32年ぶりの米ドル高・円安

先週の米ドル/円は148円台後半まで米ドル続伸となりました。これにより、1998年の米ドル高値である147.6円を更新、1990年以来32年ぶりの米ドル高・円安となりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円の推移(1990年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

米ドル高・円安が一段と広がったのは、米インフレ懸念から、FRB(米連邦準備制度理事会)は一段と利上げ見通しの上方修正を余儀なくされるとの見方が強まったことが大きかったでしょう。先週は9月のPPI(生産者物価指数)、CPI(消費者物価指数)など注目のインフレ指標の発表が相次ぎましたが、いずれも前年比上昇率が事前予想を上回り、インフレ是正の進捗の鈍さを示す結果となりました。

こうしたことから、政策金利であるFFレートの上限は、現行の3.25%から、次回11月FOMC(米連邦公開市場委員会)で0.75~1%引き上げられ、さらに12月FOMCでも0.75%引き上げられるといった見方が強まりました。以上のことから、FFレートの最終到達水準、「ターミナル・レート」は、4.75~5%との見通しになります。こうした中で、FFレートを参考に動く米2年債利回りは4.5%程度へさらなる上昇となりました(図表2参照)。

【図表2】FFレートと米2年債利回り(2018年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

そのような米2年債利回りと、米ドル/円は最近にかけて高い相関関係が続いてきました(図表3参照)。これまでの関係からすると、米2年債利回りが4.5%程度まで上昇したことにより、米ドル/円は150円程度まで一段と上昇する可能性が出てきたわけです。さらに、FFレートが5%に向かい、一段と引き上げられるとの見通しが続くようなら、米ドル/円は150円を大きく超える可能性もあるでしょう。

【図表3】米ドル/円と米2年債利回り(2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

このような米利上げ見通しの上方修正とは別に、このところ米ドル買いを後押ししている可能性のある要因が英ポンドの下落です。英ポンドは、トラス新政権が発表した減税政策を受けて、財政赤字拡大への懸念から一時急落となりました(図表4参照)。その後、中央銀行であるBOE(イングランド銀行)による債券買い支えや減税の見直しなどにより、英ポンドは反発に転じました。しかし、マーケットの英財政赤字への懸念は強く、BOEの債券買い支えが10月14日で終了することに伴い、英ポンドを含めた「英国売り」再燃への不安は残っています。このような英ポンド売りが、米ドル買いを後押しする可能性にも要注意でしょう。

【図表4】英ポンド/米ドルの日足チャート (2022年8月~)
出所:マネックストレーダーFX

テクニカル指標が示す米ドル高一服の可能性

以上のように、ざっと見渡す限りでは、米ドル高要因ばかりが目に付くというのが正直なところでしょう。こうした中で、米ドル高が一服、さらには米ドル安に反転する可能性があるなら、それはテクニカルな要因が基本になるのではないでしょうか。

例えば、米ドル/円の日足チャートは10月14日まで8週連続の米ドル陽線となりました(図表5参照)。さらに週足チャートは9週連続の米ドル陽線となりました(図表6参照)。以上を見ると、さすがに米ドルの続伸も、そろそろ一息ついてもおかしくない段階を迎えているように見えなくもありません。

【図表5】米ドル/円の日足チャート (2022年8月~)
出所:マネックストレーダーFX
【図表6】米ドル/円の週足チャート (2022年1月~)
出所:マネックストレーダーFX

ちなみに、3月から5月にかけて米ドル陽線が9週連続で一段落した後は、3週連続の米ドル陰線となりました。また、7月を中心に米ドル陽線が7週連続した後は、2週連続で米ドル陰線となりました。以上を参考にすると、米ドル陽線の連続記録が一息ついた後は、2~3週米ドル陰線となり、5~10円程度の米ドル反落が起こる可能性はあるのではないでしょうか。

また、米ドル/円の5年MA(移動平均線)かい離率はプラス30%を大きく上回ってきました(図表7参照)。これを見ると、単に一本調子の米ドル高の調整局面ということだけでなく、今回の米ドル高・円安トレンド自体が、経験的にはいつ終わってもおかしくない段階を迎えているようにも見えます。

【図表7】米ドル/円の5年MAかい離率(1980年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

循環的な米ドル高の動きは、すでにいつ終わってもおかしくない段階を迎えているものの、米インフレ対策に伴う「米金利上昇=米ドル高」にはなお終わりが見えず、その中で米ドル高・円安トレンドの「延長戦」が続いているというのが現在の状況ではないでしょうか。

以上を踏まえた上で、今週の米ドル/円の予想レンジは145.5~150.5円を想定したいと思います。