積極投資で手元キャッシュ減少、新たに8社の株式を追加

著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いる米投資会社バークシャー・ハサウェイ(BRK.B)がSEC(米証券取引委員会)に提出した2022年3月末時点のフォーム13Fが公開された。以下は前回2月14日に発表された2021年12月末時点との保有株式を比較したものである。

【図表1】バークシャー・ハサウェイの保有する米上場株式(緑色:新規投資、赤色:売却)
出所:フォーム13Fより筆者作成

バフェット氏はここ数年、「良い投資先がない」と公言しており、2022年2月に公開された株主宛ての書簡においても、2021年末にかけて手元資金が増えたのは長期投資にふさわしい企業が見つからなかったためだと説明していた。しかし、そんなバフェット氏がここ数ヶ月ほど積極的な投資を進めている。

図表2では、バークシャーの手元キャッシュが減少していることが分かる。

【図表2】バークシャー・ハサウェイの現金ポジションとNYダウの推移
出所:決算資料より筆者作成

今回公開されたフォーム13Fによると、マイクロソフトが買収する予定のゲームソフト大手アクティビジョン・ブリザード(ATVI)へ追加投資した他、パソコンメーカーのHP(HPQ)、自動車販売店やその顧客に金融サービスや保険商品を販売するアライ・フィナンシャル(ALLY)、石油化学製品・プラスチック製品等を製造するセラニーズ(CE)等の株式を新たに取得した。

こうした投資により、2021年末時点で過去最高に近い水準にあったバークシャーの手元資金は2022年3月末時点で1063億ドルと、2021年末時点の1467億ドルから、約400億ドル減少した。

一方、医薬品のアッヴィ(ABBV)とブリストル・マイヤーズ(BMY)、さらには1989年から投資していたウェルズ・ファーゴ(WFC)株を全て売却した。ウェルズ・ファーゴについては不正営業問題の発覚後、ほぼ持高を減らしていたが、今回全株式を手放した。

「インフレに対する最良の防御策は、自分自身のスキルに投資すること」

「投資家のためのウッドストック」と呼ばれるバークシャーの年次株主総会が4月末に開催された。今回の総会は3年ぶりに対面での開催となり、世界中から多くのバークシャー株主が集った。

4月30日付のCNBCの記事「Warren Buffett says inflation ‘swindles almost everybody,’ Munger rails against bitcoin, market ‘mania’ at Berkshire meeting(バークシャーの総会において、ウォーレン・バフェットはインフレが「ほぼ全員をだます」と述べ、マンガーはビットコインと市場の「マニア」を批判)」から、総会の様子を簡単に振り返る。

バフェット氏が永年のビジネスパートナーであるチャーリー・マンガー氏と共に会場のステージに登場すると株主から大きな拍手が沸き起こった。バフェット氏は冒頭「ここに戻ってくることができて気分がいい」と述べ、「私たち2人(バフェット氏とマンガー氏)の年齢を合計すると190歳だ。98歳と91歳が会社を経営しているのなら、実際に2人の姿を見ておかなくてはならないと思うでしょう」とジョークで株主を迎えた。

バークシャーの年次総会が始まった当時は至って質素なものだったと言う。地元のオマハ・ワールド・ヘラルド紙によると、バフェット氏がオマハで総会を開催するようになって最初の数年間は参加者がわずか10人程度だった。そこから徐々に人数が増え、1985年には250人、1989年には1,000人、1996年には5,000人が総会に参加するようになり、2000年代に入って数万人が参加する一大イベントとなる。このためオマハは、ビジネスと金融業界の人々の「巡礼の地」とされている。

今回の総会にはJPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOが初めて参加した他、マイクロソフトが買収したアクティビジョンのCEOやアップルのティム・クックCEOも出席していたとのこと。

総会の目玉はバフェット氏とマンガー氏が長時間にわたり株主からの質問に直接答えるQ&Aセッションと丁々発止のやりとりである。今回の質疑応答は5時間近くに及び、その中で彼らの投資哲学をうかがえる話がいくつかあった。

バフェット氏は3月中のわずか2週間で、石油大手オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)の14%を取得、その価値は70億ドル以上に及ぶ。これについてバフェット氏は「2週間で、何十年も続いている事業の14%を買うことができた」と語り、「ギャンブル精神」に煽られた2022年初めの短期的な変動が、長期的な良い機会を見つけることを可能にしたと述べた。

しかしその一方で、投資する企業を見つけるのに「とても苦労している」とも語った。「どんな代償を払ってでも、どんな坂を登ってでも、ビジネスを見つけたい」と述べ、「私たちは良いアイデアを見つけるのに非常に苦労しているので、どのアイデアも無視できない」と、バークシャーは米国内に限らず、海外企業への投資にも前向きであることを明らかにした。

マンガー氏は現在の株式市場について「ほとんど投機マニア」になっていると指摘。「アルゴリズムが搭載されたコンピューターが、他のコンピューターを相手に取引をしている。株式のことを何も知らない人たちが、さらに何も知らない株式仲買人にアドバイスをもらっている」と述べた。バフェット氏はこれに対して「でも、手数料のことは理解している」と冗談を飛ばした。

インフレについての質問に対してバフェット氏は、パンデミック時の大規模な刺激策が現在の物価上昇の主な原因であると述べた。「お金を大量に刷れば、お金の価値は下がる」と指摘したが、「私のセオリーでは、ジェイ・パウエルは英雄だ。とてもシンプルに彼は、やるべきことをやったのだ」と述べ、コロナ禍で通貨供給量を増やし、市場を安定させるために行ったFRB(米連邦準備制度理事会)の行動については批判しなかった。

