歴史的なインフレ状況に各国が苦悩している。金融業界のトップであろう中央銀行の人たちですら、どうすればこの状況を打破できるのかがわからず、彼らの判断に金融市場は振りまわされている。インフレのピークアウトを期待して株価が戻したかと思えば、その期待を裏切る経済指標を受けてたちまち株価は下がり、各国が講じる追加策、いわば利上げ動向によって相場は一喜一憂している。
暗号資産はこのような環境で株式にならぶリスク資産として売られ続けている。ビットコインの価格は昨年の高値から70%以上下落し、昨年に流行したNFTの取引高もピーク時から9割近く減少した。一昨年からの熱はすっかり冷めてしまい、業界関係者は「暗号資産は冬の時代に入った」と口々に言う。
確かに暗号資産は今でも金儲けを最大の目的とした投機のおもちゃにすぎないのかもしれない。暗号資産が新しい金融市場としての可能性を秘めているとはいっても、結局のところ投資家は儲からなくなれば一斉に離れてしまう。JPモルガン・チェースのダイモンCEOは「暗号資産はねずみ講の詐欺だ」とまで批判する。
しかし、「国や企業が管理しない」という暗号資産の本来の性質に目を向けるならば、ビットコインだけは今の状況こそ価値をもつのかもしれない。国が決定する金融政策にも、景気後退にともなう企業業績の悪化にも直接は影響を受けないからだ。国への信用が薄れつつあるなかではビットコインがインフレヘッジの手段になりうる。
また日本では、海外との金融政策の違いを理由に、日本円の価値も日に日に下がっていくばかりだ。ドル円相場は1日に5円も変動するほど値動きが荒く、もはやボラティリティだけで暗号資産を悪者にすることは難しい。欧州では景気後退懸念によりユーロが弱い。このまま米ドル一強の相場が続くのであればビットコインは為替ヘッジの手段にもなりうる。
そもそも暗号資産に懐疑的な人は「ビットコインも投機対象に過ぎない」と一笑に付すだろう。暗号資産は株式とほとんど連動して景気の煽りを真っ向に受けている。しかし、世界経済の先行きが見えず、あらゆる資産の価値が不安定になっているからこそ、ビットコインの価値が見直されることもあるのかもしれない。