モトリーフール米国本社、2023年4月4日 投稿記事より

銀行破綻の原因を作ったのはベンチャーキャピタルであり、2008年の金融危機から何も学んでいない

ここ数週間に起きたポストモダンの銀行取り付け騒ぎを大きくしたのはベンチャーキャピタルであり、2008年の金融危機から何も学んでいないことが浮き彫りになりました。これを受けて、識者の間では、政府による監視の強化を求める声が高まっています。しかし、過去の教訓から学ぶべきは規制当局ではなく、中央銀行だったとしたらどうでしょうか。

シリコンバレー銀行とシグネチャー銀行をめぐる危機は、流動性の喪失という山火事を引き起こし、銀行システムに対する米国人の信頼を一夜にして揺るがしました。しかし、これが世界的な信用危機に発展することはありませんでした。

とはいえ、これら2つの出来事には大きな共通点があります。それは、20年に及ぶ超低金利時代によって、リスクの概念が再定義され、人々の金融行動が変化した直後に起こったということです。

確かに、銀行セクターは15年前と比べたら格段に強くなっており、地方銀行は健全性や自らの価値をたびたび証明しています。パンデミックの間、地方銀行は、メガバンクに相手にしてもらえない中小企業の顧客に対し、数十億ドルに上るPPPローン(中小企業の給与支援ローン)を提供しました。

3月30日に米政府は、中小の銀行や銀行システム全体への信頼を回復する方法は、2008年以降に制定された法律の主要要素を強化することであるとの見解を明らかにしました。しかし、それだけでは、金融に関する人々のトラウマは完全には消えないかもしれません。2000年以降に私たちが乗り越えてきた数々の金融不安の真の原因は、歴史的な低金利と、それによって生み出された安価なマネーへの中毒にあると考えられます。

パウエルFRB議長に敬意を表した上で、同氏が率いる米連邦準備制度理事会(FRB)について振り返ってみましょう。

資産と流動性

2008年9月にリーマン・ブラザーズが破綻した時、ウォール街は自らを省みることを余儀なくされました。2000年に始まった利下げにより、あらゆる規模の銀行が錯乱状態に陥っていたのです。資金調達コストは安く、どう猛な貸し手は陽気に浮かれ、休むことなく走り回っていました。米国の銀行はどこもサブプライムローンを抱え、銀行はそうしたローンを、金利が1%でもあれば何でも資産とみなす大手投資銀行に売却しました。

2007年頃には、ウォール街全体の資産のクオリティは悲劇的なレベルまで低下していました。フェデラルファンド(FF)金利は、2000年の6.5%超から2004年には1%まで低下し、その後2006年半ばには再び5%超まで急上昇しました。これはまるで、FRBが、間違った判断であふれた暗い部屋に朝日を入れようと、カーテンを開けたようなものでした。

危機の後に生まれた法律(特にドッド・フランク法)は、新たな自己資本規制の導入とストレステストの実施によって銀行を規制することに主眼を置いていました。しかし、完全にパニックに陥ったFRBは、2008年末までに金利を実質的にゼロまで引き下げ、経済に大量に流入する安価な資金が景気回復を促進することを期待しました。

ドッド・フランク法は、銀行の統合も促しました。

・米連邦預金保険公社(FDIC)のデータによると、FDICが保険対象とする銀行の数は、2007年の7,290行から、2012年にはわずか6,089行に減少しました。

・2007~2012年の間に、米国の金融機関同士の合併は22件ありました。

中小銀行は、主に大都市圏の外にいる中小企業を支援し、融資を提供するという点で、経済において重要な役割を果たします。しかし、米国内の銀行数は、2021年までに4,237行になっていました。

では、なぜ銀行は好景気の中で成長しなかったのでしょうか。

原因は金利にある

2008年以降に制定された法律も、ほぼ2世代にわたる米国人が超低金利の時代しか知らないという事実には、太刀打ちできませんでした。その結果、彼らは、銀行に預金すれば利息を払ってくれるという高金利のメリットを経験したことがなかったのです。

1980年当時、FF金利は19%を超えており、顧客にとって銀行にお金を預けることは当たり前のことでした。ところが、それから40年以上が経ち、現代のミレニアル世代やZ世代の預金者は、1つの銀行に忠実でいることは古臭い考えだと思っているのです。

例えば、金融危機が混乱を極めていた時の大学2年生は、平均すると現在35歳で、家庭を持ち、住宅ローンを組み、中小企業ローンを抱えている年頃です。彼らが成人になって貯蓄口座を持つようになって以降、彼らの口座はほとんど利息を生み出しておらず、銀行との関係においてはやや特殊な世代と言えます。

一言で言うと、銀行にとって低金利は好ましくありませんが、金利の高騰もあまり嬉しくありません。特に、2022年と2023年のFRBの積極的利上げを十分に予期していなかった場合は、なおさらです。

金融情報サイトBankrateのチーフ金融アナリストであるグレッグ・マクブライド氏は、「金利が40年ぶりの急激な上昇を見せれば、誤った判断が露呈することになる」と述べています。

