<< <<【中編】キャシー・ウッド氏に聞く!テスラの将来性、下落局面でも依然強気な理由
岡元:キャシーさんは将来的にスマートフォンがなくなって、AR技術を用いたスクリーンに置き換わると思いますか。
ウッド氏:メタ(META)が4年ほど前にVRデバイス「Quest 」を開発した際、私たちは実用化までもっと長い時間がかかると思っていました。現在では、スマートフォンと融合したメガネ型のARグラスを開発している企業もあります。ハードウェアよりもソフトウェアの方が先行していると考えています。ハードウェアにはまだ課題があることも承知しています。
あらゆるテクノロジーにおいて人工知能とハードウェアの融合が重要だと考えています。人工知能は新しいソフトウェアであり、ハードウェアです。この2つが一緒に働くことで、まだ想像もできないような場所に行くことができるのです。
例えばウーバー(UBER)のようなビジネスモデルを誰も考えていなかったのです。しかし、それが5~6年前に実現した時、人々は驚きました。ですので、同様のことが今後も起きると思います。スマートフォンの方が使いやすいという人は常にいるでしょうし、古いテクノロジーも長く残ります。しかし若い人たちが私たちに新しい道を示してくれるでしょう。
若年層はポートフォリオの1割をイノベーション銘柄に
岡元:米国株式投資を始めたばかりの個人投資家に、イノベーションをテーマとした投資をどのように紹介しますか。イノベーション銘柄への投資と通常の株式投資をどう組み合わせるべきでしょうか。
ウッド氏:私個人のポートフォリオには、アーク・ファンドと暗号資産以外、何も入っていません。もちろん、皆さんに私個人のポートフォリオを気にしていただく必要はありません。ただ、私がいかにイノベーション銘柄に対して高い確信を持っているかを理解していただきたいのです。個人的な投資もありますが、それらはすべて私たちのイノベーションをテーマとした銘柄です。ボラティリティが非常に高いですから、投資初心者の方々にはお勧めしません。
しかし、私は若い人ほど、イノベーション銘柄をポートフォリオに組み込み、保有しておくことが重要だと考えています。若い人たちは、ポートフォリオの10%以上をイノベーション銘柄に投資すると良いと思います。今、私はポートフォリオの100%をイノベーションに捧げていると言いました。それはなぜか。多くの人は、イノベーションとかニッチとかいうのは、投資のごく小さなカテゴリーだと考えています。しかし、私たちが調査し、投資の中心にしているイノベーションは、今後8年から10年の間にインデックスの主要な部分を占めるようになると考えています。
世界の株式市場における真に破壊的なイノベーションの時価総額は現在8兆ドルだと考えています。これは世界の株式市場の10%未満です。もし私たちの考えが正しければ、この数字は今後8年から10年の間に8兆ドルから200兆ドル以上へと増加するでしょう。そして、世界の株式市場の60%以上を占めることになると思います。ですからポートフォリオの10%の配分は、若い人たちの人生において非常に大きな意味を持つものになるでしょう。
「日本人のDNAはイノベーションに富んでいる」
岡元:50歳を過ぎた人でも、あと50年は生きる世の中になりますよね。だから、何歳から始めたとしてもまだ遅くはないでしょうね。
ウッド氏:はい、私はそれよりもっと年上です。今お話したように、私は自分自身の全資産を破壊的イノベーションに投資しています。その理由は、世の中はそのように変化していくと思っているからです。私が日本の友人や同僚たちにいつも言っているのは、「日本人のDNAはイノベーションに富んでいる」ということです。エネルギーの効率的な開発は他のどの国より早く日本で行われてきたのではないでしょうか。バッテリー技術も日本の専門領域ですよね。テスラは、パナソニック(6752)のバッテリー技術における歴史なくしてここまで成功することはできなかったでしょう。
京都大学の山中伸弥教授がiPS細胞(人工多能性幹細胞)を開発し、ゲノム革命の黎明期にノーベル賞を受賞されました。ブロックチェーン技術を見ると、中国が暗号通貨の取引所を閉鎖したとき、どの国がその遅れを取り戻したかというと、アジアでは日本、タイ、韓国が最も大きな国でした。10年ほど前、セールスフォース(CRM)のマーク・ベニオフCEOが、「なぜかわからないが、日本は我々のソフトウェアを採用してくれている」と話していました。実際に日本は他のどの国よりも早くSaaSを導入しています。ベニオフ氏はしばらく日本に滞在し、そのことを理解することにしました。そして、日本で得た知識をもとに、世界中でSaaSを普及させたのです。
また、日本は高齢化社会を背景に、ロボティクスの最前線にいます。日本の投資家はイノベーションが日本の課題、世界の課題解決において、いかに重要であるかを理解していると思います。イノベーションに富んだDNAを持つ日本人の方々と一緒に仕事をするのは、とても楽しいことです。
アークが長期保有するイノベーション銘柄
