S&P500の11分類のセクターのうち、時価総額1000億ドル超が7銘柄ある生活必需品セクター

S&P500は米国の主要産業を代表する500社で構成される株価指数です。構成銘柄の採用には時価総額や株式の流動性だけでなく業績も考慮されるため、優良銘柄が多いことも特徴の1つです。

構成銘柄は情報技術(IT)、ヘルスケア、金融、コミュニケーション・サービス、一般消費財、資本財、生活必需品、エネルギー、公益、不動産、素材の11セクターに分類され、各々セクター指数も算出されています。

11に分類されるセクターのうち、今回ご紹介するのは生活必需品セクターです。構成するのは37銘柄で、S&P500に占めるウエートは7.4%に達しています。

時価総額のベスト10はウォルマート(WMT)、プロクター・アンド・ギャンブル(PG)、コカ・コーラ(KO)、ペプシコ(PEP)、コストコ・ホールセール(COST)、フィリップ・モリス・インターナショナル(PM)、モンデリーズ・インターナショナル(MDLZ)、エスティローダー(EL)、アルトリア・グループ(MO)、ターゲット(TGT)となります。

【図表1】S&P500の業種別ウエート
出所:S&P Dow Jones Indices LLCの資料を基にDZHフィナンシャルリサーチ作成(2023年4月28日時点)

生活必需品セクターだけに米国での生活に密着したサービスや商品を提供する企業が並んでいます。食品・飲料メーカーや日用品メーカーが組み込まれているため、主力商品が米国を代表するナショナルブランドとなっているケースが圧倒的に多い印象です。

時価総額上位5社が持つブランドについては後ほど解説しますが、6位以下でも有力ブランドが目白押しです。フィリップ・モリス・インターナショナルは加熱式たばこの「アイコス」、モンデリーズ・インターナショナルはチョコレートの「キャドバリー」、キャンディーの「ホールズ」、ガムの「クロレッツ」、ビスケットの「オレオ」「リッツ」などのブランドで知られています。

エスティローダーは化粧品の「エスティローダー」「クリニーク」「ボビイブラウン」、コルゲート・パルモリーブ(CL)は歯磨き粉の「コルゲート」、モンスター・ビバレッジ(MNST)はエナジードリンクの「モンスターエナジー」、ハーシー(HSY)はチョコレートの「ハーシーズ」が主力ブランドです。

さらにキューリグ・ドクターペッパー(KDP)は炭酸飲料の「ドクター・ペッパー」やジンジャーエールの「カナダ・ドライ」、クラフト・ハインツ(KHC)はチーズ製品の「クラフト」やケチャップの「ハインツ」といったブランドが有名です。

このようなブランド製品は日本のスーパーマーケットでも普通に売られているものばかりで、世界市場でも確固たる地位を築いていると言えそうです。

ブランドは業界の合従連衡や度重なる再編劇の中で売買の対象となり、現在に至っています。現状では生活必需品セクターの時価総額で上位の企業が保有していますが、逆からみれば、このようなブランドを持つがゆえにその企業が上位にランクされていると言えるのかもしれません。

生活必需品セクターを構成する37銘柄の中で、2023年4月28日時点の時価総額が1000億ドル(約13兆6000億円)を超えるのは7銘柄に上ります。

【図表2】S&P500生活必需品セクター:時価総額上位の銘柄(百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成(2023年4月28日時点)

米国のライフスタイルに馴染みの深い生活必需品セクター5選

ウォルマート(WMT)、世界最大の小売事業者

生活必需品セクターの時価総額で首位に立つのは小売事業で世界最大のウォルマートです。売上高の世界企業ランキングとして知られる「フォーチューン・グローバル500社」では2022年版まで9年連続で首位。小売分野に限らず世界最大の企業と言っても過言ではないと思います。

ウォルマートを象徴する言葉は「エブリデー・ロープライス(毎日安い)」です。「Everyday low prices」の頭文字である「EDLP」は流通業界の用語集にはまず掲載されているほど浸透しています。

