対円では米ドル安一段落の可能性

ポジション調整の米ドル売りが峠を越えつつあるか

先週の米ドル/円は、米11月CPI(消費者物価指数)発表やFOMC(米連邦公開市場委員会)といった注目イベントを受けて、大きく米ドルが売られる場面もありましたが、2022年8月の米ドル安値である133円台を更新するには至りませんでした。一方で、米ドルの上値も138円を大きく超えることはできず、注目イベントを通過したものの、新たな方向感が出るところとはなりませんでした(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の日足チャート (2022年9月~)
出所:マネックストレーダーFX

そうした中で、相対的には米ドルの底固さが強くなってきた印象があります。11月以降、それまでから一変し米ドル急落が広がりましたが、先週のCPI、FOMCといったイベントを受けた米ドル売りでも、この間の米ドル安値である133円台の更新に至らなかったことで、すでに当面の米ドル下落リスクは一段落した可能性が高くなったと考えられます。では、それはなぜでしょうか。

11月以降の米ドル/円の急落は、米2年債利回りなど米金利からのかい離が特徴的でした(図表2参照)。ただそれは、10月までの両者の関係を前提としたものであり、改めて11月以降の米ドル/円と米2年債利回りを重ねてみると、基本的な両者の関係は大きく崩れたわけではありません(図表3参照)。その意味では、米利上げが続き、米金利が大きく下がるといった状況にあるわけでない中では、やはり米ドルの下落にも限度があるということではないでしょうか。

【図表2】米ドル/円と米2年債利回り(2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成
【図表3】米ドル/円と米2年債利回り(2022年10月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

11月以降、米ドル/円と米金利が一時的に大きくかい離したのは、特に11月10日の米CPI発表直後、米金利低下以上に米ドル下落が急拡大した「CPIショック」の影響が大きかったでしょう。これについては、年末特有のポジション調整に伴う米ドル売りが、米金利低下以上に米ドル下落を加速させたのではないかと私は考えました。

そのポジション調整の米ドル売りも峠を越えつつあると考えられます。CFTC(米商品先物取引委員会)の投機筋の米ドル・ポジション(非米ドル主要5通貨=日本円、ユーロ、英ポンド、スイスフラン、加ドルの累計)は先週までにほぼニュートラルに近づきました(図表4参照)。ポジション調整の米ドル売りが峠を越えつつあるなら、米ドル/円は、10月までのように米金利が主たる変動要因になりそうです。

【図表4】CFTC統計の投機筋の米ドル・ポジション (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

138円前後が当面の米ドル反発余地の焦点に

一方で、138円前後では引き続き米ドル上値の重さが目立ちました。12月以降、米ドル急落再燃となったのは、137円台後半~142円程度の保合いを米ドルが下放れたといったテクニカルな影響が大きかったとみられますが、その米ドル急落が一段落したとなると、次は改めて上述の保合い下限、要するに138円前後を大きく超えられるかが、当面の米ドル反発余地を考える上での焦点となりそうです。

例年、12月FOMCを通過すると、特に欧米の市場参加者はクリスマス休暇ムードが強まり、薄商いで値動きも乏しくなりがちです。今週も主な金融政策決定会合としては20日の日銀、そして景気指標としては23日にインフレ指標として注目度の高い米PCEコア・デフレーター発表などがありますが、そうした材料を手がかりに、先週のレンジである134~138円を大きくブレークすることになれば、ブレークした方向に大きく動く可能性はあるものの、一方でレンジ内にとどまるようなら、早々と小動きのクリスマス相場入りとなる可能性もあるでしょう。

対ユーロで止まらない米ドル安=金融政策の見通しが影響

以上見てきたように、対円での米ドル安は一段落した可能性がありますが、一方で対ユーロでは先週もこの間の米ドル安値更新が続きました。ユーロ/米ドルは、一時6月以来の1.06米ドルを超えるユーロ高・米ドル安となりました。

これは、金利差ユーロ劣位縮小の影響が大きいでしょう。独米2年債利回り差ユーロ劣位は、15日のECB(欧州中央銀行)金融政策決定会合以降の独金利上昇を受けて、2月以来の水準まで一段と縮小しました(図表5参照)。FRBが利上げ幅を縮小するのに対し、今後はECBの利上げ幅がそれを上回るといった見通しの影響が大きいでしょう。

【図表5】ユーロ/米ドルと独米2年債利回り差(2022年5月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

基本的には連動性の強い長期金利も、先週は独10年債利回りと米10年債利回りがほとんど逆方向へ動く結果となりました(図表6参照)。以上のような対ユーロでの米ドル安の動きがどこまで続くかは、米ドル/円にも影響する可能性があるため、引き続き注意が必要でしょう。

【図表6】米独の10年債利回りの推移 (2021年1月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成