岡元:最後に御社が長期投資として保有しているイノベーション銘柄をいくつか教えてください。
ウッド氏:私たちのイノベーション銘柄を「ステイホーム銘柄」だと見なす声もあります。しかし、パンデミックはイノベーションの世界を恒久的に変えました。パンデミックは世界にデジタル化の必要性を知らしめましたし、ゲノム革命についても教えてくれました。コロナの検査やワクチン開発においてゲノム革命が役立ちました。つまり、イノベーションが問題を解決してくれるのです。コロナによって引き起こされた危機と、コロナ後に生じたイノベーション戦略の見事なパフォーマンスは、これから起こることの前兆だったと思います。なぜなら、私たちは今、さらに多くの問題を抱えているからです。
パンデミックは、おそらく私たちが考えている以上に今後頻繁に起こるでしょう。そして、サプライチェーンの問題も続くと思います。戦争による食糧問題やエネルギー価格の問題などをどう解決していくか考えなければなりません。ゲノム革命は、これまで作物が育たないと思われていたような場所でも、栽培可能にする方法を見つける手助けをしてくれます。そして、作物を栽培する際、より高い収穫量とより少ない水で済むようにする手助けができます。つまり、イノベーションはすべての問題解決につながるのです。ですから、問題が多ければ多いほど、私たちが保有する企業はより多くの問題を解決することになります。
ズーム(ZM)が「ステイホーム銘柄」として扱われていることについて、私たちは「それは間違っている」と考えています。ズームは、90年代初頭のインターネット革命以来、初めての根底からの「総入れ替え」サイクルを促進しています。シスコ(CSCO)はかつてインターネットの骨格を構築しましたが、それは(企業内にサーバやシステムを置く)オンプレミスでハードウェア中心のものでした。ズームとマイクロソフト(MSFT)は、この企業における「総入れ替え」サイクルの2大受益者になると思います。これは世界全体で1.5兆ドル規模のビジネスチャンスです。
テラドック(TDOC)も「ステイホーム銘柄」と見なされましたが、私たちは「いやいや、そんなことはないでしょう」と言います。医者に行かなくても済むなら、誰が医者に行きたいと思うでしょうか。私たちの健康管理は、デジタルで常にモニターされるのが望ましいと思います。そして、1つの企業が、ゲノムデータと電子医療記録すべてを集め、人工知能の専門家によってデジタルでモニターされながら、病気からの回復だけではなく、病気を予防する方法を考え、米国の健康管理のバックボーンを構築することができます。それは、在宅者向けの単なる遠隔医療ではなく、企業向けサービスのプラットフォームとして重要な役割を担います。なぜなら企業は従業員の健康維持を望んでいますし、病気になってほしくないからです。
そしてロク(ROKU)です。ロクの製品を家電だと思っている人がいますが、私たちは「それは間違っている」と言います。これはテレビのための新しいオペレーティングシステムです。アナログテレビからデジタルテレビへのシフトを可能にするものです。世界で1700億ドル規模の広告が今後アナログからデジタルにシフトすると見込まれており、ロク、アマゾン、アップル(AAPL)が3大受益者になることが予想されています。しかし多くの誤解の声を耳にします。先日もあるジャーナリストから、「ロクには、ネットフリックスやディズニー、HBOなど多くの競合がいるじゃないか」と言われ、「そこがポイントです。彼らは皆プラットフォームが必要で、それがロクやアマゾン、アップルなのです」と答えました。その中で私たちがロクを選んだのは、ロクがピュアプレイ(特定の製品やサービスに特化した企業)の中のピュアプレイだからです。ロクはシェアの大部分を獲得するのに最適な地位にあると思います。
その他、ゲノム関連銘柄であるCRISPR セラピューティクス(CRSP)とインテリア・セラピューティクス(NTLA)を挙げないわけにはいきません。これらの企業はすでに病気の治療に役立っています。半年ほど前に比べ、ベータサラセミアの効果の持続期間が2年に延びているのを目の当たりにしています。以前は輸血のために年に17回も病院の緊急治療室に入っていた人が、今では2年間輸血をしていないのです。ベータサラセミア、鎌状赤血球症、そして今回インテリアがトランスサイレチン蓄積アミロイド症(ATTR)という非常に衰弱した血液疾患の患者さんが治癒したことを示し続けています。ここでもまた、イノベーションが問題を解決しているのです。そして、世界はより良い場所になってきています。
今のようなイノベーションにとって厳しい年に、このような時間を与えていただき本当に感謝しています。
岡元:キャシーさんの深い知見は、いつも勉強になります。本当にありがとうございました。次回は日本でお会いしましょう。
ウッド氏:こちらこそ。12月に来日する予定です。その時はぜひ直接お会いしたいですね。
※本記事は2022年9月22日に放送した「ハッチの米国株マーケットセミナー」の特別インタビューを後日編集記事化したものです。