ビットコインを採用した国、エルサルバドル。去る2022年6月21日、マネックス証券はディエゴ・アレハンドロ・ダルトン・ロサレス駐日エルサルバドル大使による特別講演と、大槻 奈那、松嶋 真倫による大使へのインタビューを行いました。

前編となる今回は、ダルトン駐日エルサルバドル大使による特別講演をお届けします。「デジタル国家プロジェクト」や「ビットコイン・シティ」など、ユニークかつ革新的政策で世界中から注目を集めるエルサルバドルがビットコインを法定通貨として導入した理由や、同国の今後の展望などについて語っていただきました。

3年前、小さな村から始まったビットコイン・プロジェクト

ダルトン駐日エルサルバドル大使:みなさん、こんにちは。本日は世界初のビットコイン国家となったエルサルバドルにつきまして、駐日大使である私からご説明させていただきます。

まず最初に、なぜエルサルバドルが世界初のビットコイン国家になったのかということからお話したいと思います。エルサルバドルは2021年の9月にビットコインを法定通貨として採用しましたが、ビットコインに関するプロジェクト自体が始まったのは2019年です。

国内でビットコインが広まるきっかけとなったのは、今から3年前にエル・ゾンテという小さな村に匿名でビットコインの寄付があったことです。この寄付を受けて、地元のリーダー達が自分達の村でビットコインを使えるようにするために、米国人のパートナーと協力をしてビットコイン経済のエコシステムを立ち上げ始めたのです。

ビットコインを国内に普及させるために、彼らが最初に注目したのが地元の若者達です。普及活動の一環として、彼らはエル・ゾンテビーチにいる若者達にゴミ拾いをしてもらう対価としてビットコインを与える、という取り組みを始めました。

すると次第にその取り組みが話題となり、地元の人々や企業がビットコインに対して強い関心を示すようになりました。またビットコインだけでなく、コロナ禍においてはデジタルウォレットにもさまざまなメリットがあるという認識も広がっていきました。

そのような中で、プロジェクトの担当者達は「ビットコイン・ビーチ」という暗号資産用のウォレットアプリを開発しました。そしてビットコイン・ビーチができたことにより、エル・ゾンテにおけるビットコインのエコシステムはさらに拡大することになります。

その結果、エル・ゾンテビーチでビットコインを決済手段として受け付ける店舗が増え、プロジェクトが始まってから1年半でエル・ゾンテの住民の実に90%がビットコインのユーザーになるまでになったのです。

このように、ビットコイン・ビーチを使ってビットコインを利用する人が増えたことが、エルサルバドルにおけるビットコイン普及の第1ステップとなりました。

ビットコインを導入した3つの理由

「なぜエルサルバドルはビットコインを法定通貨に採用したのか?」という質問をよくされます。私達がビットコインを選んだ理由には、主に3つの理由があります。

1つ目は、ビットコインが金融包摂を実現できるツールだからです。つまり、銀行口座を持っておらず、金融サービスにアクセスすることができない人達の数を減らすことができるということが、私達がビットコインを導入した最大の理由でした。当時、エルサルバドルの国民の約7割は銀行口座を持っていなかったのです。

そして2つ目は、ビットコインを利用することで国際送金にかかるコストを抑えることができるからです。エルサルバドルの経済は、海外からの送金に対する依存度が高いという特徴があります。

例えば、2021年には海外からの送金が年間を通じて70億ドル以上ありましたが、この金額はエルサルバドルの国内総生産(GDP)の約20%に相当します。このような多額の送金額に対して、既存の金融サービスでは手数料がかかりすぎてしまうという問題がありました。

その点、ビットコインは分散型のネットワークで管理されており、仲介する組織が存在しないため、送金などにかかるコストを抑えることが可能です。そこで私達は、ビットコインを利用することで海外からの送金効率を改善させようと考えたのです。

そして最後の3つ目は、ビットコインの認知度と安定性の高さです。ビットコインはすでにグローバルな暗号資産として認知されているので、ビットコインを利用することで国家として直ちに国際市場に参入できるというメリットがあります。また、他の暗号資産より価格変動が比較的安定しており、情報を入手・検証しやすいという利点もあります。

「ビットコイン法」の成立

以上のような理由から私達はビットコインを導入することを決めました。しかし、法定通貨として採用するためにはもちろん法整備が必要です。

そこで、エルサルバドルのブケレ大統領はビットコイン法案を2021年の6月8日に議会に提出します。法案は翌日に過半数の賛成票を得て可決。こうして「ビットコイン法」が成立(※発効は2021年9月7日)し、ビットコインはエルサルバドルで正式に法定通貨として認められるようになりました。

またビットコイン法だけでなく、現在は暗号資産のマイニングに関する法律や、スタートアップ法などの法案も準備中で、近い将来にこれらの法案も議会に提出される予定です。さらに、これらの法律に関わる人々や団体を監督する組織として、“フィンテック金融イノベーション局”も新たに設立されました。