目玉商品の特売で集客するのではなく、常に低価格で商品を販売することで「いつ行っても安い」という顧客の信頼感を勝ち取る戦略と言えます。実現するには「エブリデー・ローコスト(毎日コストを抑える)」を実践する必要があり、サプライチェーンの効率化が不可欠です。

安定した大量仕入れが可能な小売大手ゆえに実現できる販売価格で競争力を高めています。「エブリデー・ロープライス」は単なるキャッチフレーズではなく、ウォルマートの企業哲学にまで昇華されていると言えそうです。

事業分野は3つに分かれています。中核事業の米国部門は2023年1月期の売上高に占める割合が69%です。巨大な総合スーパーマーケットの「スーパーセンター」、比較的小規模の「ネイバーフッド・マーケット」、安売りの「ディスカウント・ストア」に加え、モバイルアプリを通じたオンライン販売を手掛けています。

2023年1月末時点の米国内の店舗数は「スーパーセンター」が3,572店、「ネイバーフッド・マーケット」などが781店、「ディスカウント・ストア」が364店です。プライベートブランドでは「グレートバリュー」や「イクエイト」などを展開しています。

国際部門は売上比率が約17%です。メキシコやカナダ、中国、インド、ケニアなど合わせて19ヶ国で事業を手掛けています。英国と日本にも進出していましたが、2022年1月期に事業を売却し、撤退しました。

2023年1月末時点の店舗数は小売りが4,968店、卸売りが338店です。メキシコの事業規模が大きく、店舗の半数以上を占めています。また、インドでは傘下の電子商取引(EC)大手、フリップカートを通じてネット通販と店舗販売を融合させるオムニチャネルにも力を入れています。

サムズクラブ部門では米国で会員制のホールセールスーパーの運営を手掛けています。店舗数は600店で、売上比率は14%に上っています。

【図表3】ウォルマート(WMT):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は1月
【図表4】ウォルマート(WMT):株価チャート
出所:トレードステーション

プロクター・アンド・ギャンブル(PG)、日用品・トイレタリーの世界最大手

プロクター・アンド・ギャンブルは日用品・トイレタリーの世界最大手です。1837年にウイリアム・プロクター氏とジェームス・ギャンブル氏が立ち上げたビジネスが祖業で、創業者2人の名前が社名になっています。

約180の国・地域で事業を展開しており、英蘭系のユニリーバと世界市場でしのぎを削っています。世界展開するだけに国際イベントのスポンサーシップにも積極的で、代表的なものが五輪です。

五輪のスポンサーにもランクがありますが、プロクター・アンド・ギャンブルは世界中で14社にしか認められていない最上位のスポンサーです。国際オリンピック委員会(IOC)と契約した「ワールドワイドオリンピックパートナー」の1社なのです。

米国での事業の比率は高く、最大の顧客は生活必需品セクターで時価総額最大のウォルマートです。ウォルマートとその関連会社に対する販売が売上高の約15%を占めています(2022年6月期)。

事業分野別では衣料品&ホームケア部門が最大で、売上高に対する割合は34%です。洗濯洗剤の「アリエール」や消臭剤の「ファブリーズ」、キッチン洗剤の「ドーン」などが代表的なブランドです。

ベビー&ファミリーケア部門の売上比率は25%で、有名ブランドは紙おむつの「パンパース」や生理用品の「オールウェイズ」。美容部門は売上高に対する割合が18%に上り、シャンプーとコンディショナーの分野で「パンテーン」「リジョイス」といったブランドの知名度が高いようです。

ヘルスケア部門は売上比率が13%に達しており、歯ブラシと歯磨き粉の「オーラルB」に加え、のど飴やトローチの「ヴィックス」が主力ブランドです。身だしなみ部門は売上比率が8%と主要5分野の中で最も低いですが、電気シェーバーの「ブラウン」のほか、カミソリやシェービングクリームの「ジレット」などブランドは強力です。

【図表5】プロクター・アンド・ギャンブル(PG):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は6月
【図表6】プロクター・アンド・ギャンブル(PG):株価チャート
出所:トレードステーション

