140円手前から米ドル急落が起こった2022年

米ドル高・円安が続いている。こうした中で一部のトレーダーは、2022年7月に140円手前で急ブレーキを踏んだ米ドル高・円安が「高転び」、つまりほんの半月ほどで130円寸前まで米ドル安・円高へ向かったケースを思い出し、不安を覚えたかもしれない(図表1参照)。ただ、当時と最近ではまだ状況が異なるため、円安が一段落した後でもすぐに円高へ急転換するというリスクは、基本的には低いのではないか。

【図表1】米ドル/円の週足チャート(2022年1月~)
出所:マネックストレーダーFX

2022年7月と最近を比較した時、大きく異なっているのは米ドル/円の90日MA(移動平均線)かい離率だ。2022年7月前半に米ドル高・円安が140円手前で一段落した時、90日MAかい離率はプラス10%近くまで拡大していたのに対し、足元ではほぼ0%(図表2、3参照)。要するに、2022年7月前半は、米ドルが短期的にかなり「上がり過ぎ」懸念が強くなっていたのに対し、足元はほぼニュートラルにあると見られる。

【図表2】米ドル/円の90日MAかい離率(2000年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
【図表3】米ドル/円の90日MAかい離率(2022年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

2022年7月にかけて、米ドル/円はほんの3ヶ月余りで25円以上もの大幅高を演じていた。こうした中では、90日MAかい離率が示していたように短期的な米ドルの「上がり過ぎ」懸念が強くなっていたことも確かにうなずける。

一方で、最近にかけても約1ヶ月で10円程度の米ドル高・円安となったが、この米ドル高・円安がスタートする前は、90日MAかい離率で見ると米ドルは短期的に「下がり過ぎ」の状況にあった。要するに、「下がり過ぎ」の是正が進む中で、ここまで米ドル高・円安に戻してきたに過ぎないわけだ。

2022年7月は、140円の大台手前で米ドル高・円安が一服すると、下旬に開かれたFOMC(米連邦公開市場委員会)を受けて米利上げがFFレート3.5%程度で終了するといった観測も浮上したことから、米ドルの短期的「上がり過ぎ」修正が本格化した。それが、140円手前から短期間に130円割れ寸前までの米ドル急反落、「高転び」を起こすことになった基本的な背景だったと考えられた。

これに対して、足元では3月7日のパウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長の議会証言を受けて、むしろ利上げ加速観測が浮上している。米ドルは「高転び」どころか、むしろ米金利上昇を手掛かりに短期的な「上がり過ぎ」をどこまで拡大できるかを試す局面が続きそうな状況になっているだろう。