世界で初めて法定通貨にビットコインを採用した国、エルサルバドル。去る2022年6月21日、マネックス証券はディエゴ・アレハンドロ・ダルトン・ロサレス駐日エルサルバドル大使による特別講演の収録と、大槻 奈那、松嶋 真倫による大使へのインタビューを行いました。

後編となる今回は、みなさまからいただいたご質問をもとに行われたダルトン駐日エルサルバドル大使への特別インタビューの模様をお届けします。

>> >>ビットコインが法定通貨になった国 エルサルバドル駐日大使特別講演【前編】

ビットコインを法定通貨として採用することで得られる3つのメリット

――エルサルバドルがビットコインを法定通貨として採用することにより得られる経済活動上のメリットとしては、どのようなことがありますか?(松嶋)

ダルトン大使:ビットコインを法定通貨として採用するメリットは、3つあります。1つ目は、ビットコインを導入することで、多くの国民がデジタル決済を利用できるようになることです。

エルサルバドルには銀行口座を持っておらず、従来の金融サービスを利用できない国民の割合が非常に高いという問題がありました。そこで、ビットコインやデジタルウォレットを採用することで、銀行口座を持っていない人々も金融サービスにアクセスできるようにしたのです。

2つ目は、海外からの送金の効率性を改善できる点です。ビットコインは分散型のネットワークで管理されており、仲介する組織が存在しないため、送金にかかる手数料を削減できるというメリットがあります。

エルサルバドルのGDP総額に占める海外からの送金の割合は20%もあるため、ビットコインを利用し送金を円滑化することで、国内で流通する貨幣の量を増やすことができるのです。

そして3つ目のメリットとしては、ビットコインはすでにグローバルな通貨として認められているので、ビットコインを採用することで直ちに国際市場へ参入できることが挙げられます。

大槻:ありがとうございます。

――エルサルバドルでは、ビットコインを法定通貨として正式に採用するようですが、その価値に対する国家の裏付けはありますか?(大槻)

ダルトン大使:まず、ビットコインのメリットの1つとして、分散型のネットワークで管理されており、特定の人や組織の動向によって価値が変動しにくいというものがあります。法定通貨は価値が安定していることが重要なので、このようなビットコインの性質は法定通貨としての条件に適合しています。

エルサルバドルでは、投資と事業活動を活性化することを目的に、2001年から米ドルを法定通貨として導入しています。その米ドルに加えて、2021年からはビットコインも法定通貨としての利用が認められるようになりました。なお、これらの使用については任意のため、エルサルバドルの国民は決済をする際に米ドルとビットコインのどちらを使用しても問題ありません。

松嶋:ビットコインの持つ「国や金融機関に依らない性質」が、法定通貨として採用される理由になったのですね。

ダルトン大使:仰る通りです。

エルサルバドルのデジタル戦略とは

――給与や日常のすべての支払い決済をビットコインで行うことが理想なのでしょうか?(松嶋)

ダルトン大使:エルサルバドルには、エル・ゾンテビーチという観光地があります。今では「ビットコイン・ビーチ」と呼ばれることの方が多くなりましたが、この地域に住んでいる人たちは商品の購入やサービスの決済などに毎日ビットコインを使っています。今後は、エル・ゾンテビーチのようにビットコインが日常的に使われるエリアを全国的に広げていく予定です。

大槻:ビットコインの使用に関しては、あくまでオプショナルであるという点がポイントだと感じました。給与の支払いやその他の決済にビットコインも使えるけれど、それが義務ではなくオプショナルなところが重要であると。法定通貨は米ドルでもいいし、ビットコインでもいい。その選択は、あくまで国民に委ねられているという点がポイントなのではないでしょうか?

ダルトン大使:仰る通りです。米ドルもビットコインもどちらも同時並行的に使用できるということが極めて重要です。

大槻:ただ、使用に関してはオプショナルでありながらも、ビットコインを使えば「送金手数料が無料になる」などのメリットも受けられるということでしょうか?

ダルトン大使:ビットコインの送金手数料が無料になるには、Chivo Walletを使用していただくことが条件になります。ただ、それは国の政策として金融包摂を実現したいという意図があるためで、現時点でこのメリットを受けられるのはエルサルバドル国民だけとなっています。

――ビットコインを法定通貨に採用するにあたって、銀行や金融機関とはどのような取り決めがあったのでしょうか?ローンの貸付や金利の支払いなど、ビットコインで貸し付ける事例もあるのでしょうか?(大槻)

ダルトン大使:前編の講演で、私たちはビットコインに関するさまざまな政策を推進していくにあたって、「フィンテック金融イノベーション局」を新設したというお話をしました。ただ、このフィンテック金融イノベーション局はエルサルバドルで事業を行うプロバイダーのサポートを行うことが主な役割で、ビットコインの貸付は行っていません。