次に、エルサルバドル政府は国民がビットコインを利用しやすくするために「Chivo Wallet」という独自のデジタルウォレットを開発しました。Chivo Walletは他のデジタルウォレットと互換性があり、仲介業者を介さずに手数料無料でビットコインを送金することができます。もちろん、ビットコインを利用した決済やビットコインの売買も可能です。

また、私達はChivo Wallet用のATMの設置にも力を入れています。現在、エルサルバドル国内に200ヶ所、米国内に50ヶ所のATMがあり、Chivo WalletのユーザーはATMを使ってウォレットにチャージされているビットコインを現金化したり、ウォレットにビットコインをチャージしたりすることができます。なお、2021年末の時点で400万人以上がChivo Walletのユーザーとして登録されています。

「デジタル国家プロジェクト」で国際競争力を強化

また、エルサルバドルでは「デジタル国家プロジェクト」と呼ばれるプロジェクトも推進しています。このプロジェクトは、エルサルバドルをデジタル国家へ変革させていくことを目的としており、具体的には「暗号資産のエコシステム」、「テクノロジーのアウトソーシング」、「AI(人工知能)」という3つの分野の促進に力を入れています。

さらに、3つの分野で成功するための6つの柱も用意しています。1つ目の柱となるのは、人材の育成。2つ目は、投資・商取引を促進するための規制枠組みの整備。3つ目がイノベーションと技術で、4つ目が金融ソリューション。そして、5つ目がマーケットへのアクセスの改善で、6つ目が投資の促進・誘致です。

1つ目の柱である「人材の育成」では、対象者にデジタルスキルを身につけていただき、国内の労働市場を産業界としっかりと結び付けていくということが重要になります。そして2つ目の「規制枠組みの整備」では、現代的な規制枠組みを用意し、法的な安定性を実現することで、投資と輸出のインセンティブを設けていくことを目指しています。そのために現在、eコマース法やスタートアップ法などの法律を整備しています。

3つ目の「イノベーションと技術」に関しては、教育・研究・デジタル開発に資するようなインフラの整備を目指しています。また4つ目の「金融ソリューション」は、革新的な金融商品を拡充することによって、海外からのアクセラレーターを誘致したり、ベンチャーキャピタルの資金を呼び込むことなどが狙いです。

そして5つ目の「マーケットへのアクセスの改善」は、輸出と投資の機会を増やすことによって、マーケットへのアクセスをさらに拡大していくことが目的です。最後の柱である「投資の促進と誘致」に関しては、既存あるいは潜在的な投資家に対して新しい投資機会を提供していきたいと考えております。

CO2排出ゼロの未来都市「ビットコイン・シティ」の建設へ

ブケレ大統領率いる現政権のもう1つの重要なプロジェクトが、「ビットコイン・シティ」です。ビットコイン・シティに関しては、“スマートシティ・プロジェクト”のようなものだと考えていただければわかりやすいでしょう。コンチャグア火山のあるラ・ウニオン県南部で、現在このビットコイン・シティの建設が進められています。

ビットコイン・シティは居住区と商業地区に分かれており、鉄道、空港、港湾などの交通インフラに加えて、様々なサービスや娯楽が楽しめる商業施設も建設されています。

なお、ここで重要なことは、これらの施設・インフラの運営に必要な電力がすべて地熱発電によって賄われるということです。つまり、火山帯というメリットを活かして地熱発電を利用することで、二酸化炭素の排出をゼロに抑えられるのです。さらに、ビットコインのマイニングにもこの地熱発電の活用を計画しています。

このプロジェクトについては、海外からの直接投資を誘致したいという目的があります。そのため、土地と公共インフラについては政府が用意しています。さらに、ビットコイン・シティは経済特区という位置付けになっているため、所得税、譲渡所得税、財産税、給与税、地方税はすべて非課税となります。

また、ビットコイン・シティの開発資金を集めるために、「ボルケーノ(火山)債」という債券を発行する計画も進行中です。ボルケーノ債はビットコインを裏付けとする債券で、初回は10億ドル分の発行を予定しています。

調達した資金については、ビットコイン・シティの建設やビットコインの追加購入などに充てられる予定です。なお、2022年5月時点でエルサルバドル政府は2,301BTCを保有しています。

エルサルバドルは企業設立のコストが低く、ビジネスを行うには理想的な環境が整っています。この講演を聞いてくださったみなさまには、サービスプロバイダーとしてエルサルバドルの暗号資産エコシステムにぜひ参加していただきたいと思っています。

>> >>ビットコインが法定通貨になった国 エルサルバドル駐日大使インタビュー【後編】

※後編ではみなさまからいただいたご質問をもとに行われた、大槻 奈那、松嶋 真倫によるダルトン駐日エルサルバドル大使への特別インタビューの模様をお届けします。

執筆:ライター 柳田 孝介
※本コンテンツは2022年6月21日に収録した内容を編集・再構成しました。