みなさん、こんにちは。2023年の株式市場は非常に低調な滑り出しとなりました。金利や物価の上昇、さらには増税観測などが株価の重石となり、日経平均株価は2022年10月以来の安値圏に沈んでいます。

それでもまだ「底打ち感」が広がっていないところが頭の痛いところでしょう。当面は軟調な展開と割り切り、安値をコツコツと拾う「仕込み」の局面と臨みたいと私は考えています。

当面の為替動向はまだ大きな変動を秘めている

さて、今回は改めて「円高」をテーマに採り上げてみましょう。実は前回のコラムで金利について採り上げた際、「これまでの円安シナリオが逆回転し、円高へと流れが転換すれば、円高メリットの発生する銘柄には追い風が吹くことになるはず」と解説しました。

また、「金利上昇に伴う景気減速の影響が円高メリットを減殺する可能性があるため、景気連動性が比較的低く、製品や原材料の海外仕入れ比率の高い企業などが投資対象候補となり得る」とも位置付けています。

このように前回のコラムで既に円高について触れているのですが、金利の上昇圧力から円高が進行するに従い、再度投資方針についてまとめてみようと考えました。

結論的には、現時点においても前回のコラムで解説した内容に全く変更はありません。しかし、当面の為替動向はまだまだ大きな変動となる可能性が燻っています。そこで、本コラムではもう少し具体的に、注目される業種などについて言及してみたいと思います。

円高メリットが発生する構造と業界

一般的に、円高メリットが発生する構造というのは、外貨建て(主に米ドル。もしくは米ドルにリンクする)の仕入れが多く、同時に円建て(もしくは円にリンクする)売上も多いが、その条件となります。

これ以外の構造でも間接的なメリットを享受できる業界は確かにあります。しかし、為替が高いボラティリティで動いている局面では、そのような間接メリット的な業界への注目度はそれほど高まらないことから、ここでは議論をシンプルにするため、対象から外して考えることにします。

さて、外貨建ての仕入れ、円建ての売りというのはどのような業界になるのでしょうか。まず思いつくのは、原材料の輸入依存度が高い食品業界や紙・パルプ業界、海外生産が浸透した生活雑貨業界などでしょう。

実際、これらは既に円高メリット業種として広く知られており、円高局面では真っ先に注目される業界群となります。これら業界以外でもそのような企業は結構存在しています。

例えば、旅行業界では日本人向け海外旅行が円高メリット業種として思い浮かぶところでしょう。気になった企業があれば、各社のHPなどから実際にモノやサービスの流れがどうなっているかを調べてみるのも良いかもしれません。

円高メリットがある「例外」の業界とは

ただし、上記の構造ではあるものの、円高メリットがある業界とは認識され難い「例外」のケースもあります。例えば、石油や電力・ガスといったエネルギー業界です。

石油などは、ほぼ100%が輸入であり、ガソリン代や電力価格は円建てであるため、直感的には石油業界や電力業界にも円高メリットがあるように思えます。

しかし、ガソリン価格や電力価格といった売値は、一定のタイムラグを置いて原料調達価格とリンクする方式が定められています。そのため、円高で仕入れ安とはなっても、そのメリットは一定期間しか発生しないのです。

為替に注目した投資における注意点

逆もまた然りです。円安や原油高で今上期の電力会社は軒並み赤字決算を余儀なくされましたが、新年度に予定されている値上げによって損益は大きく改善し、通常モードへと回帰する見通しです。

これらエネルギー業界における為替の影響は、せいぜい半年程度しか発現しない「時限的な影響」なのです。円高(円安)メリットとして一括りにして考えると、前述の恒常的メリットの発生業界と時限的なメリットに留まる業界が混同されてしまいます。時間軸が異なる以上、この両者に対する投資スタンスは異なるはずにも関わらず。そのため、為替を軸に投資判断を下す際には、是非ともこの点は注意していただきたいところです。

時間軸の視点を、もう少し掘り下げると恒常的メリットが発生する業界においても、最も投資妙味があるのは実は「円の先高感」が台頭した時であり、円高が進んだ時ではないことにも留意が必要です。

基本的に円高がどれだけ進んだかという現象そのものは、株式市場においては即座に株価に織り込まれてしまい、それで終了です。現実はそれ以上に株価が反応するケースも少なくありませんが、それは、「この先も円高がさらに進行するのでは…」という観測が株価を牽引するためです。株価が現実を先回りするという構造と言えるでしょう(株価が経済の先行指標になるというのはそういった背景があります)。

言い換えれば、仮にかつてに比べて円高(円安)水準であったとしても、その水準で安定していれば、もはや円高(円安)メリット業界は注目されなくなります。為替に注目した投資は、為替が一方向に継続的に変動するという観測の台頭が必須であるということを忘れないようにしたいところです。