レイ・ダリオのポートフォリオの変化

著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)が先週、中国のEV(電気自動車)大手BYDの一部株式を8月下旬に続き売却したことが明らかになった。バークシャーは8月24日にBYDの株式133万1000株を、さらに9月1日に171万6000株を売却、20%を超えていたバークシャーによるBYDの持ち株比率は18.87%に低下した。

レイ・ダリオ氏が創設した世界最大のヘッジファンド、ブリッジウォーター・アソシエイツも中国株へのエクスポージャーを減らしている。このことは8月中旬に提出されたブリッジウォーターのフォーム13Fから明らかになった。2022年6月末時点のブリッジウォーターの保有状況を確認してみよう。

米国株式市場に上場している株式を100億円以上運用する銀行やヘッジファンド、保険会社、年金基金等の機関投資家は、各四半期末から45日以内にどのような銘柄を保有しているのかについて、米SEC(米国証券取引委員会)に対してフォーム13Fと呼ばれる書式で報告する義務が課されている。

このフォーム13Fに関して注意しなくてはならないことがいくつかある。まず、機関投資家の最新のポジションを表している訳ではないということだ。6月末から1ヶ月半が経過しているため、保有株式に変化が生じている可能性が大きい。前四半期末までに大きなポジションを取ったものの、13Fが出る頃にはポートフォリオからそのポジションが外れていることもある。

さらに対象となるのは米国株式市場に上場する銘柄に限られている。また、各ファンドはリスク分散のため国内外の株式や債券、また値動きの異なるREIT(不動産投信)やコモディティ等、投資対象が異なるファンドを売ったり買ったりすることで資産の分散を行っているが、これらはもちろん報告義務の対象外となっているため、このフォーム13Fで明らかになるのは機関投資家の投資活動のわずか一部である。

とは言え、こうしたことを前提とすれば、最も重要なファンドや著名投資家がどのような投資をしているのかは見ているだけで面白く、興味深い。ブリッジウォーターのフォーム13の前回(3月末時点)と今回(6月末時点)を比較して特筆すべき点は、アリババ・グループ (BABA) のポジションを売却したことだ。前回時点で保有していた750 万株近く、保有時価にして約8億1300万ドルを第2四半期(4~6月期)に全て手放した。

2021年、ブリッジウォーターは中国投資のためのファンドを立ち上げ、中国株の保有を大幅に増加させる等、中国投資に対して積極的な姿勢を示していた。しかし、マクロ的な観点で中国から発信される経済データは彼らを満足させるものではなかったのだろうか。今回の売却をみると中国に対する姿勢が微妙に変化してきているように見える。

ブリッジウォーターが手放した中国企業はアリババだけではない。第1四半期に815万株を保有していたディディ・グローバル(DIDIY)、約210万株を保有していたJDドットコム (JD) を売却、その他、ビリビリ (BILI)、ネットイーズ (NTES) も全て売却した。

その一方で、テンセント・ミュージック・エンターテイメント(TME)のポジションについては前の四半期から約3%減少させたものの、約301 万株を継続保有している。さらに、バイドゥ(BIDU)については第 1 四半期末から保有を約1.5%増やし、約114万株保有している。

ブリッジウォーターの保有株トップ30

【図表1】ブリッジウォーター・アソシエイツの保有株トップ30(時価評価順、除くETF)
出所:フォーム13Fより筆者作成

なお、上記は2022年6月末時点のブリッジウォーターの保有株トップ30(時価評価額順)のうち、個別銘柄だけをピックアップしてランキングしたものである。個別銘柄のポジションで最も大きかったのはプロクター・アンド・ギャンブル(PG)で、6月末時点の保有時価は9億7000万ドル、株数にして約675万株を保有している。

次いでジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)が7億6900万ドル、その他、上位にはコカコーラ(KO)、ペプシコ(PEP)、コストコ・ホールセール(COST)、ウォルマート(WMT)等、安定したビジネスモデルを持ち、高いブランド力を備えた米国のクオリティ株が中心だ。

