エクソン・モービル株価は年初来で6割程度上昇

米石油大手のエクソン・モービル(XOM)は、四半期ベースの業績が過去最高益を記録したことを踏まえ、米国の従業員に対してインフレ率を上回る賃上げを実施すると伝えられた。平均昇給率は9%、エクソンにとっては過去15年間で最大の賃上げとなるそうだ。

エネルギー価格の高騰を背景にエクソンの業績は好調だ。10月28日に発表した第3四半期の純利益は196億6000万ドルとなり、同じ期間のアップル(AAPL)の純利益207億ドルに迫る水準となった。2022年はテクノロジー業界や金融業界などが人員削減を実施する等、先行きに対する懸念が高まっている一方、オールドエコノミーである化石燃料業界の復活と好調ぶりが特徴的である。

S&P500指数は年初来で約2割近く低下しているのに対し、エクソンの株価は年初来で依然として6割程度値上がりしている。

【図表1】S&P500指数(青)、エネルギーを除いたS&P500指数(緑)、S&P500エネルギー指数(赤)の1年間の推移
出所:S&P Dow Jones Indicesのデータより筆者作成

エネルギー業界の復活が鮮明となる中で、さらに今後、収益に大きく貢献するのではないかと想定されている事業がある。二酸化炭素の回収プロジェクト「CCS」だ。地球温暖化対策として世界各国の企業が今、CO2の回収、貯留技術であるCCSの開発にしのぎを削っている。

CCSとは「Carbon dioxide Capture and Storage」の略で、発電所や化学工場などから排出されたCO2を他の気体と分離させた上で回収し、地中深くに圧入、貯留する技術のことである。資源エネルギー庁のホームページによると、国際エネルギー機関(IEA)の報告書では、パリ協定で長期目標となった「2C°目標」を達成するため、2060年までのCO2削減量の合計のうち14%をCCSが担うことが期待されていることを紹介している。

日本では2022年5月に、石油大手ENEOSホールディングス(5020)と電力大手の電源開発株式会社(9513)がCCSの事業化に共同で取り組むと発表した。事業開始予定は2030年で、完成すれば国内初の本格的なCCS事業となる。

さらに、世界では「CCS」を発展させた「CCUS」にも期待と注目が集まっている。「CCUS」は「Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage」の略で、CCSで回収したCO2を、貯留するだけではなく、他のものに利活用する技術だ。

例えば米国では、CO2を古い油田に注入し、油田に残った原油を圧力で押し出しつつ、CO2を地中に貯留するというCCUS事業がすでに行われており、CO2削減と石油の増産が同時に実現できるビジネスとして成立していると言う。

エクソン・モービル、低炭素事業への投資を加速

一方で、CCSとCCUSを事業化するにあたっては、課題も多く存在する。最も大きいのがCO2を分離し回収する際にかかるコストだ。また、十分な量のCO2を貯留するための地層を探し出すのも、容易なことではないと言う。

エクソンは30年以上にわたってCO2を回収し、輸送して地層へ安全に注入するという実績を持っており、現在も技術を磨いてきている。さらにこれまで化石燃料の掘削をしてきたことから、回収したCO2を貯留するための地層をすでに持っている。これはCCSとCCUSを手がけるにあたり有利な点である。

4月20日付のロイターの記事「CO2回収・貯留、2050年までに市場規模4兆ドル=米エクソン」によると、エクソンはこの分野の市場規模が2050年までに4兆ドルになるとの試算を明らかにしている。同時期の石油・ガス市場の規模が6兆5000億ドルと推計されているため、CCS事業はその6割程度に相当することになる。

エクソンは、2023年のエネルギープロジェクトへの投資額を230億~250億ドルとする計画を明らかにした。2022年の予測220億ドルからの増額となる。2027年までは毎年200億~250億ドルの投資を計画しており、脱炭素の潮流で化石燃料への風当たりが強まるなか、低炭素事業への投資も加速し、水素や二酸化炭素の回収・貯留(CCS)などを事業の柱に育てるとしている。

米国インフレ抑制法による税額控除で8000万ドルの節約効果

サウジアラビアの国営石油会社であるサウジアラムコも、エネルギーの安定供給とカーボンニュートラルの両立に向け、このCCS及びCCSU事業に取り組む方針を示している。実際に、サウジアラビア東部にあるハウィヤのガスプラントにおいてCO2の回収技術を用い、日量4000万標準立方フィートのCO2回収を行っている。

回収されたガスはパイプラインで85キロ先にあるウスマニヤ油田まで送られ、油層に注入されている。CO2を貯留するだけではなく、油層内圧力の維持やEOR(Enhanced Oil Recovery:石油増進回収)としても活用されているという。

様々な技術革新により、CO2を無期限に除去し貯留できるようになってきた。さらに、CO2を市場取引可能な工業・商業製品に転換することで、これまで廃棄物とされていたCO2に価値が与えられることになる。

この分野が注目を浴びている理由はもう1つある。それは8月に米国で可決されたインフレ抑制法(IRA)に含まれる税制優遇措置だ。11月19日付のCNBCの記事「The big new Exxon Mobil climate change deal that got an assist from Joe Biden(ジョー・バイデンからの支援を受けたエクソン・モービルの気候変動に関する新しい大型契約)」によると、8月に成立したインフレ抑制法は、エクソンの手がけているようなCCS取引がトレンドになるかどうかを決定づけるかもしれないと指摘している。

