今からちょうど6年前、2016年の夏、いつものようにマネックスグループの取締役会を開いていた時のことです。その頃の出井さんは、取締役会の間ずっと腕を組んでいて、ちょっと恐い顔をしていたと思います。マネックスグループの次の一手がクリアにならないことに、フラストレーションを感じられていたのではないでしょうか。何回か「次の一手」なる考察と発表を私が取締役会で行い、議論も行われましたが、どれも網羅的ではなく、不完全だったと思います。
そんな頃の或る取締役会、出井さんは強硬でした。「松本さん、次はどうするの?」「松本さん、マネックスがどう変わっていくかを考えるのは、CEOの仕事だよ」その時の出井さんは、意見を仰るだけでなく、私がかなりのことをコミットしないと一切引き下がらない凄みがありました。その結果私は、2ヶ月程度自分の時間の75%程度をコミットして、補佐1名と共に現環境と来るかも知れない未来についての網羅的なリサーチを行い、かつその中で今後どのようなビジネスの可能性があるかの仮説を作ることを、取締役会に対して約束することになりました。
そして実際100人近い様々な分野の人たちに会いに行き、或いは間接的に話を聞いて、「未来」についての考察を集中的に行う、「マネックス・ゼロ」というプロジェクトを動かしました。そしてこのマネックス・ゼロの作用の中から、今で云うところのWeb3的な考え方を学んだり、或いはブロックチェーンや仮想通貨の重要性を知り、その世界観・時代観の中で新しいビジネスの準備を具体的に進め、そしてマネックス・ゼロを始めてから1年ちょっと経った2017年秋に、「第二の創業」と称した、マネックスグループとして真剣にブロックチェーンと仮想通貨に関わっていくことを正式に発表するに至り、その数ヶ月後に、コインチェックの買収に繋がっていくのです。
私とマネックスをWeb3の世界にいち早く推し進めた原動力は、出井さんの考えと言葉と、そして後ろに引かないで私をプッシュした姿勢だったのです。出井さんは、取締役会で一番高齢でしたが、一番前向きで、アグレッシブで、未来志向で、新技術や新しい流れを一番強く感じとって理解されていました。出井さんは本当に未来人です。そして出井さん、本当にありがとうございました。出井さんがプッシュしてくれなかったら、私は怠けていたかも知れません。これからは心の中に出井さんを作って、自分で自分をプッシュしていきたいと思います。