3月24日に開催された東芝の臨時株主総会で、経営側が提案した会社を2分割する案が否決されました。その背後にはファラロン・キャピタル・マネジメント(以下、ファラロン)などアクティビストの存在があります。この記事では、ファラロンの概要と投資戦略について解説します。

ファラロン・キャピタル・マネジメントとは

ファラロンは1986年に設立された資産運用会社です。同社のウェブサイトの情報(2022年4月5日時点)によると運用資産は390億ドル(約4兆円)、約230人の従業員を有し、大学の基金や年金、慈善財団を含む機関投資家や富裕層のための資産運用を行っています。

本社は米サンフランシスコで、ロンドンや香港、東京、サンパウロに拠点があります。そして、資産の保全を重視するボトムアップアプローチを通じ、世界の資産に投資しています。

日本法人のファラロン・キャピタル・ジャパンは2010年に設置され、リサーチオフィスとして関東財務局に投資助言業者として登録されています。

ファラロン・キャピタル・マネジメントの投資戦略

ファラロンの投資戦略は、主に次の5つです。

●上場株投資
●クレジット投資
●合併裁定取引
●不動産投資
●直接投資

上場株投資では、企業の本質的価値に比べて過小評価されていると考えられる企業に投資しています。またスピンオフなどの企業組織再編や、経営戦略の変更、法的紛争など大きな変化が生じている企業に対しても投資します。

そして、企業との建設的なエンゲージメント(対話)を通じ、コーポレートガバナンス(企業統治)の改善と、中長期的な企業価値の向上を目指しています。

東芝の大株主に

不正会計で自己資本が大きく毀損した東芝は、2017年12月に約6000億円の第三者割当増資を行いました。その際、ファラロンは増資を引き受け、東芝の大株主となりました。

その後、ファラロンと東芝はエンゲージメント(対話)を継続し、2019年6月の定時株主総会では、ファラロンのアジアにおける責任者を務めたレイモンド・ゼイジ氏が東芝の取締役に選任されました。

2019年6月の株主総会を経て、東芝の全12人の取締役のうち社内取締役は2人のみとなりました。社外取締役のうち4人は外国人で、アクティビストを配慮した構成に変わりました。東芝は外国人投資家の保有比率が7割の比率になっており、東芝の経営は外国人投資家や海外のアクティビストを重視しなければいけなくなったのです。

英投資ファンドのCVCキャピタル・パートナーズが東芝に買収提案した2021年4月当時も、アクティビストが株主の上位を占めており、アクティビストの動向が鍵となりました。

1位:エフィッシモ・キャピタル・マネジメント
2位:3Dインベストメント
3位:ファラロン・キャピタル・マネジメント
4位:キング・ストリート
5位:ブラックロック・ファンド・アドバイザーズ
<中略>
8位:ノルウェー中銀インベストメント・マネジメント
※2021年4月時点の株主

東芝の上位10株主のうち6株主をアクティビストが占めていました。そして、アクティビスト全体で3割強の株数を保有していました。そのため、CVCキャピタルが経営陣と合意し、TOB(株式公開買付)に進んでも、応募が集まるかどうかはアクティビストの判断によるところが大きかったのです。

上場会社を完全子会社化して非公開化するには、株主総会で3分の2以上の株主の賛同を得る必要がありました。しかし、CVCキャピタルは東芝の車谷CEO(当時)が辞任し、株主との対話を重視する細川氏が社長に復帰したことを受け、東芝買収の交渉を中止しました。

東芝の2分割は臨時株主総会で否決

その後、東芝は2021年11月に電子部品などの「デバイス」、エネルギーなどの「インフラ」、関連会社の株式を管理する「東芝本体」の3社に分割する計画を発表しました。しかし、海外のファンドなどは東芝に非上場化を求め、東芝はインフラサービスを東芝本体に残す2分割案に変更しました。

しかし、東芝の株式を5%程度保有しているファラロンは、非公開化が最善策とし、グループを2分割にする案にも反対することを表明しました。

東芝の分割案には、他のアクティビストからも反対の声があがりました。筆頭株主でシンガポールの投資ファンドであるエフィッシモも3月10日に反対を表明。第2位の3Dインベストメントも反対を表明し、株主提案を行いました。

エフィッシモの保有比率は10.41%で、3Dインベストメントは7.57%、ファラロンは5%程度の保有比率となり、アクティビストの比率は30%程度、外国人投資家の比率は50%程度となっていました。

東芝が3月24日に開いた臨時株主総会では、上位3位の大株主であるエフィッシモ、3Dインベストメント、ファラロンがそろって経営側の2分割案に反対し、否決されました。

東芝はアクティビストが提案している非公開化案を含め、経営戦略を練り直す必要があります。今後、ファラロンが東芝にどのような株主提案を提出するかに注目したいところです。