2023年のニューヨーク金先物価格(NY金)は、2020年8月の最高値(取引時間中2,089.20ドル、通常取引終値2,069.40ドル)に接近し、そして超える相場が到来するとみている。2022年は、年明け以降に加速した米国のインフレ高進と、ロシアによるウクライナ侵攻が重なった3月に2,000ドルの大台を突破する局面が見られたものの、上値は2,078.80ドルまでで高値更新には至らなかった。
一貫した米ドル高に上値を抑えられた2022年下半期
2022年のNY金は3月の2,000ドル突破以降は、一貫して米ドル高が売り手掛かりとなり、11月初旬に向け下値を切り下げることになった。米連邦準備制度理事会(FRB)によるインフレ抑制の異例の大幅利上げが、そのまま米国とそれ以外の主要国との金利格差を一気に広げ、米ドルが独歩高状態となった。
ユーロを中心に、円や英ポンドなど6通貨で構成されるドル指数(DXY)をNY金の主たるプレイヤーであるファンドは取引の指標としており、DXYの動向をNY金の売り手掛かりとするプログラム(アルゴリズム)が組まれている。DXYとNY金の逆相関性を捉えたもので、DXYの上昇はNY金の売り手掛かりに、逆に下落は買い手掛かりとなる。
2022年の年始95ポイント台でスタートしたDXYは、4月中旬に100ポイントを突破すると、9月末まで一貫して水準を切り上げた。9月28日に20年ぶりの高値となる114.778に達し、その後は11月初旬まで113ポイントを挟んだ水準で高止まりした。この間、通常1回あたりの3倍にあたる0.75%の利上げを4会合(米連邦公開市場委員会、FOMC)連続で実施した、FRBによる歴史的な引き締め策を映した上昇だった。
この間、NY金はDXYの上昇に沿って、ショート(売り建て)を積み増すファンドの動きで、一貫して水準を切り下げながら推移した。
DXYが20年来の高値に到達した9月28日には安値1,622.20ドルを記録。その後反発し1,730ドル台まで値を戻すも、そこから高止まるDXYに加え、米長期金利(10年債利回り)が15年ぶりの高水準となる4.3%台まで上昇したことで売り直され、11月3日には1,618.30ドルと20年4月以来2年半ぶりの水準まで売り込まれることになった。
この段階で、過去2年半にわたる1,700~1,900ドルの中心レンジの下限を大きく下回り、売られ過ぎの領域と言えた。高止まりするDXYに加え米長期金利の急伸が背景にあった。
2022年は1ヶ月半190ドル高のショートカバーラリー、年初の水準である1,800ドルをやや上回る水準に
その後、10、11月分の米消費者物価指数(CPI)の伸びが鈍化し、またFRBが政策金利の引き上げ幅の減速を示唆したことから、DXYが一転103ポイント台まで反落するとNY金は大きく反発。元々下げの主体が先物市場におけるファンドのショートであることから、DXYの急反落による買い戻し(ショートカバー)が急反発につながった。
いわゆるショートカバーラリーによる上昇に、12月に入ると新規買い(フレッシュロング)が加わり、11月の安値から6週間弱で10%強、190ドルほど値を戻し、年初の水準である1,800ドルをやや上回る水準に復帰した。
戻りの過程で50日、100日、そして12月に入って以降は200日とそれぞれ移動平均線を上回り、テクニカルも好転した。つまり、2022年のNY金は、ほぼすべてDXYとそれに沿ったファンドのロボット・トレード(アルゴリズムの自動売買)で形作られたと言えるものだった。
過去最高値トライから更新を見込む2023年の金(ゴールド)
それでは2023年の展開をどう読むか。冒頭で述べたように、再度2020年8月の過去最高値超えにトライし、突破するとみているが、そのポイントが以下になる。
FRBの利上げサイクルが終盤に入り、米ドル高を基調とした2022年までの金融環境が大きく変化、DXYは100ポイント割れに
1.「FRBはどこまで利上げするのか?」というターミナルレート(利上げの最終到達点)に関する不透明感が3月FOMCをめどに払拭される。
2.FRBによる累積利上げ効果が顕在化し、米景気後退懸念が高まり、米国株は2022年に記録した安値をさらに更新。安全資産としてのゴールドの見直しが進む。
3.一定のインフレ傾向は続き、その中での景気後退、スタグフレーションが意識される。1970年代のスタグフレーション環境下、NY金は大きく水準を切り上げた歴史的背景がある。
地政学リスクの上昇
1.長期化したウクライナ戦争はロシア側の動きで新たな展開へ。仮にロシアによる核使用の懸念が高まれば、NY金は大きく水準を切り上げる可能性があり、高値更新につながる可能性はあるものの注意が必要である。急伸相場の持続性に疑問あり。
2.世界経済のブロック化などの影響は複数年にわたり、「新有事の金」としてNY金を刺激する。
3.米中間の政治的摩擦の高まりで、明らかなNY金の押し上げ材料というよりも下支え要因になる可能性がある。
ねじれ状態の米新議会、膠着する議会がリスク要因に
1.2023年上半期に上限に達する見通しの連邦債務上限(現在31兆4000億ドル)の引き上げをめぐる議会の紛糾の懸念あり。累積債務は2022年10月時点ですでに31兆ドルを突破している。
2.2011年8月に「決められない政治」を理由に格付け会社現S&Pグローバルが米国債を1ランク格下げし、国際金融波乱の中、11営業日でNY金は240ドル急騰の経緯がある。
中央銀行による継続的な買い
1.新興国を中心とした中央銀行の継続買いで締まる現物需給。
2023年の展開は、5月にかけての前半と9月を想定する後半に高値をつける、2つの山を想定している。