2022年10月、エクソンは石油ガスのパイプライン輸送を担う米エンリンク・ミッドストリーム(ENLC)の子会社エンリンク・ミッドストリーム・オペレーティングと、アンモニア・窒素系肥料メーカーのシーエフ・インダストリーズ・ホールディングス(CF)と、ルイジアナ州におけるCO2の回収、貯留プロジェクトで提携すると発表した。

このプロジェクトで、CFインダストリーズはルイジアナ州の製造拠点から排出される年間最大200万トンのCO2の回収を担い、エクソンはエンリンクのパイプライン輸送ネットワークを利用して、12万5,000エーカー(約506平方キロ)のCO2貯留地を開発するというもので、2025年初頭に開始する予定だ。

ルイジアナ州は2050年までにCO2排出量の実質ゼロとする目標を掲げており、このプロジェクトはこうした目標を支援するものとなる。10月13日付のジェトロのレポート「米エクソン・モービルがエンリンク、CFインダストリーズとルイジアナ州のCCSプロジェクトで提携」によると、CO2を年間200万トン回収できるようになれば、ガソリン自動車約70万台を電気自動車(EV)に置き換えることに相当するとのこと。

8月に成立したIRAでは、産業用途からの炭素回収に対する税額控除を拡大することが盛り込まれており、炭素回収に対する既存の税額控除が1トン当たり45ドルから85ドルに引き上げられる。前述のCNBCの記事によると、エクソン/CF/エンリンク・プロジェクトは年間8000万ドルもの節約になると、ゴールドマンサックスは述べたという。

こうした動きは、大手石油会社の低炭素化ビジネスの将来を占う上で重要な意味を持つ可能性がある。製造業が排出する炭素の処理における新たなステージの到来を告げるものであり、あらゆる産業、あらゆる分野、あらゆる地域の企業が関心を寄せている。石油会社にとっては、排出量の削減を求める投資家からのプレッシャーを緩和させる可能性もある。

一方でCCSやCCUSには環境学者などから批判的な意見もある。前述のCNBCの記事では、コンサルティング会社Third Bridgeの産業・材料・エネルギー調査部門グローバルリーダーのコメント「炭素回収は大物たちのゲームに過ぎない」を取り上げている。

コモディティは価格下落サイクルを終え、上昇サイクルに突入

12月15日付のブルームバーグの記事「ゴールドマン、商品が2023年の最良の資産クラス-リターン43%見込む」によると、ゴールドマン・サックス・グループが商品(コモディティ)は2023年に再びパフォーマンス最良の資産クラスとなり、43%のリターンをもたらすだろうと予想した。

その理由は大きく2つ。1つは原材料の不足が最終的に価格を押し上げるとするもの。そしてもう1つは2022年の高価格は設備投資促さず、供給増につながっていないことが背景にあるとしている。新油田のための探査や鉱山への投資不足が、在庫減とタイトな市場につながったと多くが指摘している。「予備の供給能力を整備するための十分な設備投資がなければ、商品は長期的な不足の状態を解消できず、高価格と大きな変動にさらされるだろう」としている。

コモディティがスーパーサイクルに入ったとする見方は既に聞かれていた。2021年3月にはJPモルガン証券が「世界は次のコモディティのスーパーサイクルに突入した」という予測を明らかにした。コモディティにおける長期のダウンサイクルは終わり、新たなコモディティの上昇、特に原油の上昇サイクルが始まったと指摘した。

過去100年間で大まかに4回のコモディティスーパーサイクルがあったと言われている。前回の1つは1996年に始まった。そのスーパーサイクルは2008年(拡大の12年後)にピークを迎え、2020年(2012年の収縮後)に底を打ち、新しいスーパーサイクルの上昇局面に入ったと言うものだ。

【図表2】原油のスーパーサイクルとそのドライバー
出所:JPモルガンの資料より筆者作成

1996年からのスーパーサイクルをけん引した重要なドライバーは、中国を含む新興国の経済的な台頭であった。当時、米ドルは弱含んでおり、資産運用会社はポートフォリオを分散させるためにコモディティへのエクスポージャーを追加するケースが増えていた。

その後、2008年の世界的な景気後退は、欧州(2011年)と中国(2015年)のさらなる減速と相まって、コモディティ価格を下押しし、トランプ政権時代の「貿易戦争」やそれに続く世界的な製造業の不況、そして2020年には原油価格を史上初めてマイナスの領域に送り込んだ悲惨なパンデミックを経て、12年続いたダウンサイクル(価格下落サイクル)の終わりを告げたとしている。

石原順の注目5銘柄

エクソン・モービル(XOM)
出所:トレードステーション
シェブロン(CVX)
出所:トレードステーション
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)
出所:トレードステーション
エンリンク・ミッドストリーム(ENLC)
出所:トレードステーション
※本銘柄についてマネックス証券でのお取り扱いはしておりません。
シーエフ・インダストリーズ・ホールディングス(CF)
出所:トレードステーション