ビットコインの貸付・融資については国の機関ではなく、民間の各金融機関が独自に判断して行うことになります。そして、もし金融機関がビットコインの貸付を行う場合には、フィンテック金融イノベーション局と中央銀行に対して届出を行い、しかるべき手続きを踏んでいただく必要があります。

松嶋:あくまで国は制度を作るところまでの役割を担っており、融資は行わないというのがポイントですね。国が自由に貸付を行うのではなく、融資の判断については各金融機関に委ねているという点が重要だと感じました。

ダルトン大使:はい、その通りです。

ビットコインのスケーラビリティ問題を解決する技術

――町中の小さな商店などは、どのようなビットコインの決済サービスを使っているのでしょうか?(松嶋)

ダルトン大使:エルサルバドル国内では、ビットコインの決済に「ライトニングネットワーク」を利用している店舗の割合が1番大きいです。そのため、我々は国としてライトニングネットワークとの連携を強化しています。

ただ、ライトニングネットワーク以外でも、ビットコインに対応しているデジタルウォレットであればどのような種類のものでも使うことができます。最近新しく出てきた暗号資産用のデビットカードなども使用可能です。

松嶋:ライトニングネットワークについてご存知ない方のために、私の方から簡単に説明させていただきます。

ビットコインはスケーラビリティの問題がある関係で、送金手数料の高騰や取引の処理遅延などが発生しやすいのですが、そういった問題を解決するために開発された技術がライトニングネットワークです。そして現在、エルサルバドル国内の多くの店舗でこのライトニングネットワークが導入されているというのが先ほどの大使のお話でした。

ダルトン大使:仰る通りです。わかりやすく説明してくださりありがとうございます。

松嶋:ライトニングネットワークの普及に加えて、エルサルバドルではChivo Wallet以外のデジタルウォレットも決済に使えるということで、すでに地元の人だけでなく観光客もビットコインを利用できる環境が整いつつあるのですね。

ダルトン大使:はい、その通りです。中米の小さな国であるエルサルバドルが、ビットコインをはじめとする暗号資産にどれだけのポテンシャルがあるかを世界中に示すことができていることは、非常に画期的なことだと思っています。

大槻:もし、私が今からエルサルバドルに行った場合、ビットコインでどのような商品やサービスを購入することができますか?

ダルトン大使:スーパーやドラッグストアはもちろん、電気料金や水道料金の支払いなどあらゆる決済にビットコインを利用することができます。

ビットコイン・ビーチは気候が非常に高いため、観光客のみなさんはよくコーヒーショップを利用されます。しかし、「喉が渇いたからココナッツジュースが飲みたい」となった時に、肝心の支払い方法がわからないという方も中にはいらっしゃいます。そんな時に、「ビットコインでお支払いいただけます」という看板を見つけると、みなさんとても感激されます。

なぜ、他の暗号資産ではなくビットコインだったのか?

――発展途上国では米ドルが流通している場合が多いと思うのですが、あえて政府保証のないビットコインにした理由を教えてください。(大槻)

ダルトン大使:答えはシンプルで、「分散化」です。先ほども申し上げた通り、非中央集権的なビットコインには特定の管理者が存在しないため、送金にかかるコストを安く抑えられるというメリットがあります。

それに加えて、国境を超えて誰でも自由に使えるし、マイニングもできるという自由度の高さもある。私たちはこのようなビットコインの特徴に魅力を感じ、法定通貨として採用しました。

松嶋:ありがとうございます。今の質問に関連して、次のような質問も届いています。

――ビットコインはスケーラビリティに問題があり、取引が完了するまでに時間がかかります。なぜ他の暗号資産ではなく、ビットコインを選んだのでしょうか?(松嶋)

ダルトン大使:私たちがビットコインを選んだ最大の理由は、金融包摂です。つまり、これまで金融サービスにアクセスできなかった人たちに対しても、ビットコインを利用することで金融サービスの恩恵を受けられるようにしたかったのです。

あとは、2008年頃から価値が上がり続けており、他の暗号資産と比べて価値が高く、価格が安定している点もビットコインを採用した理由の1つです。

そして、ご質問にあるスケーラビリティの問題については、ライトニングネットワークを導入することによって解決しつつあります。今後さらにライトニングネットワークの研究や普及が進むことによって、ビットコインの決済環境はより改善されていくでしょう。

松嶋:今では2万種類以上あると言われる暗号資産ですが、「完全に分散化された暗号資産」となると、私が知っている中でもそのような暗号資産はビットコインしかないという印象があります。

ダルトン大使:仰る通りです。あとは、ビットコインの信頼性の高さも重要なポイントです。ビットコインは他の暗号資産が誕生する前から存在しており、人々から信頼されている通貨です。多くの人々がビットコインは信頼できる暗号資産だと思っていることも、採用の大きな理由でした。

大槻:金融包摂に関して伺いたいのですが、前編の講演の中で、Chivo Walletの登録ユーザーがすでに400万人を超えているということでしたが、ビットコインを導入する前は国内のどれくらいの人たちが銀行口座を持っていたのでしょうか?

