も導入する現場が増えるとみられています。

【図表8】キャタピラー[CAT]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表9】キャタピラー[CAT]:株価チャート
出所:トレードステーション

モービルアイ・グローバル[MBLY]、システムオンチップの先駆け

イスラエル企業のモービルアイ・グローバルは、先進運転支援システム(ADAS)の先駆けです。この分野に不可欠な画像処理のシステムオンチップ(SoC)開発でパイオニア的な存在とされ、自動運転技術のフィールドにも進出して存在感を高めています。

創業は1999年。モービルアイはまず、ADASの開発に特化し、2004年に画像処理のシステムオンチップ「EyeQ」を発表します。2007年には高速道路で先行車と適切な車間距離を保つために自動的に速度を調整するアダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)などの機能を組み込んだ「EyeQ1」がボルボに採用されています。

その後、2010年に「EyeQ2」、2014年に「EyeQ3」、2018年に「EyeQ4」、2021年に「EyeQ5」とアップグレードし、機能が飛躍的に進化しています。累計出荷数は初めての出荷を記録した2007年~2012年に100万個に到達するまで5年を要しましたが、2015年に1000万個、2019年に5000万個、2020年に7000万個、2021年に1億個と出荷数も加速度的に増えていきます。

この間にGM、BMW、アウディ、日産自動車、テスラ、ホンダ、吉利、蔚来集団(NIO)などの自動車メーカーに「EyeQ」を提供しています。これまでに「EyeQ」を採用した自動車メーカーは少なくとも50社に上り、700を超えるモデルに搭載されています。

ADASには、アクセルを踏み続けることなくあらかじめ設定した速度を維持するクルーズコントロール、前方の車両や歩行者などとの衝突事故の衝撃低減を目指す衝突被害軽減ブレーキ、車線のキープを目的とする車線逸脱防止支援システムなどがあり、基本的に自動運転のレベル1とレベル2に分類されます。

モービルアイはADASの領域にとどまらず、レベル4以上の自動運転技術の提供を目指して開発に取り組んでいます。2018年には自動運転の基盤とも言えるマッピング技術「REM(ロード・エクスペリエンス・マネジメント)」をリリースしました。

REMでは車載カメラで撮影した画像をクラウドに送り、道路の情報を解析した上で蓄積します。モービルアイのシステムを搭載した車両が増えるほど、マップの精度が向上し、自動運転の機能も高まるわけです。

モービルアイは、特定条件下における完全な自動運転と定義されるレベル4の実現を目指し、「モービルアイ・ドライブ」と呼ぶソリューションの開発に取り組んでいます。自社の画像処理チップ「EyeQ」やマッピング技術などを総動員して実用化を目指します。

モービルアイは2014年にニューヨーク証券取引所に上場しましたが、3年後の2017年には半導体大手のインテル(INTC)に買収され、上場を廃止します。ただ、2022年10月に再びIPOに踏み切り、今度はナスダック市場に上場しました。現在も親会社はインテルです。

【図表10】モービルアイ・グローバル[MBLY]:業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表11】モービルアイ・グローバル[MBLY]:株価チャート
出所:トレードステーション