しかし、金利がゼロを大幅に上回る水準で安定すれば、中小銀行でも成功できることは証明済みです。

NIMの秘密

純金利マージン(NIM)は、多くのアナリストが銀行の収益性を測定/予測するために使用する重要な指標です。NIMは、金融機関が住宅ローンや企業向けローンといった長期クレジット商品から得る利益と、預金口座に対して支払う利息の差です。

2008年以降に見られた中小金融機関の統合は住宅ローン危機の後遺症であり、NIMが小さいまたはマイナスの小規模銀行は、その弱い融資基盤を吸収できる銀行との統合を余儀なくされました。米国の銀行の平均NIMは、金利がゼロに近付くにつれて低下していましたが、パンデミック前の利上げ局面では順調に上昇しました。

その間、最も恩恵を受けたのは、地域密着型で経営が順調な金融機関でした。

・BankRegDataによると、2022年末時点で、資産規模が500億~990億ドルの米国の銀行のNIMは最も高く、平均3.87%であった。

・これがシグナルだったのかもしれませんが、シリコンバレー銀行とファースト・リパブリック銀行の資産はどちらも2,000億ドルを上回り、シグネチャー銀行も1,000億ドルを優に上回っていました。そして、3行ともNIMは2.9%を下回り、中でもシリコンバレー銀行は2%でした。

2023年に入って金利は一段と上昇していますが、イールドカーブが逆転していることから、銀行は長期債よりも短期証券を積極的に保有しようとするため、平均NIMに悪影響が及んでいます。

マクブライド氏は、「イールドカーブが深く逆転しているため、NIMにとっては悪材料です。この状況が続く限り、中小銀行から大手銀行への預金の流出は加速し続けるでしょう」と述べました。

もう1つ、逆イールドが阻害要因となるのが、新しい銀行の設立です。

新銀行は誕生するのか

2008年の金融危機で瀕死の重傷を負ったことを銀行が反省したのか、安価な資金が「破壊的な」ハイテクスタートアップ企業に流れ込む中、銀行業に新規参入する企業はほとんどありませんでした。

「de novo bank」(de novoとはラテン語で「最初から」という意味です)と呼ばれる、いわゆる新銀行は、銀行サービスが行き渡っていない地域に新たに設立される金融機関を指します。2008年以降、de novo銀行の成長は過去に例を見ないほど停滞しており、銀行システム内の預金と資産は集約され、今回のシグネチャー銀行の騒ぎにつながりました。

de novo銀行の成長は、住宅ローン危機が収束するにつれて、銀行関係者も心配していたことで、それには理由がありました。金利がゼロに近い状況で小規模銀行を設立することは、投資家にとって魅力的ではないからです。

・FDICのデータによれば、2006年に179件の銀行設立免許が発行されましたが、2012~2016年に発行されたのは合計で3件でした。

・2010年以降に発行されたde novo銀行の設立免許61件の多くは、融資ビジネスの立ち上げを目指す非従来型企業によるものでした。

業界再編により、JPモルガン・チェースは米国の銀行の中で資産規模が第3位から第1位に躍り出ました。このトレンドは、2015年にFRBが利上げを開始し、経済がそれに対応できると確信されても続きました。

プライベート・エクイティなどの投資家から多額の資本が出てくるようになると、利上げを機にde novo銀行の魅力が高まり、2017~2019年には25件の銀行設立免許が発行されました。de novo銀行の人気は高く、投資アプリのロビンフッドも2019年に一度申請しましたが、その後撤回しました。

そして、パンデミックが発生しました。経済を支えるための苦肉の策として、FRBは金利をさらに引き下げ、流動性を維持するために国民向けの現金給付を実施しました。銀行を通じたPPP資金の提供を急ぐ中で、政府は当初は大手金融機関を頼りにしていましたが、そのうちに、中小企業と既に関係を築いている中小の地方銀行の方が、顧客管理の事務作業を的確に進めるのに適していることが明らかになりました。

しかし、規制当局が中小銀行の果たす重要な役割を再認識し始めた一方で、金利は再びゼロ付近まで低下しました。

安価な資金への依存が深刻化した結果、ハイテクスタートアップ企業のバリュエーションが過度に押し上げられ、例えばWeWorkは上場前の評価額が420億ドルに上りました。それと同時に、ゼロに近い金利は熱狂的な新規株式公開(IPO)市場を生み出し、特別買収目的会社(SPAC)に新たな命を吹き込み、暗号通貨を膨張させ、プライベート・エクイティを資本の要塞へと変えました。また、超低金利のおかげで、シリコンバレー銀行などの金融機関は、ドッド・フランク法などの新規制によって不可能になったはずのリスク志向をますます強めていきました。

この間に、米国人は銀行口座に資金を預けることにメリットを見いだせなくなり、新銀行が設立される可能性は断たれたのです。

規制当局が何を知っていたのか、いつ知ったのか、そして今後何を知るべきなのか、今後数週間から数ヶ月かけて議論することになりますが、銀行は私たちが思っているほど弱くないということを心に留めておいてください。とはいえ、FRBがインフレを抑制できる程度の利上げと銀行の再生のバランスを取ることができるようになるまでは、脆弱な状況が続くと思われます。

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