下町で3代続く鮨屋に月に1度は顔を出すようになって10年近くになりますが、先週(7月最終週)から黒マグロが入らないと大将。店でマグロが出せないことを説明するのに難儀するため一見の客は断ってしまっており、このところどうもやる気が出ないのだと言います。サンマが不漁だとか鰯が少ないだとか、その年によって捕れる魚にムラがあることが珍しくなくなってきているものの、マグロが市場に入らないというのは長く鮨屋を営んできたが初めてだ、と困惑されていました。

その日は、為替市場で長くディーリングに携わってこられた方と為替動画収録で話をしていたのですが、テーマは「パラダイムシフト」。サマーズ元米財務長官が、先進国経済がリーマン・ショック前の状態に戻ることは容易ではないとして「先進国の長期停滞論」を唱えたのが2013年。低金利、低インフレ、低成長の閉塞感はパンデミックで一変しました。

最もドラスティックに変わったのは日本ではないでしょうか。ECBフォーラムで金融政策が実際に効果を発揮するまでの期間を「少なくとも25年はかかるようだ。」と発言した植田日銀総裁ですが、今年2023年の春闘賃上げ率は平均3.58%、3%を超えるのは実に30年ぶりのことです。平成生まれ世代が経験したことのないインフレがいよいよ日本にもやってきます。これまでと同じ思考では金融市場の大転換についていけなくなってしまう!

先般、名古屋で開催されたマネックス全国投資セミナーのパネルディスカッションで、ファウンダーの松本大氏が「逆イールドがリセッション入りを示唆するサインとされるが、今回はそうならないと思う。」と話されたことも印象に残っています。

債券ディーラーの視点からみれば、長期債への投資妙味が高ければそれを買うだけのこと、先々の景気後退リスクを織り込んで動いているわけではないだろうと。(実際、昨日8月3日、ウォーレン・バフェット氏はフィッチの米国債格下げ後も米国債を購入していると報じられましたね。)リセッションがいつか来る、と身構え続けていたら今年の株高に乗れなかったでしょう。過去の経験則に学ぶことも重要ですが、教科書的な教えに盲目的に従うのではなく、何が変化しているのか多角的にキャッチしていくことも肝要です。

温暖化のせいなのか、世界の人々がその美味しさに気づいたための乱獲のせいなのか。先述の下町の鮨屋の大将は「10年後もこうして鮨屋を営んでいられるだろうか?と仲間と話しているんです。」と嘆息していました。いやはや10年後も、今と同じように鮨を楽しめるのでしょうか。