受託生産ビジネスの拡大進めるマグナ(MGA)

電気自動車(以下、BEV)の普及を背景に、自動車におけるソフトウェアとハードウェアの分離が加速しています。連載第3回目「電気自動車時代ではソフトウェアが収益源に」の通り、ソフトウェアに関しては既にテックジャイアントなどの多くの新規参入が相次いでいます。他方、ハードウェアを1つのまとまりとしたプラットフォームに、ビジネスチャンスを見いだす企業が存在します。

既存企業としては、カナダの自動車部品大手マグナ・インターナショナル(MGA)が該当します。同社は、オーストリア工場でBMW、メルセデス・ベンツ、ジャガー・ランドローバー、トヨタ(7203)などからの完成車の受託生産実績があります。ソニーG(6758)のコンセプトカーの受託生産も、マグナが手がけました。

マグナは、中国にも新工場を設立。北京汽車グループと協業契約をし、傘下のBEV大手である北京新能源汽車のARCFOXブランド「a-T」の生産を始めています。この工場では、北京汽車グループ以外の顧客からの受託生産も可能で、年間18万台の生産能力を備えています。

また、マグナは2021年6月に、新興BEV専業メーカーのフィスカーとも長期契約を締結。オーストリア工場で2022年11月から、マグナが開発したプラットフォームをベースとしたフィスカー「オーシャン」の生産を開始する予定です。このように、プラットフォームを活用して、徐々にBEVメーカーからの受託生産を増やしています。

ホンハイが電気自動車用プラットフォームに本格参入

ハードウェアのプラットフォームビジネスに名乗りを上げたのが、台湾ホンハイ(フォックスコン)です。ホンハイは、スマートフォンの受託生産で成長してきた企業です。

ホンハイは2020年10月、「Hon Hai Tech Day 20」でBEV市場への本格参入を表明。同社はオープンなエコシステムの中でBEV用プラットフォーム「MIH(モビリティ・イン・ハーモニー」を開発し、スマートフォンのプラットフォーム「アンドロイド」のようなポジションを目指すとしています。自動車産業も、スマートフォンと同様に、BEVの普及を境に水平分業型のエコシステムになると見込んだ参入といえます。

そして2021年6月に、MIHコンソーシアム(企業連合)を発表し、台湾事務所を設立。MIHコンソーシアムには、2022年4月4日時点で2,300社以上が参画。その中で、日系の上場企業は60社以上となっています。図表の通り、日系の上場企業を業種別に整理しても、化学からサービス業まで様々な業種からMIHコンソーシアムに参画していることが理解できます。特にその中では、BEV用のイーアクスル(モーターとインバーター、ギアなどを一体化したもの、ガソリンエンジン車のエンジンに該当)に注力している日本電産(6594)とは、合弁会社設立の検討を開始しており、注目に値すると考えています。

ホンハイの実際の受注実績としては、前述のフィスカーと契約。マグナは、フィスカーの最初のモデルを受注しましたが、ホンハイは2番目のモデルを受注。販売価格は3万ドル以下からとし、2023年の10月~12月から米国で生産を始める計画です。将来的には年間25万台以上の販売規模を狙っています。

次いで、米国の新興BEV専業メーカーのローズタウンから米国工場を取得。株式も取得したローズタウンとともに、量産型BEVを生産します。フィスカー向けも、この工場で受託生産する可能性が高いとQUICK企業価値研究所ではみています。

タイにおいても、タイ国営の石油公社PTTと提携し、BEV用プラットフォームを手がける計画です。両社合弁の新工場は、第1段階として年間5万台の生産能力とし、将来には年間15万台の能力まで拡大する余地があるとしています。なお現時点では、自動車メーカーから正式な受託は決まっていない模様です。

【図表】主なMIHコンソーシアム参画企業
出所:ホンハイ資料よりQUICK企業価値研究所作成

商用車向けプラットフォームに特化するREEオートモーティブ

REEオートモーティブも、BEV用プラットフォームビジネスに参入を表明した企業です。同社は、商用車向けプラットフォームに特化し受注獲得を目指しています。REEオートモーティブもホンハイ同様、様々な企業と提携してエコシステムを構築する考えです。

前述のマグナとも受託生産先として協力関係にあるほか、日系の上場企業では商用車メーカーの日野自動車(7205)に加え、三菱商事(8058)、日立(6501)、武蔵精密(7220)、KYB(7242)とも提携しています。2022年に商用車向けBEV用プラットフォームのプロトタイプを完成させ、2022年末には年間1万台、2023年末までには年間2万台の生産能力を持つ予定です。

大規模な受注獲得がビジネス成立の鍵に

QUICK企業価値研究所では、BEV用プラットフォームビジネスにおいて、既存の自動車メーカーから規模の大きい受注を獲得するのは難しいと現時点では考えています。既存の自動車メーカーは、量産ノウハウを既に手の内化しており、生産拠点も確立しているためです。従って、受注獲得の機会があるのは、フィスカーやローズタウンといった新興のBEV専業メーカーとみています。ただ現状の受注規模は小規模であり、スマートフォンでの勝利の方程式となった大量生産によるコストダウン効果は望めないと考えています。

そのような観点では、このビジネスモデルを成功させる受注となりえるのは、BEV市場への参入の噂が絶えないアップルや、ウーバーなど大手ライドシェリング企業からの大規模な受注が獲得できるか否かにかかっているとみています。大規模な受注が獲得できれば、これまでの自動車産業の形態である自動車メーカーを頂点とした垂直統合型ビジネスから、スマートフォンのような水平分業型へ変化する可能性はあるとみており、今後の動向に注目しています。