インフレ指標発表後に急落した米ドル

先週の米ドル/円は、注目されたCPI(米消費者物価指数)、PPI(生産者物価指数)といった7月インフレ指標がいずれも予想を下回り、インフレがピークを過ぎた可能性を示す結果だったことに過敏に反応し、一時は131円台まで米ドル急落となりました。ただ一方で、米金利はそれほど下がらなかったので、米金利から見ると米ドルは「下がり過ぎ」のようになりました(図表1参照)。

【図表1】米ドル/円と米2年債利回り (2022年3月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

このような、米インフレ指標発表後の米ドル/円と米金利のかい離は、前回も起こりました。ただし方向は反対で、前回、特に6月CPIが予想以上の伸び率となると米ドル/円は大きく上昇に向かい、米金利から見ると「上がり過ぎ」のようになったのでした。この時の米ドル/円と米金利のかい離は、その後7月末以降米ドル急落が起こることで修正に向かいました。

これを参考にすると、今回の場合は、このまま米金利が下がらないようなら、米金利から見た米ドル「下がり過ぎ」の修正で、米ドルは反発する可能性があるのではないでしょうか。

もちろん考え方としては、米金利が下がることで、米ドル下落を正当化するということもあるわけですが、今のところその可能性は低いでしょう。今回のインフレ指標発表後も、FOMC(米連邦公開市場委員会)メンバーは相次ぎインフレと戦う強い姿勢を表明し、FFレートは今後3.5~4%まで引き上げられるといった見通しを示しました。

米金融政策を反映する米2年債利回りは、これまでのところ6月の3.4%がピークとなっていますが、上述のようなFFレートの見通しが現実味を増すようなら、米2年債利回りも下がるどころか、むしろこの間の高値更新へ一段と上昇する可能性もあるでしょう(図表2参照)。そうであるなら、米ドルは既に述べたように米金利から見た「下がり過ぎ」修正で反発に向かう可能性がやはり高いのではないでしょうか。

【図表2】米2年債利回りとFFレート (2018年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

以上を踏まえ、今週の米ドル/円予想レンジは、先週の米ドル安値は下回らずに、週間値幅も4円程度といった具合に引き続き荒い値動きが続くといった考え方から、131.5~135.5円を想定します。

ドルストレートには米ドル安シグナル出現

私はこれまで、米ドル/円は米金利から見て「下がり過ぎ」のため、その反動から米ドル高に向かう可能性が高いと思うと述べてきました。ただし米ドル/円以外、ユーロ/米ドルや豪ドル/米ドルといった米ドルストレートにおいては、それとは逆の米ドル安リスクの兆しが先週出現しました。

ユーロ/米ドルは7月後半から3週間程度、1.01~1.025米ドルのレンジを中心とした方向感のない展開が続いてきました。これを「米ドル/円」風に言うと、101~102.5円といった1.5円程度の値幅での小動きが続いたといった具合になります。ちなみにほぼ同じ期間の米ドル/円は130~139円のレンジ中心に大荒れの展開が続いたわけで、それと比べるといかにユーロ/米ドルは小動きだったかがよく分かるのではないでしょうか。

ところで、そのユーロ/米ドルでしたが、先週にかけて小動きのレンジをユーロ高・米ドル安方向へ上抜けたようになりました(図表3参照)。そしてそれは豪ドル/米ドルでも同様で、豪ドル高・米ドル安方向へ、この間のレンジを上抜けたようになったのです(図表4参照)。

【図表3】ユーロ/米ドルの日足チャート (2022年6月~)
出所:マネックストレーダーFX
【図表4】豪ドル/米ドルの日足チャート (2022年6月~)
出所:マネックストレーダーFX

相場には、基本的に小動きが長く続けば続くほどエネルギーが溜まり、小動きの終了とともに溜まったエネルギーの発散により一方向に大きく動くといった傾向があります。その意味では、これまで見てきたユーロ/米ドル、豪ドル/米ドルの先週にかけての動きは、新たな米ドル安のシグナルとも見てとれなくありません。

ちなみに豪ドル/米ドルは、先週の豪ドル高・米ドル安により、足元で0.718米ドル程度の52週MA(移動平均線)に急接近となりました(図表5参照)。経験的には、一時的な豪ドル高・米ドル安なら52週MA前後までがせいぜい。そうではなくて、52週MAを大きくブレークするようなら、既に豪ドル安・米ドル高は終わり、新たな豪ドル高・米ドル安トレンドが展開している可能性が高まります。

【図表5】豪ドル/米ドルと52週MA (2005年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

以上のように見ると、ユーロ/米ドルや豪ドル/米ドルにおいて先週にかけて見られた新たな米ドル安のシグナルが、単なる一時的な「ダマシ」に過ぎないのか否かは、豪ドル/米ドルの52週MAを巡る攻防などを手掛かりに注目したいと思います。