◆最近、立て続けに米国の大学を巡る司法判断のニュースが大きく報じられた。ハーバード大などの入学選考で黒人や中南米系を優遇するアファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)の是非が争われた訴訟で、米連邦最高裁は6月29日、措置が憲法に違反しているとの判断を示した。同最高裁は翌30日には、学生ローン返済の一部免除措置を無効とした。学生ローンの免除はバイデン政権の肝いり政策。来年の大統領選で再選を目指すバイデン大統領にとって痛手となった。

◆最高裁は夏休み前の6月下旬に判断を集中させる傾向があるが、昨年来、保守層寄りの判決が続き世論を沸騰させている。1年前にはリベラル派が求めた人工妊娠中絶の憲法上の権利を否定したり、連邦政府の環境保護局(EPA)には、CO2など温室効果ガス排出量を広範に規制する権限はないとする判断を示したことは記憶に新しい。

◆最高裁判事9人のうちロバーツ長官ら6人がアファーマティブ・アクションは違憲、学生ローン免除は無効との判断を示した。その6人はトランプ前政権が最高裁に送り込んだ保守派である。トランプ氏はホワイトハウスを去った後もなお、米国社会に影響を及ぼし、それが強烈な逆風となってバイデン政権に襲い掛かる。そうしたなかで米国は来年、大統領選を迎える。

◆最高裁の判断にまで保守・リベラルという政治色が影響するとなれば、言わずもがな司法の独立・中立性に疑念が生じる。アファーマティブ・アクションの措置が違憲であるとの司法判断は「法の下の平等」に反するからという理由だが、その「法の下の平等」という言葉自体、すでに空々しく響く。そんな法治国家で良いのだろうか。そんな民主主義で良いのだろうか。犠牲は米国の国民が払うのだ。大統領選まであと1年4ヶ月。米国の選択に再び注目が集まる。