「配当貴族」ならぬ「配当王」銘柄とは

こうしたクオリティ株の多くが高配当、連続増配銘柄の「配当貴族」に区分されている。ご存じの通り「配当貴族」は、S&P500指数の構成銘柄であること、25年以上配当が増加していること、一定の規模や流動性の最低条件を満たしていることをクリアした銘柄群である。

配当利回りの高い銘柄に投資するメリットは3つあると考える。1つはリスクの高いビジネスを展開している企業を足切りできるということ。2つ目は配当金による複利効果が期待できるということ。3つ目は株価急落時における下値硬直性を持つことである。詳しくは2021年8月3日付のコラム「配当貴族指数銘柄の『配当利回りランキング』トップ30!」を参照されたい。

配当金を支払う企業の株式を保有することは、ポートフォリオに定期的な収入源を追加する1つの方法となる。安定したキャッシュフローを生み続けてくれる高配当企業へ投資することによって、言わば眠っている間にお金を稼ぐことができるというわけだ。また、前述の通り、下値硬直性を備えているため、市場が下落した場合の損失を軽減する効果も期待できる。

超低水準にあった金利が反転するという市場環境の大きな転換点においては、株式市場のボラティリティが高くなる可能性がある。金利の上昇時には高配当銘柄の魅力は相対的に低下するものの、高配当銘柄が持つ下値硬直性は捨て難い。単に利回りが高いということだけではなく、業績の裏づけがあり、財務内容の盤石な企業を選ぶことが重要であろう。

そこで注目したいのが貴族ならぬ「配当王」と呼ばれる企業群である。貴族と異なる点は2つ。「配当王」は少なくとも過去50年にわたって、毎年配当を増額していることが条件となる。つまり、財務的に成功した長い歴史を持つ企業だと言える。ただし、貴族がS&P500の構成銘柄であるのに対して、「配当王」は上場企業全てが対象となる。

米国株、配当王37銘柄の一覧リスト

この50年の間にオイルショックやブラックマンデー、アジア通貨危機や世界金融危機など困難な出来事がいくつもあった。こうした逆風に耐えながら、半世紀に渡り毎年配当を増やし続けた「配当王」企業は37社ある(2021年の31社から6社増加)。

【図表2】「配当王」銘柄一覧
出所:各種データより筆者作成

米国高配当ETFを活用するメリット

高配当利回り企業に投資する場合、個別に配当の高い企業の株式を取得することはもちろんであるが、これ以外にも配当利回りの高い銘柄を組み合わせたETF(上場投資信託)に投資する方法も考えられる。

ETF投資にはポートフォリオを分散すると同時に、間接的ではあるものの一度に多くの有価証券に投資することができるというメリットがある。また、市場がオープンしている間であれば取引所において好きなタイミングで取引可能という点で、個別株と同様の手軽さも持ち合わせている。

ETFを使えば銘柄の分散が可能となる。例えば、アップル(AAPL)やマイクロソフト(MSFT)だけに投資をするのではなく、ETFでこれらの企業をバスケットの一部として持つことによって、リスクを低減させることも可能となる。ただし、組み入れられている銘柄の多くは安定した成熟企業であることが多いため、キャピタルゲインという点では限定的になること覚えておきたい。

では具体的にどのようなETFがあるのか。今回は高配当株式ETFの中から以下5本をご紹介する。

石原順の注目5銘柄

SPDRポートフォリオS&P500高配当株式ETF(SPYD)(ベンチマーク:S&P 500 高配当指数)
出所:トレードステーション
iシェアーズ・コア米国高配当株ETF(HDV)(ベンチマーク:モーニングスター配当フォーカス指数)
出所:トレードステーション
プロシェアーズS&P 500配当貴族ETF(NOBL)(ベンチマーク:S&P500配当貴族指数)
出所:トレードステーション
※本銘柄についてマネックス証券でのお取り扱いはしておりません。
バンガード・米国高配当株式ETF(VYM)(ベンチマーク:FTSEハイディビデンド・イールド・インデックス)
出所:トレードステーション
iシェアーズ好配当株式ETF(DVY)(ベンチマーク:ダウ・ジョーンズ U.S.セレクト・ディビデンド・インデックス)
出所:トレードステーション