FPという職業柄、投資初心者の方には必ずリスクの話から始めます。
リスクというと「損をする可能性」と考える方がいますが、投資の世界では値上がりも含めて価格変動幅の大きさを指します。そのリスクを小さく抑え、なるべく安定的にリターンを得る手法として「分散投資」の大切さを説いてきました。
ですが最近は分散投資に対し懐疑的な投資家も増えているようです。

リーマンショック以前には、過去数十年の伝統的な資産(国内株式、外国株式、国内債券、外国債券)に対し一定率の分散をしながら年1回の見直し(リバランスおよびリアロケーション)を繰り返せばリターン率を向上できたことが実証されていました。

ところが、バブル後、またはリーマンショック後に投資を始めた方には「負け続き」となってしまっているケースが多数を占めています。

伝統的資産への分散投資が効果的にその力を発揮してきた背景に、それぞれの資産の値動きが逆相関に近く、どれかが値下がりしても他の資産は値上がりすることで損益を相殺し、全体の資産価値を安定させる力が働いていたからです。

世界の市場がボーダーレスとなり、逆相関であるはずの資産が同時同方向に動くことが増え(大きな出来事があれば債券も株も同時急落する)、日本人投資家にとっては自国通貨円の急激な円高への動きで海外資産が目減りし、大きな痛手となりました。

かつて為替市場では通貨の動きはその国の景気状況を反映し、またメジャー通貨のどこかに「拠り所」があったものですが、現在は必要以上の円高や不安定な米ドル、信用不安に揺れるユーロと安心できる受け皿がありません。

FX投資家は早くからその不安定さを逆手に機敏な投資を行っていましたが、長期分散投資派の投資家には、短期売買は「投機的」に映り敬遠していたことと思います。

先週の日経新聞に「リスク・コントロール型分散投資」という記事がありました。
「分散投資」には違いありませんが、これまでのような一定率の配分を維持する分散投資と違い、ポートフォリオ全体のもつリスクを一定化する分散投資で、リスクが一定となるように機動的な配分の見直し=売買をする必要があるというものです。
リスクが安定すれば、結果として安定的なリターンを得られることにつながります。

記事ではその手法を用いたファンドを紹介していましたが、実際リスクの大きさ(「標準偏差」)を個人投資家が独自に計りコントロールすることは大変難しく、いくつもの市場を同時進行に機動的な売買を繰り返すことはなかなかできることではありませんよね。

それでもリスク・コントロール型分散投資に近づけるには、詳細なリスク計測はできずとも、少なくとも下記には注意しましょう。

・市場を見ながら機動的な売買をする(様々な注文方法をフルに活用) ・リスクの高い金融商品(株式・コモディティなど)の配分比率を小さくする ・海外資産を保有する場合はFX投資を活用するなど「為替ヘッジ」も考える
リターンを高めるためには投資が必要であり、分散投資がやはり重要なのですが、その手法は市場環境に合わせて進化させる必要がありそうです。

廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー