9月7日、市場には日銀による「レートチェック」の憶測が流れました。この報道を受け米ドル/円相場は急落。短期筋が円ショートを手仕舞ったと見られます。なぜ為替市場はレートチェックに反応したのでしょうか。

日銀のレートチェックと為替介入

レートチェックとは日銀が民間銀行に対して現在の相場水準を尋ねることです。為替市場で介入が実施される際に、日銀がどのレベルで米ドル売り(円売り)をするかを決定するために行うもので「介入の準備」と捉える向きもありますが、レートチェックがあったからといって必ず為替介入が実施されるというものではありません。

過去にもレートチェックが実施されたものの為替介入が実施されなかったケースは多く、通貨当局が現在の為替水準や値動きを強く警戒しているという市場への警告にすぎないのです。

そもそも日銀が継続する金融緩和政策は円金利を低く抑えるために米国の利上げによって円が売られ米ドルが買われるのは当然のことで、円安が本当に困るというなら金融政策を変えればいい話です。金融政策とは反対方向の円買い介入は整合性が取れないため、通貨当局が実際に介入に踏み切ると考える関係者は実はあまり多くはありません。

しかしながら、米ドル/円相場はレートチェック実施の報道に大きく反応しました。2022年年明けは115円前後で動いていた米ドル/円相場は9月には145円大台を試すところまで大きく上昇、8ヶ月で30円も変動しています。

これだけの大きな為替変動の背景には、資源自給率の低い日本が、高騰した原油やガスなどを輸入するための米ドル買いをしなくてはならないなどの実需の影響も大きいのですが、日米金利差拡大を材料にした投資、投機マネー流入の影響もあるでしょう。

日本の8月貿易収支は、▼2兆8,173億円で赤字幅は市場予想を上回るものでした。実需など、為替水準がどうあれ取引せざるをえないものは仕方がないにしても、値幅を取りに行く短期筋・投機筋らによるここからの円売り米ドル買い戦略に勝機はあるでしょうか?

日本の当局者は介入も辞さぬとのスタンスで、米ドル/円相場の急激な変動に不快感を示しているようです。これは投機的取引に向けられたメッセージとも考えられます。これで米ドル/円相場が落ち着いてくれれば実際に介入はないかもしれませんが、レートチェックが市場への牽制として一定の効果をもたらした可能性は大きいでしょう。

とはいえ、貿易赤字の拡大が示しているように実需の米ドル需要が強いこともあり、米ドル/円上昇トレンドが転換するとは考えにくいため、しばらくは高値圏でのレンジ相場となりそうです。

塊となる日本の個人投資家の円買いポジション

9月13日付けのBloombergの記事によると、東京金融取引所運営のFX取引所「くりっく365」における個人の米ドル/円ポジションが9月9日日時点で19万4,825枚(約2,776億円)の米ドル売越し(円買越し)になっていると報じました。

円を買っているということはネガティブスワップであり、日米金利差にあたるスワップを1日あたり100~105円(1万枚建玉)支払い続けているわけです。(これは米ドル買いをしていれば受け取ることができます)おまけに現在の米ドル高ですから円ロングでは相当な損失となっていると考えられますが、このポジションはいつどのような形で捌ける(損切り)のでしょうか。

円買いの解消は円売りとなりますので、踏み上げのような形で米ドル/円相場を押し上げる可能性があると考えることもできます。しかし、実は「くりっく365」の個人投資家ポジションは、コロナ禍以前から長期に渡って円買いのままで、110円を超えるレベルに上昇してきてからさらに積み上がっていることが確認できます。

2022年だけで30円も米ドル高となったにもかかわらずこのポジションが解消されることなく維持され続けていることを鑑みると、145円までのレベルでは損失を確定する意志がないように見えます。

ちなみに取引所取引ではない店頭取引の総合統計やCMEの通貨先物市場の投資家ポジションもネットポジションは米ドル買いで「くりっく365」の個人とは逆方向で、これらをトータルして相殺するとドル買いポジションのほうが大きいと考えられます。

「くりっく365」の個人のポジションも小さくはありませんが、総合的に考えて近くこのポジションの踏み上げによる米ドル/円上昇が起きることはないと考えています。