3月の振り返り=金融システム不安で米ドル安へ急反転

米短中期の金利が、リスク回避の金利低下を主導

3月の米ドル/円は、金融システム不安が急浮上したことにより、米ドル高・円安から米ドル安・円高へ急反転となりました(図表1参照)。まず3月がスタートしたところでは、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の議会証言をきっかけに、米利上げ見通しが上方修正されるとなったことから、米金利上昇に連れる形で米ドル/円も138円寸前まで上昇しました。ただ、SVB(シリコンバレー銀行)という米銀の経営破綻をきっかけに金融システム不安が浮上すると、「米金利低下=米ドル安」へと流れは一変しました(図表2参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2023年1月~)
出所:マネックストレーダーFX
【図表2】米ドル/円と日米10年債利回り差(2022年10月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

金融システム不安の浮上により、リスク回避で金利が低下する。そうした流れを主導したのは短中期の金利でした。例えば、米2年債利回りは上述のようにパウエル議長の議会証言後は米利上げ見通しの上方修正に伴い5%まで上昇しましたが、金融システム不安が急拡大に向かう中で一時は3.7%程度まで、つまり最大で1%以上の大幅な低下になりました。一方、米10年債利回りは4→3.3%といった具合に、低下幅は最大でも0.7%程度だったので、比較すると米2年債利回りの低下の激しさが分かるでしょう(図表3参照)。

【図表3】米2年債および10年債の利回りの推移(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

基本的に、米国の短中期金利は米国の金融政策を参考に変動します。その意味では、米2年債利回りが一時4%を大きく下回るまで低下し、3月22日のFOMC(米連邦公開市場委員会)で4.75~5%まで引き上げられた政策金利のFFレートを1%以上と大幅に下回る動きとなったのは、早期の大幅な利下げを織り込む動きと言えるものでした(図表4参照)。

【図表4】米2年債とFFレート(2018年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米金利の見通しでFRBと市場が対立する状況の中、株価は下げ渋りに

FOMC後の記者会見で、パウエルFRB議長は年内の利下げを否定したにもかかわらず、金利市場は金融システム不安の影響からリセッション(景気後退)へ転換する可能性が高まり、早ければ6~7月の利下げも織り込むといった具合で、米金利の見通しを巡りFRBと市場は真っ向から対立する状況となったわけです。

こうした中において、株価は意外に下げ渋る動きとなりました。NYダウは2月高値からの下落率も最大で7~8%程度にとどまり、さらに金融システム不安が拡大に向かった3月中旬以降は金利低下を好感したように反発気味の展開となったのでした(図表5参照)。これは、早期のリセッションへの転換、それを受けた大幅利下げを織り込む米金利低下からは違和感を覚えるものでした。

【図表5】NYダウの推移(2020年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

金融システム不安が拡大する中で、米金利低下に連れる形で米ドル/円も一時130円割れとなりました。ただその後は、3月末にかけて133円台まで米ドル反発となりました。これは、金融システム不安を受けて早期の大幅利下げを織り込む米金利低下の修正が入った影響が大きいでしょう。

4月の注目点=米金利の動向、そして日銀金融政策決定会合

米金利の行方はインフレ指標もヒントに

以上を踏まえると、4月の米ドル/円は引き続き米金利の動向が最大の注目点となりそうです。具体的には、金融システム不安を受けた米金利低下はまだ続くのか、それとも「下がり過ぎ」修正で反発に向かうのかということです。

それを考える上で、4月に発表される米国の景気指標、インフレ指標が注目されることとなるでしょう。なお、金融システム不安の影響は限られそうですが、4月27日に発表される予定の1~3月期の米GDP成長率・速報値について、「早読み」で定評のあるGDP予測モデルのアトランタ連銀「GDPナウ」は、3月31日時点で2.5%としていました。

金融システム不安の米経済の影響を3月までの景気指標で確認するにはまだ限界があるため、基本的に景気を先取りして動くと位置付けられる株価の動向が参考になるのではないでしょうか。仮に株安が大きく広がるようなら、リセッションへの転換による早期利下げ期待を受けた米金利低下が再燃する可能性はありますが、株安が広がらないようなら、金利低下「行き過ぎ」の修正が続く可能性があるでしょう。

植田新総裁の「デビュー戦」でYCC撤廃への動きがあるか?

4月28日には、日銀の植田新総裁が出席する最初の金融政策決定会合が予定されています。ここで早速、黒田総裁の下で行われた金融緩和政策の見直しがあるか、それも実は米金利の動向が鍵になるかもしれません。

黒田総裁の下で、日銀は2022年4月に10年債利回りの上昇を0.25%で阻止することを決定し、同年12月にこの上限を0.5%に拡大することを決定しました。前者は米10年債利回りの上昇が加速に向かったタイミングであり、後者はそんな米10年債利回りが低下に転じたタイミングでした(図表6参照)。

【図表6】日米の10年債利回りの推移(2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

日米の10年債利回りは基本的に連動するので、YCC(イールドカーブ・コントロール)と呼ばれる政策の中で行われている日銀の10年債利回りの上昇阻止策見直しも、米金利の動向が1つの判断材料になっている可能性はあるでしょう。

経済学者の植田新総裁からすると、10年債利回りといった長期金利は中央銀行でも基本的にはコントロールできないとの考えから、10年債利回りを政策目標としているYCCは止めたいというのが本音ではないでしょうか。それを植田新総裁の「デビュー戦」となる4月の会合で早速行うかどうかは、米金利のピークアウト、低下傾向が続いているかが鍵になりそうです。仮に、4月会合でYCC撤廃となれば、瞬間的には円金利上昇に伴う円高リスクを試す展開となりそうです。

以上、4月の米ドル/円に影響しそうな材料を点検してきました。基本的には、早期の大幅利下げを織り込むほどに大きく低下した米金利の動きが行き過ぎで、その反動から「米金利上昇=米ドル高」へ戻りを試す展開が中心になると考えています。一方で日銀の金融緩和見直しに伴う円高リスクとの綱引きもありそうです。それらを踏まえると、一方的に円安、円高に動くというより、130~137円中心で上下動を繰り返す展開を想定したいと思います。