同じ「悪い円安」、ただ理由は違う

米ドル高・円安が13日、一時2002年の記録を僅かながら上回った。これにより、1998年以来、約24年ぶりの円安水準を記録したこととなった(図表参照)。そんな24年前、1998年の円安と今回では、類似点と相違点それぞれあるので、それについて少し整理してみたい。

【図表】米ドル/円の推移(1990年~)
出所:リフィニティブ社データよりマネックス証券が作成

まずは違いから。1998年と最近の円安との最も分かりやすい違いは物価との関係だろう。1998年は日本経済においていよいよデフレが始まるタイミングだった。これに対して、足元は物価高、つまりインフレが懸念される状況となっている。

物価高において、輸入物価を押し上げる円安は悪影響が目立ちやすい。日本における「物価高での円安」の代表例は、1980年代前半と今回であり、「悪い円安」がクローズアップされやすい状況と言えるだろう。

この物価との関係においては、1998年の円安は今回とは「真逆」といっても良いだろう。上述のように、日本経済においては1998年頃から物価の下落、いわゆるデフレが始まった。円安はもちろん輸入物価の上昇をもたらすが、全体的には物価の下落、つまりデフレが懸念される中では、「物価高をもたらす円安」への懸念はそれほど強くなかったと思われる。

しかし、この1998年にかけての円安も、「総合評価」として「悪い円安」とみなされた可能性が高そうだ。なぜなら、この局面では円安阻止介入が断続的に行われたから。2000年以降も、何度か円安局面はあったものの、円安阻止のために米ドル売り・円買い介入は行われなかった。

円安阻止介入を、日本政府による「悪い円安」との評価の目安とすると、1998年にかけての円安は、「悪い円安」とみなされていた可能性があった。ではインフレどころかデフレ懸念の中でも、1998年の円安が「悪い円安」とみなされたのはそもそもどうしてか。

1997年から大手の証券会社、銀行の経営破綻が相次いだ。そういった中で、上述のように物価も下落、デフレへの転落懸念も広がってきた。そして株価も、1998年末にかけて下落傾向が広がった。円安と株安の同時進行、それは日本経済を悲観したキャピタル・フライト(資本逃避)が懸念されるものだった。「究極の悪い円安」が警戒された状況だったと言っても良かったのではないか。

以上を整理すると、1998年にかけての円安と最近の円安では、物価との関係では「真逆」といっても良さそうだ。にもかかわらず、両者はともに「悪い円安」との評価が目立っていることが類似点だ。ただし、「悪い円安」とされる理由が、1998年と最近では違うと考える。

1998年は、円安と株安の同時進行といった日本からの資本逃避も懸念された「悪い円安」だったのに対し、今回は、円安の中でも株価は一進一退であり、日本からの資本逃避懸念が高まるものとはなっていない。それでもなお、「悪い円安」懸念が高いのは、物価との兼ね合いによるということだろう。