1986年にスペースシャトル・チャレンジャー号が墜落した際、その原因を誰よりも早く察知したのは株式市場でした。事故原因を特定する手掛かりがまだ無い事故直後において、実際に原因となったパーツを供給する会社の株価はその日、関連銘柄の中でも大きく下落したのです。株式市場は瞬時に影響を見抜く一方、調査委員会が要因を示せたのは爆発から6ヶ月後でした。

集団の知恵が極めて優れた知力を発揮する事例は多く、景気への先行性があると言われる株式市場もその一つでしょう。アメリカの金融系コラムニストであるジェームズ・スロウィッキー氏の著書『「みんなの意見」は案外正しい』によると、集団の知恵が機能するには以下の4要件を満たす必要があるそうです。

意見の多様性(各人が独自の情報を持つ)、独立性(他者に左右されない)、分散性(身近な情報に特化しそれを利用できる)、集約性(個々人の判断を集計して集団として集約する)です。

ところで専門家による向こう1年程度の株価予想を集約したコンセンサス予想値の精度はどうでしょうか?予想値と実際の値を比較すると、予想値は実際の株価を後追いして推移する傾向が見えます。米株であれば現値の10%程度上の値が今後の株価予想値になり、その後株価が下落すれば追いかけるように予想値も同程度下がります。

つまり株価の推移と株価予想値の時系列推移は概ね平行して走る二本の線になっています。金利や為替の予想も同様に後追いの傾向が見られます。そして実際に当たっているか?残念ながらその精度は低いです。

あらゆる参加者によって形成される株式市場ですが、それを予想する専門家の集合知に予見性が高まらないのはなぜでしょうか?専門家による予想が基本的に同じような情報を活用しているのであれば、先程の4要件に照らし合わせると多様性や独立性が欠けているかもしれません。コンセンサス予想には集団の知恵が発揮されておらず、「みんなの意見」とは言えないようです。

1928年以降の米国株の年平均リターンは8%程度ですが標準偏差は70%です。これは68%の確率でリターンが8%±70%に収まるということで、かなりの振れ幅です。1年後の株価予想が過去の平均値並みになる一方で、中々当たらないのも納得感があります。

予想の精度を上げるには様々な意見に耳を傾ける必要がありそうです。その際に人は自分にとって都合の良い情報を集めたがる傾向がある点にも注意が必要です。バイアスを持たずに多様な情報に触れることは市場を見通すうえで必要条件の一つと感じられます。

最後に長期保有を前提とすれば見え方は変わってきます。株式を10年保有する場合、過去の年平均リターンは7%程度ですが標準偏差は19%にまで低下し、予見性が高まります。このように短期的には市場の振れは付き物ですが、そのような振れを気にしない長期資産形成の観点も大切です。