新たなコモディティ・スーパーサイクルに突入!?

2021年3月、JPモルガン証券ニューヨークのコモディティチームが「世界は次のコモディティのスーパーサイクルに突入した」と発表した。コモディティにおける長期のダウンサイクルは終わり、新たなコモディティの上昇、特に原油の上昇サイクルが始まったと指摘した。

過去100年間で大まかに4回のコモディティ・スーパーサイクルがあったと言われている。前回の1つは1996年に始まった。そのスーパーサイクルは2008年(拡大の12年後)にピークを迎え、2020年(12年の収縮後)に底を打ち、新しいスーパーサイクルの上昇局面に入ったというものだ。

【図表1】原油のスーパーサイクルとそのドライバー
出所:JPモルガンの資料より筆者作成

1996年からのスーパーサイクルを牽引した重要なドライバーは、中国を含む新興国の経済的な台頭であった。当時、米ドルは弱含んでおり、資産運用会社はポートフォリオを分散させるためにコモディティへのエクスポージャーを追加するケースが増えていた。

その後、2008年の世界的な景気後退は、欧州(2011年)と中国(2015年)のさらなる減速と相まって、コモディティ価格を下押しし、トランプ米政権時代の「貿易戦争」やそれに続く世界的な製造業の不況、そして2020年には原油価格を史上初めてマイナスの領域に送り込んだ悲惨なパンデミックを経て、12年間続いたダウンサイクル(価格下落サイクル)の終わりを告げたとしている。

エネルギー株がハイテク株に代わって相場の主役に

ウクライナ情勢の緊迫化によってコモディティ価格の上昇が加速している。以下は直近1年間のS&P500指数(青)、エネルギーを除いたS&P500指数(黄)、S&P500エネルギー指数(赤)の動きを比較したものである。

エネルギー指数は長期に渡りS&P500指数に劣後してきたが、年初来、その動きは逆転している。エネルギー指数は、S&P500指数とエネルギーを除いたS&P500指数を大きくアウトパフォームしている。エネルギー株がハイテクに代わり、相場の主役に躍り出ている。

【図表2】S&P500指数(青)、エネルギーを除いたS&P500指数(黄)、S&P500エネルギー指数(赤)の1年間の推移
出所:S&P Dow Jones Indicesのデータより筆者作成

こうした動きの背景の1つは金利の上昇だ。金利上昇はハイテクなどの成長株にとっては逆風となるが、金融や商品などのバリュー株には追い風となる。そこに、ロシアによるウクライナ侵攻を受けて、各種コモディティの供給に対する懸念が高まり、さらに株価を押し上げる結果となっている。

しかし、2月28日付のフィナンシャル・タイムズの記事「The best bet for the 2020s is short tech, long commodities(2020年代のベストベットは、ハイテクショート、コモディティロング)」によると、ロシアのウクライナ侵攻よりもずっと以前から、市場ではもっと根本的なことが起きていたという。

歴史的に見ると、ハイテクとコモディティは正反対のサイクルを辿っており、一方が10年間ブームとなると、もう一方は低迷する。前回の大きな転換期は2001年であり、現在はおそらく次の転換期であると指摘している。

かつて企業は物理的な工場や設備といったオールドエコノミーへの投資を、ソフトウェアや研究開発というニューエコノミーへの投資よりも多く行っていた。しかしその流れは逆転し、2021年、ついにニューエコノミーへの投資がオールドエコノミーへの投資を初めて上回り、現在では資本支出全体の約52%を占めるに至ったという。

しかし、米国における不採算企業の内訳を見ると、その85%がハイテク企業で占められている。世界はテクノロジーに過剰投資する一方、コモディティに過小投資し、この2つのサイクルが10年周期で交互に繰り返されるパターンが再来している。