コカ・コーラ(KO)、五輪とサッカーW杯の最上位スポンサー

時価総額の3位はコカ・コーラです。世界最大級のソフトドリンクメーカーで、ボトリング企業にライセンスを供与するケースを含めれば、世界の200以上の国・地域で事業を展開しています。

コカコーラはプロクター・アンド・ギャンブルと同様に五輪の最上位のスポンサー「ワールドワイドオリンピックパートナー」の1社です。さらに国際サッカー連盟(FIFA)の最上位のスポンサー「FIFAパートナー(現在は7社です)」でもあります。

五輪とFIFAワールドカップでともに最上位のスポンサーになっているのは、世界中の企業の中でコカ・コーラとクレジットカードのビザ(V)だけです。広告費は莫大ですが、スポンサーとして露出する効果が高いのです。

コカ・コーラの全世界の飲料販売量は2022年にパートナーであるボトリング企業も含め、前年比4.5%増の約1857億リットルに達しました。炭酸飲料が全体の69%、「コカ・コーラ」が全体の46%を占めています。

飲料販売量に占める米国の比率は17%です。米国では炭酸飲料が61%と全世界に比べて低く、「コカ・コーラ」の割合は42%でした。

主力ブランド・商品には「コカ・コーラ」をはじめ、炭酸飲料の「スプライト」「ファンタ」、果実飲料の「ミニッツメイド」、ボトル水の「ダサニ」などがあります。また、日本発のブランドでは缶コーヒーの「ジョージア」、スポーツ飲料の「アクエリアス」、緑茶飲料の「綾鷹」などが海外でも一部の地域で販売されています。

【図表7】コカ・コーラ(KO):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表8】コカ・コーラ(KO):株価チャート
出所:トレードステーション

ペプシコ(PEP)、コカ・コーラの長年のライバル

時価総額の4位は飲料・食品大手で、やはり200以上の国・地域で事業を展開するペプシコです。コカ・コーラのライバルだけに製品の展開でも競い合っているようで、コーラでは「ペプシ・コーラ」対「コカ・コーラ」、レモンライム風味の炭酸飲料では「セブンアップ(米国外)」対「スプライト」、オレンジ風味の炭酸飲料では「ミリンダ」対「ファンタ」、果汁飲料では「トロピカーナ」対「ミニッツメイド」などそれぞれの分野で競合する商品があります。

ペプシコはスナック菓子ブランドを傘下に持っており、売上比率が大きいというコカ・コーラにはない特徴があります。主なブランドはポテトチップスの「レイズ」、トルティーヤチップスの「ドリトス」、チーズ風味のスナック菓子の「チートス」などです。

北米のスナック菓子事業の売上高(2022年12月期)は232億9100万ドルと全体の約27%を占めています。売上高は北米の飲料事業の262億1300万ドルに届きませんが、営業利益は61億3500万ドルと飲料事業の54億2600万ドルを上回る稼ぎ頭です。

一方、株式市場でペプシコは安定的に成長する企業という位置づけで、コカ・コーラと共通しています。配当にも積極的でコカ・コーラの61年連続の増配には及びませんが、それでも50年連続と増配が半世紀に及んでいます。

【図表9】ペプシコ(PEP):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は12月
【図表10】ペプシコ(PEP):株価チャート
出所:トレードステーション

コストコ・ホールセール(COST)、倉庫型の会員制スーパーを展開

時価総額の5位は会員制スーパーマーケットを展開するコストコ・ホールセールです。倉庫型の大型店舗を運営し、会員向けに製品を販売します。小売事業者向けにホールセール事業も展開しています。

米国に加え、カナダ、メキシコ、英国、スペイン、フランス、日本、韓国、中国、オーストラリアなどの海外にも進出しています。2022年8月末時点の店舗数は838店で、米国とプエルトリコが578店、カナダが107店、その他が153店です。

会員数は1億1890万人です。米国とカナダでは会員の更新率が93%、世界全体では90%に達しており、会員数は着実に増えています。

【図表11】コストコ・ホールセール(COST):業績推移(単位:百万ドル)
出所:RefinitivよりDZHフィナンシャルリサーチ作成
※ 期末は8月
【図表12】コストコ・ホールセール(COST):株価チャート
出所:トレードステーション