また、インフレは株式投資家を「だます」とした以前の発言について質問されたバフェット氏は、物価上昇の被害はそれよりもはるかに広範であると指摘した。「インフレは債券投資家をも欺く。マットレスの下に現金を置いている人も騙される。ほとんどすべての人を騙すのだ」と。

さらに「問題は、インフレがどの程度進行するかであり、その答えは誰にも分からない」と述べ、インフレの行方を予測できると主張する人たちの意見に耳を傾けないよう注意を促した。バフェット氏は「インフレに対する最良の防御策は、自分自身のスキルに投資することだ」と強調した。

一方のマンガー氏は、インフレが高騰している中でどのような銘柄に投資するかという質問を受け、具体的な投資先は明らかにしなかったものの、投資しない場所としてビットコインを挙げた。「自分の退職金口座を持っていて、親切なアドバイザーが全財産をビットコインに入れるように勧めてきたら、ノーと言えばいい」とコメントした。

ビットコインについてはバフェット氏も同様の姿勢を示している。「来年、5年、10年の間に上がるか下がるかは分からない。しかし、1つだけ確かなことは、何も生み出さないということだ」とし、極端に安い価格でも買いたくないと述べた。そしてビットコインよりも具体的な価値を持つ資産として、農地、マンション、そして美術品などを挙げた。

なお、今回の総会においてバークシャーの会長兼CEOであるバフェット氏に対し、「会長職」の退任を求める株主提案が出され、その提案に米最大の公的年金基金カルパース(カリフォルニア州職員退職年金基金)が賛同する方針を示していた。

質疑応答の中でマンガー氏は、この案について「今まで聞いた中で最も馬鹿げた批判だ」とし、「オデッセウスがトロイの戦いなどに勝って帰ってきて、ある男が『あの戦いに勝ったときの槍の持ち方が気に入らない』と言うようなものだ。一度もビジネスをしたことがなく、何も知らない人が、こんな提案をするのはどうかと思う」と手厳しく批判した。

質疑応答後に行われた議案の採決において、バフェットに対して会長職からの退任を求める議案は否決された。

石油株に注力するバフェット、本格的なインフレ時代の到来なのか?

当局への届け出フォーム13Fに話を戻そう。図表3はバークシャーの保有株トップ30(時価評価ベース)である。トップは前回同様アップル(AAPL)で、その評価額は1555億ドル、ポートフォリオに対する比率は約43%となっている。以下、バンク・オブ・アメリカ(BAC)、アメリカン・エキスプレス(AXP)と続く。ここまでは前回と同じであるが、4位にシェブロン(CVX)が顔を出した。

【図表3】バークシャー・ハサウェイの保有株トップ30(2022年3月末時点の13Fより)
出所:フォーム13Fより筆者作成

バークシャーは石油株への投資を積み増している。シェブロンだけではない、2月下旬に投資を始めたオクシデンタルを買い増し、その時価評価額は77億3780万ドル、オクシデンタルはバークシャーの保有上場株で上位8位に入った。

過去のデータから消費者物価の上昇期に最高の実績を上げるのはエネルギー株であることがわかっている。2021年2月22日付のブルームバーグの記事「インフレ不安高まる中の株式投資-ゴールドマンやソシエテのお勧めは」によると、ネッド・デービス・リサーチの調査から、エネルギー株は過去50年にわたり一貫して高インフレ時の勝ち組だったと言う。

【図表4】原油のスーパーサイクルとそのドライバー
出所:JPモルガンの資料より筆者作成

JPモルガンは2021年、「世界は次のコモディティのスーパーサイクルに突入した」という予測を明らかにした。コモディティにおける長期のダウンサイクルは終わり、新たなコモディティの上昇、特に原油の上昇サイクルが始まったと指摘した。

過去100年間で大まかに4回のコモディティのスーパーサイクルがあったと言われている。前回の1つは1996年に始まった。そのスーパーサイクルは2008年(拡大の12年後)にピークを迎え、2020年(12年の収縮後)に底を打ち、新しいスーパーサイクルの上昇局面に入ったと言うものだ。

1996年からのスーパーサイクルをけん引した重要なドライバーは、中国を含む新興国の経済的な台頭であった。当時、米ドルは弱含んでおり、資産運用会社はポートフォリオを分散させるためにコモディティへのエクスポージャーを追加するケースが増えていた。

その後、2008年の世界的な景気後退は、欧州(2011年)と中国(2015年)のさらなる減速と相まって、コモディティ価格を下押しし、トランプ政権時代の「貿易戦争」やそれに続く世界的な製造業の不況、そして2020年には原油価格を史上初めてマイナスの領域に送り込んだパンデミックを経て、12年続いたダウンサイクル(価格下落サイクル)は終わりを告げたとしている。

バフェット氏が石油株へのエクスポージャーを増やしているのは、本格的なインフレ時代が到来していることの表れなのかもしれない。

石原順の注目5銘柄

アップル(AAPL)
出所:トレードステーション
シェブロン(CVX)
出所:トレードステーション
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)
出所:トレードステーション
コカコーラ(KO)
出所:トレードステーション
アメリカン・エキスプレス(AXP)
出所:トレードステーション