2019年4月にブルームバーグ・ビジネスウィーク誌は表紙の見出しに「Is Inflation Dead?(インフレは死んだのか?)」と載せた。投資家は信条的理由から、この局面で資源株を整理したという。産業において過去に石油が重視されたのと同じように、これからは「デジタルの時代」ということで、「データこそが21世紀の石油」と言われてきた。だが、我々は今、その転換点に立たされているのかもしれない。

バフェットが石油株に巨額投資

ウォーレン・バフェット氏が率いるバークシャー・ハサウェイが、米石油大手オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)株を買い増したことが明らかになった。3月4日時点でバークシャーはオクシデンタル株の9120万株、約51億ドル相当を保有していたが、さらに先週(3月9日から3月11日にかけて)、15億ドル以上となる2710万株を追加取得した。

これにより、バークシャーは計1億1830万株、3月11日の終値57.95ドルで約69億ドル相当のオクシデンタル株を保有することになった。これをバークシャーの2021年末時点の上場企業の保有ポートフォリオに当てはめると、オクシデンタルはシェブロンを上回り、バークシャーによる米国公開株リストで9位にランクインすることになる。

【図表3】バークシャー・ハサウェイの保有株トップ30(2021年12月末時点の13Fより)
出所:フォーム13Fより筆者作成

過去のデータによれば消費者物価の上昇期に最高の実績を上げるのはエネルギー株であることがわかっている。

2021年2月22日付のブルームバーグの記事「インフレ不安高まる中の株式投資-ゴールドマンやソシエテのお勧めは」によると、ネッド・デービス・リサーチの調査から、エネルギー株は過去50年にわたり一貫して高インフレ時の勝ち組だったという。

冒頭のオクシデンタルの保有も含め、バフェット氏が石油株へのエクスポージャーを増やしているのは、インフレの時代が到来していることの表れなのかもしれない。

配当利回りの高い素材エネルギー株

価格が上昇しているのは原油だけではない。例えば、ロシアは世界のアルミニウム供給の6%を占めており、ロシアに対する経済制裁は、すでに逼迫している市場にさらなるショックを与えることになる。USGS(米国地質調査所)によると、ロシアは2021年におよそ370万トンのアルミニウムを製造し、世界の金属生産量は約6800万トンにのぼるという。

こうした投入コストに伴う価格上昇は、特定の企業の利益率を低下させ、消費者は必需品に多くの支払いを余儀なくされるため、経済にとっては頭を悩ます問題の1つとなる。しかし、経済活動の基礎となる原材料を扱うコモディティ銘柄を中心にチャンスも存在する。有力なコモディティ・ビジネスを持ち、現在の株価水準で配当利回りが4%を超える企業をご紹介しよう。

化学品メーカーのリオンデルバゼル・インダストリーズ(LYB)である。同社は、日用品の包装に使われるポリエチレンやポリプロピレンなどのプラスチック、農業や造園に使われる高機能ポリマー等、多様な化学品を製造している世界的メーカーだ。

前期の業績は、市況価格の上昇とともに急回復しており、売上高、利益ともにコロナ前の数字を上回っている。

【図表4】リオンデルバゼルの売上高と純利益の推移
出所:決算資料から筆者作成

リオンデルバゼルはキャッシュフローも安定している。

【図表5】リオンデルバゼルのキャッシュフロー
出所:決算資料から筆者作成

注目すべきは配当利回りの高さであろう。直近の株価データを元にすると利回りは4%を超えている。今回はこのリオンデルバゼルと同様に、配当利回りの高い素材エネルギー企業も注目銘柄として取り上げておきたい。

石原順の注目5銘柄

シェブロン(CVX) 
出所:トレードステーション
オクシデンタル・ペトロリアム(OXY)
出所:トレードステーション
リオンデルバゼル・インダストリーズ(LYB) 
出所:トレードステーション
シュバイツァー・モデュイット・インターナショナル(SWM) 
出所:トレードステーション
サザン・コッパー(SCCO) 
出所:トレードステーション