EUはロシア産石油の輸入禁止に関する制裁措置で合意
欧州連合(EU)は先週5月30日、ロシア産石油のEUへの輸入を禁止することを柱とする追加の制裁措置を講じることで合意しました。段階的ではあるものの、年内には約90%の輸入が止まることになるとのこと。
やはり、そのことがユーロ圏経済に及ぼす影響は小さくないものと考えられ、先週は5月半ばからのユーロ/米ドルの戻りが5月30日高値=1.0787ドル処で一旦頭打ちとなったことが印象的でした。
既知のとおり、今週6月9日には欧州中央銀行(ECB)理事会が控えており、そこで改めて7月利上げ開始に向けた明確な方針が示されるものと見られています。
まずは、そのことに対する市場の反応を注視しておくことが重要でしょう。場合により、改めて1.08ドル近辺までの上値を試す可能性もあるでしょうが、一目均衡表の日足「雲」下限の水準をクリアに上抜けることはなかなか容易ではないと思われます。
市場は米ドル買いの傾向へ
なにしろ、目下の市場は再び米ドル買いに強くなびいてきています。先週6月3日に発表された5月の米雇用統計の結果は、非農業部門雇用者数の伸びが事前の市場予想を上回ったものの、前回実績は下回りました。
平均時給の伸び(前年同月比)は前月より鈍化していましたし、詳細に見れば「小売り」で雇用者数が目立って減少していました。「建設」の雇用は増加しましたが、足元では米住宅需要が目に見えて減速しはじめています。それにも拘らず、市場は米国株売り・米ドル買いで反応したのです。
違和感あるFRBのパウエル議長、ブレイナード副議長の発言
既知のとおり、すでに米連邦準備制度理事会(FRB)は6月と7月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で其々0.5ポイントの利上げ実施を決定する可能性が高いことをアナウンスしており、本来ならその影響が各方面に及ぶことも考慮する必要があるものと思われます。
さらに1.0ポイント分の利上げが実施されれば、少なくとも米住宅販売などは確実に減速し、関連の雇用も減少します。一部の米企業経営者や市場関係者からは、米労働市場の先行きに対してやや悲観的な声も聞かれ始めました。
それでも、当分の間、FRBは敢然とインフレに立ち向かう姿勢をアピールすることで支持率アップを切望するバイデン米政権に忖度し、協調するということでしょうか。
奇しくも、先週5月31日に行われたバイデン米大統領とパウエルFRB議長の会談後には「バイデン米大統領がFRBの独立性を尊重することを確約した」と伝えられました。そんな当たり前のステートメントを出すことは、それ自体に違和感を禁じ得ません。
先週6月2日にはFRBのブレイナード副議長が米CNBCとのインタビューにて「9月に利上げを休止する可能性は非常に低い」と応えたそうですが、現段階でのこうした発言にも違和感があります。
米ドル/円は再び直近高値を試すか、ユーロや英ポンドも上値余地があるか
ともあれ、今しばらく市場は「米労働市場は非常にタイトであり、なおもFRBは積極的な金融引き締めを続ける」との前提で動くようですから、無闇にその流れに逆らうわけにもいきません。
加えて、足元ではクロス円全般が非常に強い状態を続けており、とにかく円の弱さが目立っています。よって、目先的に米ドル/円が再び直近高値=131.35円を試す可能性は十分にあるでしょう。ECBの7月利上げ開始が見込まれるユーロや6月の追加利上げが見込まれる英ポンドにも一定の上値余地はあると思われます。
ただし、ユーロについては冒頭で触れたロシアの石油禁輸措置の影響を徐々に考慮していかねばなりません。英ポンドは追加利上げが既に市場で完全に織り込まれています。よって、今月行われる其々の金融政策会合後には一旦調整安となる可能性もあります。
また、米ドルに関しては、まず今週6月10日に発表される5月の米消費者物価指数(CPI)の結果に対する市場の反応が焦点となるでしょう。インフレのピークアウト感が強まるようなら、改めて129円台前半あたりまで下押す可能性もあると心得ておきたいところです。