スイスの金融大手・クレディ・スイスが経営危機に陥り、ライバルのUBSが買収することになりました。これでスイスの大手銀行はひとつになります。かつてスイスには、UBS、クレディ・スイスの他にもSBCという大手銀行がありました。3つあった金融大手が、ひとつになってしまったということです。
SBCはかつて、シカゴにあったオコーナー(O'Connor)という優れたトレーディング・ハウスを買収しました。オコーナーは、多くのトレーダーを抱えていた会社なのですが、マーケットの引け後に全てのトレーダーのポジションを会社ポジションというひとつのアカウントに移し、他のトレーダーのポジションと相殺されなかったポジションは翌日以降淡々とマーケットで反対売買をし、一方トレーダーは翌日会社に来ると、全てのポジションは白紙になっていて、自らの過去の(昨日の)判断に囚われずに、自由に新しくトレーディングする、という仕組みを考えた会社です。
ノーベル経済学賞を取ったプロスペクト理論によって明らかにされたトレーダーの弱点を取り除く工夫を、ノーベル賞で認められる数十年前から実行していた、リスク管理にとても長けていた会社です。オコーナーはSBCに買収されましたが、新SBCのリスク管理部門はオコーナーの残党が牛耳ったと云われています。そしてSBCはいずれUBSに買収されることになるのですが、その後もリスク管理部門はオコーナーの残党、もしくはその系列の人が担当したとまことしやかに云われています。そして今回、UBSがクレディ・スイスを買収。やや感傷的な、或いはこじつけ的な話の構成ではありますが、リスク管理の大切さを思い知らされるエピソードだと思います。
このことは片や「国」という単位でも同じことが云えると思いますし、片や「個人」の人生でも同様です。リスク管理とは、リスクを取らないという意味ではありません。リスクを常に認識して、時と場合に依っては迅速にリスクを減らし、或いはなくす決意と姿勢を持つことで、リスクを取ることを可能にする、という意味です。肝に銘じておきたいですね。