直近のJ-REIT価格動向

新年度になった4月以降のJ-REIT価格は、大幅な上昇が続いた3月下旬の反動もあり反落している。東証REIT指数は3月上旬の1,850ポイント台から3月29日に2,023ポイントまで上昇していたが、4月に入り2,000ポイントを挟んだ動きとなっている。

前回のコラムで記載した3月下旬の価格上昇要因となった米国の長短金利フラット化は継続している。4月12日に東京証券取引所が公表した3月の部門別売買動向では、外国人投資家が600億円を超える大幅な買越しとなっており、外国人投資家の中では長短金利のフラット化から景気悪化を懸念し、収益の安定感があるREITへの投資を拡大する投資家が増えていることが窺える。

しかし、米国10年債利回りの上昇が続き4月12日には2.8%を超える水準まで上昇し、J-REITとの利回り差が縮小しているため、J-REITの利回り投資商品としての優位性は少なくなっている。また東証REIT指数が2,000ポイントを超えたため、利益確定の動きが出ていると考えられる。

KKRによるJ-REIT運用会社買収の概要

さて、ここからは前回のコラムで予告した通り3月中旬からのJ-REIT価格上昇を牽引した要素になったとも考えられるKKRのJ-REIT運用会社買収について記載する。3月17日に日本都市ファンド投資法人(8953)(以下JMF)と産業ファンド投資法人(3249)(以下IIF)の運用を受託している三菱商事・ユービーエス・リアルティ(以下MCUBSR)は、株主の異動を公表した。

MCUBSRは2002年3月のJMF(旧日本リテールファンド投資法人)の組成の段階から三菱商事51%、ユービーエス49%の株主構成であった。双方の株式持分を外資系ファンド大手KKR傘下の会社に2,300億円相当(20億米ドル)で売却することで、スポンサーがKKRに変更(以下、本件株式異動)となる。

三菱商事の2021年3月期連結決算資料によれば、MCUBSRの三菱商事出資分の持分当期純利益は27億円となっている。MCUBSRの出資額は2億5千万円程度であり、利益率は極めて高いが、総合商社である三菱商事の全体から見れば利益の絶対額としては低い水準となっている。

また三菱商事は不動産ファンドや非上場の私募REITを行う100%子会社を通じて不動産投資事業を継続する方針を示していることから、本件株式異動による1,200億円弱の資金を活用して利益の絶対額拡大を志向するものと考えられる。

投資家への影響とKKR側の背景

本件株式異動でスポンサーが変更となるが、MCUBSR側のプレスリリースに拠れば運用体制への影響は少ないとしている。まず運用方針に変更はなく、体制については現スポンサーからの出向者は10%未満であり、いわゆるプロパーの社員によって運用が継続される点を挙げている。

次に物件取得による外部成長に関しては、直近5年間にJMF、IIFがスポンサー関連の会社から取得した物件の比率が合わせて10%以下であることを挙げている。つまりスポンサー経由での物件取得が主体となっている他銘柄とは異なり、影響が少ないことを示している。

また保有物件の収益拡大に関する内部成長面でも、テナントと直接接点を持つプロパティマネジメント(PM)や物件メンテナンスを行うビルマネジメント(BM)の会社が現スポンサーとの関連がない独立した会社であり影響はないとしている。

KKRがスポンサーになることで派生する投資家の影響としては、外部成長が加速する可能性があると考えられる。

その理由として前述の通りKKRは2,300億円を投じてMCUBSRを買収しているが、MCUBSRは年間の運用報酬で130億円(直近決算期ベース)、当期純利益で55億円程度しかないことが挙げられる。つまりMCUBSRの買収の背景には、既にKKRが日本で保有する不動産ポートフォリオを活用するためと考えられる。

KKRの日本国内傘下には、自動車部品会社のマレリや医療機器のPHCホールディングス(6523)、タンク事業大手のセントラル・タンクターミナル、流通業の西友などがある。

例えば、KKRは傘下の会社が保有する工場などの底地をIIFに売却すれば、傘下の会社のバランスシートが「軽く」なりROAを改善することが可能になる。

従ってJMFやIIFの投資家から見れば、外部成長の拡大が期待できることになりそうだ。

但し、取得物件の契約内容次第ではリスクが増える点には留意が必要だ。例えば工場の底地を取得した場合には、その工場自体が閉鎖される事態になれば借地料収益がなくなるだけなく大幅な減損も想定されるためだ。また外部成長が加速する場合には、増資の頻度が増すことにも注意したい。