ダルトン大使:手元に資料がないので、今は正確な数字はお答えすることができません。ただ先ほども申し上げましたが、エルサルバドルはクレジットカードも持っていない、銀行からの融資も受けられない、銀行口座すら持っていないという人たちが国民全体の7割を占めています。

そうなると、会社を起業しようと思っても資金を調達することができない、信用情報がないので家を買うこともできないという課題があったため、私たちはビットコインを金融包摂を実現するための重要なツールとして採用したのです。

大槻:今手元で計算してみたところ、エルサルバドルの国民が約650万人で、その内の7割が銀行サービスにアクセスできていなかったということは、これまで銀行口座を持っていた人たちは200万人弱しかいなかったということになると思います。

Chivo Walletの登録者が400万人以上いるということは、ビットコインを導入したことで金融サービスを受けられる人たちの数が2倍以上に増えたということでしょうか?もしそうであれば、非常に大きな改善が見られたことになりますね。

ダルトン大使:大体その計算で合っていると思います。エルサルバドルは、農村部に住んでいる人たちの割合が大きい国です。大きな都市も3つあり、都市に住む人たちの数も増えてきていますが、依然として多くの国民が農村部で生活しています。そのような地方で暮らす人たちの金融包摂を実現することが、私たちにとって重要な課題でした。

暗号資産の未来に期待すること

――暗号資産交換業者に対して、どのような役割が果たされることを期待しますか?(大槻)

ダルトン大使:私たちは国を挙げてビットコインの普及に努めていますが、その道のりは長く、海図なき航海に等しい状態です。そのため、ぜひ暗号資産交換業者と協力して、暗号資産の使い方やメリットについて多くの人たちに伝えていきたいと思っています。透明性のある形で情報共有をし、暗号資産は価値のあるものだということを共に啓蒙していきたいです。

松嶋:私と大槻も暗号資産に関する情報を発信していますが、日本にもまだ暗号資産に対して懐疑的な見方をする人が多くいる印象があります。大使のお話を伺っていて、情報を発信することの重要性と責任の重さを改めて感じました。

ダルトン大使:デジタル通貨は誕生して間もないこともあり、社会の中にはこの技術を信用していない人も多くいらっしゃいます。IT社会の中で育ってきた若い世代とそうでない世代では、デジタル通貨に対する理解度も異なるでしょう。

そのため、暗号資産について理解してもらうためには、「誰に対して説明するのか」や、「どの世代を相手にするのか」によって啓蒙の仕方を変える必要があります。すべての人に納得してもらうためには、まだしばらく時間がかかるでしょう。

松嶋:仰っていただいたことを教訓にして、我々も暗号資産に関する情報発信に取り組んでいきたいと思います。それでは、次が最後の質問となります。

――ビットコイン以外を法定通貨として採用する予定はありますか?(松嶋)

ダルトン大使:いえ、今のところは米ドルとビットコイン以外に法定通貨として採用する予定はありません。法律の名前もビットコイン法ですし、現時点でビットコイン以外の暗号資産を採用する計画はありません。

――最後に、「デジタルアセットの未来に対する期待」についてお考えを教えていただけますか?(大槻)

ダルトン大使:デジタルアセットは、この数週間非常に苦しい局面を迎えています。ただ、それはデジタルアセットに限った話ではなく、世界経済全体に共通している問題です。世界中でインフレが進行していて、米国やヨーロッパは10%近いインフレに悩まされていますし、日本円はこの1ヶ月半で25%以上も円安になっています。まさに、世界中が不景気に見舞われているのが現在の状況です。

ただ、裏を返せばそこには大きな改善の余地があるということになります。その改善プロセスの中で、デジタル通貨には非常に大きな役割があると私は考えています。

しかし、そうは言ってもデジタル通貨にはまだ多くの課題があります。そのため、私たちは今後さらに技術を向上させて、スケーラビリティの問題を克服したり、他のネットワークとの統合を進めたりして、デジタル通貨をより使い勝手の良いものにしていかなくてはいけません。

また、まだ世に出ていないデジタル通貨も今後増えてくるでしょう。ステーブルコインなども世の中に広がっていくかもしれないし、政府が発行するデジタル通貨も今後出てくるはずです。政府がデジタル通貨を発行するということは、政府もこの分野に期待しており、参画したいと考えている期待の表れです。

そういう意味では、私はデジタルアセットの未来をとても楽観視しています。ただ、暗号資産に関しては市場に流通している数が多すぎるので、マーケットのメカニズムを通じていずれ淘汰されていくでしょう。

大槻・松嶋:本日は、ありがとうございました。

執筆:ライター 柳田 孝介
※本コンテンツは2022年6月21日に収録した内容を編集・再構成しました。