モトリーフール米国本社、2022年8月7日 投稿記事より

主なポイント

・複数の求人がアドテック分野におけるアップルの計画を示唆
・アップルは広告収入の増加を目指しているとみられるが、どこまで行こうとしているのか?
・今回の動きにより、アップルとトレード・デスクが直接競合する可能性も

創造的破壊を繰り返してきたアップル

トレード・デスクがプログラマティック(運用型)広告の分野で業界をリードする存在であることに、ほとんど疑いの余地はないでしょう。同社はデジタル広告を覆っていたカーテンを開け放ち、現状を覆しました。透明性のある価格設定を実現することで、広告代理店や広告主から1番に選ばれるようになったのです。トレード・デスクはアドテック業界における収益性の高いニッチ分野を自ら切り開き、そこに他社が入り込む余地はないと思われていました。少なくとも今までは。

そこに入ってきたのがアップルです。アップルの最近の動きは、同社が既存事業からの自然な流れとして、デジタル広告分野への参入を視野に入れていることを示唆しています。残念ながら、アップルの方向性によってはトレード・デスクと直接競合することになるため、トレード・デスクにとっては脅威となる可能性があります。

垣間見えること

アップルの最近の求人情報を見ると、同社の計画を知る手掛かりが得られます。アップルは、広告代理店や広告主がデジタル広告枠を購入するためのデマンドサイドプラットフォーム(DSP)のシニア・プロダクト・マネジャーを募集しています。その中で、消費者のプライバシーに重点を置いているのはいかにもアップルらしいと言えます。

同社は求める人物像として、「プライバシーに最大限配慮し、最も洗練されたDSPの設計を推進できる人」としています。アップルは、「(アップルが調達する)広告主がアップルのサービス内での広告掲載を通じて、自社の商品やサービスを紹介する機会を見出すことができる」DSPを望んでいます。

しかし、それだけにとどまりません。採用される広告担当責任者は、「同業他社や他組織のパートナーと共に、新製品の定義や事業計画をリードする」ことも求められます。

アップルはさらに、「モバイルDSPの構築経験」と「計測と属性を活用したモバイルキャンペーンの展開経験」も求めています。具体的には、「モバイル広告プラットフォームにおけるプロダクトマネジメントとテクニカルアーキテクチャで8年以上の経験者」が望ましい条件とされています。

同社はまた、広告プラットフォームのプロジェクトマネジメントチームをまとめるシニアマネジャーも募集しています。このポジションに応募するには、プロジェクトマネジメントで10年以上、広告テクノロジー業界で3年以上の経験が必要です。

どちらの求人も2022年8月3日付で掲載され、募集はまだ始まったばかりです。

これが意味すること

現時点では、アップルがDSPについてどの程度まで計画しているのかは分かりません。今回の求人に先立ち、アップルは、Appストア内の広告を増やすことで、広告事業を拡張することを決定しています。広告掲載の増加は、開発者が自身のアプリを売り込むのに役立つでしょうが、広告が掲載される場所についてはあまり指定できないとみられます。

広告分野への参入強化は、アップルにとって、単に自社のエコシステム内の広告を拡大することを目的としているだけなのかもしれません。しかし同時に、アップルがネットフリックス(NFLX)などのストリーミングサービス企業の足跡をたどり、自社のストリーミングサービスであるアップルTV+の広告付き低価格(または無料)バージョンの開発を計画している可能性もあります。

しかし、トレード・デスクにとってより気掛かりなのは、これがアップルにとってデジタル広告分野に幅広く進出するための第一歩なのかどうかでしょう。自社のニーズに合わせたプラットフォームを開発した後、アップルは拡大を一段と進め、トレード・デスクにとって事実上の競合相手となる可能性もあります。

アップルは、サービス事業を拡充する方法を常に模索しています。これまでは主に消費者向けサービスに焦点を当ててきましたが、いずれその先を目指す可能性があると考えるのは、決して大げさではありません。アドテック事業で真正面から挑んでくる可能性も、十分に予想されます。

創造的破壊の歴史

アップルがデジタル広告分野で創造的破壊を起こすのは初めてではありません。2021年のiOS14へのアップデートでiPhoneユーザーは、使用するウェブサイトやアプリ間で追跡されることに明示的に同意することが求められ、この動きはフェイスブックの親会社であるメタ・プラットフォームズにとって大きな問題となりました。メタ・プラットフォームズのマーク・ザッカーバーグCEOは2022年第2四半期決算発表の際、「アップルのiOSの変更に起因する信号損失」について改めて不満の意を示しました。

現時点において、すべては推測や憶測にすぎません。求人表を見ても、何らかの結論を支持するだけの十分な情報は得られません。アップルがデジタル広告分野への参入を強化することでどのような展開になるのか、しばらく見守る必要がありそうです。

とはいえ、私がトレード・デスクの幹部だったら、少しは心配に思っているかもしれません。

免責事項と開示事項  記事は一般的な情報提供のみを目的としたものであり、投資家に対する投資アドバイスではありません。フェイスブックの元市場開発担当ディレクター兼スポークスマンであり、メタ・プラットフォームズのMark Zuckerberg CEOの姉であるRandi Zuckerbergは、モトリーフール米国本社の取締役会メンバーです。元記事の筆者Danny Venaは、アップル、メタ・プラットフォームズ、ネットフリックス、トレード・デスクの株式を保有しています。モトリーフール米国本社はアップル、メタ・プラットフォームズ、ネットフリックス、トレード・デスクの株式を保有し、推奨しています。モトリーフールは、以下のオプションを推奨しています。アップルの2023年3月満期の120ドルコールのロング、アップルの2023年3月満期の130ドルコールのショート。モトリーフールは情報開示方針を定めています。