2021年に大きく上昇したGAFAM(アルファベット(旧グーグル)、アップル、メタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)、アマゾン、マイクロソフトの頭文字をとった造語)の株価ですが、2022年は一転して軟調となり、5銘柄とも2021年末の株価からはマイナスの推移となっています。

GAFAMの株価が下がっている理由は米連邦準備制度理事会(FRB)が展開してきた大規模量的金融緩和に終わりの兆候が見え、今後の量的な縮小(QT)を懸念してここまで大きく上昇してきたグロース株全体が下がっていることがあります。ただし、決算状況を見てみると、内容はまちまちで、それが各社の株価にも表れていると言えそうです。

以下、各社ごとに2021年10-12月期決算発表や今後の注目点を解説していきます。

アップルは増収増益。サプライチェーンの改善と中国市場が業績を牽引

アップル(AAPL)の2021年10-12月期の業績は売上が11.2%増の1,239億4,500万ドル (市場予想は1,190億ドル)、純利益が20.4%増の346億3,000万ドル(市場予想は 313億6,200万ドル)と増収増益で市場予想を超える実績でした。

アップルの業績が市場予想を超えた理由

理由1:サプライチェーンの状況が予想よりも改善

1つ目の理由はサプライチェーンの状況が予想よりも改善されたことで、主力のiPhoneの売上が9%増の716億ドルと市場予想の 3%増よりも力強く伸びたことが挙げられます。同社はサプライチェーンの状況の悪影響を受けるとの見通しを事前に警告していたことから市場が身構えていた側面もあります。

米国のITハイテク企業の10-12月期の業績を見てみると、サプライチェーンの影響から業績が予想よりも悪くなっている企業が多かったです。しかし、アップルはその事業規模が世界でも最大級なだけに供給側も同社を優先する傾向があったのだと思われます。アップルは2022年1-3月期もサプライチェーン問題については慎重な見方を続けているものの、このアップルの優位性は継続するのではないかと思われます。

理由2:中国の売上が伸長

2つ目の理由はアップルの2021年10-12月期の中華圏での売上は20.9%増の258億ドルと大きく伸びたとことです。米国の11.2%増、欧州の8.9%増、日本の14.2%減、その他アジアの19.3%増を大きく上回っています。こちらは競合企業のファーウェイが米国の供給規制で打撃を受け、シェアを落としたことで、その代わりにアップルがシェアを獲得したわけですが、このアップルの強みも今後継続すると期待できそうです。

アップルの業績はGAFAM5銘柄の中で最も市場予想よりも良かった内容であり、今後も力強い見通しです。そのため、株価もGAFAM5銘柄の中で最も堅調なものとなっています。

アルファベットは市場予想以上の増収増益。自社検索エンジンやOS、AI投資という強みで市場を牽引

売上・純利益ともに市場予想を超える増収増益

次にアルファベット(GOOGL)の2021年10-12月期の業績は、売上が32.4%増の753億2,500万ドル(市場予想は593億ドル)、純利益は35.6%増の206億4,200万ドル(市場予想は187億ドル)で市場予想を超える増収増益となりました。

2021年は全ての四半期で売上高が連続して前年同期比で30%増以上の大幅増収となり、営業利益、純利益は通期で+90%近い伸びでした。過去の同社成長率は、売上高で前年比20%増前後、利益は10%台増から良くても20%台増の成長率というものでしたので、非常に力強い決算だったと言えるでしょう。なお、同社は1株を20株にする株式分割を行う計画も発表しています。

部門別で唯一の黒字部門であるグーグルサービスの営業利益は36%増の259億9,300万ドルとなっています。グーグルクラウド、Other Bets(自動運転車開発など)の事業の赤字が一部相殺し、全体の営業利益は39.8%増の218億8,500万ドルとなっています。

グーグルサービスの業績が伸びている理由

市場を争うメタ・プラットフォームズ(旧フェイスブック)が、アップルOSにおける個人情報の追跡制限のあおりを受けて失速しているなか、アルファベットは、AIへの投資が成果を上げたことで広告主からの評価が高まっていると考えられます。


今後もネット広告市場が高成長を続ける可能性が高い中で、アップルに頼らずとも自社でアンドロイドというOSを持ち、グーグル検索という世界最大の検索エンジンを持つアルファベットは今後も成長を維持していける見込みであり、アップルの次に、市場の期待に応える決算を出した銘柄と言えるかもしれません。

マイクロソフトは増収増益ながら株価は軟調。今後はゲーム事業が有望となるか

クラウド事業の業績伸び率が前四半期よりも鈍化

マイクロソフト(MSFT)の2021年10-12月期の業績は売上が20.1%増の517億2,800万ドル(市場予想は509億ドル)、純利益は21.4%増の187億6,500万ドル(市場予想は175億ドル)と安定した増収増益で市場予想を上回っています。もっとも7-9月期と比較すると売上・利益の伸び率は下がってきています。

インテリジェントクラウド部門の売上が25.5%増の183億2,700万ドル、営業利益が26.3%増の81億9,700万ドルと業績を牽引してはいるのですが、同部門は7-9月期の売上が30.6%増、営業利益が39.5%増と大きく伸びていたことからやや期待よりも伸び率は低く、決算発表後の株価が下がる要因となってしまっています。

全体として業績予想よりも実績が好調だった要因はウィンドウズやXboxなどを手がけるモアパーソナルコンピューティング部門が好調だったことによるものです。このように全体としては堅調な業績だったものの、特に期待されていたクラウド事業の業績伸び率が前四半期よりも鈍化したことから株価は軟調になっています。

アクティビジョン・ブリザードの買収による相乗効果に期待

ただ、マイクロソフトは、2022年1月18日には米国のゲームソフト大手企業のアクティビジョン・ブリザードを買収することで合意したことを発表しています。このことによって同社のゲーム事業は中国のテンセント、日本のソニーに次ぐ世界3位の規模となるため、今後の相乗効果も期待されるところです。

株価はアップルやアルファベットよりはやや弱い推移となっていますが、それでも次々と将来の布石を打ってきており、長期視点で見ると依然として有望だと思います。

アマゾンは大幅増益。株価は調整段階ながら投資が実を結べば株価は上昇トレンドに転換の可能性

市場予想よりも利益が大きく伸びた2つの理由

アマゾン(AMZN)の2021年10-12月期の業績は売上が9.4%増の1,374億1,200万ドル(市場予想は1,378億ドル)、純利益は98.3%増の143億2,300万ドル(市場予想は20億ドル)と大幅増益となっています。

市場予想よりも利益が大きく伸びた理由は2つあります。1つは利益率が高いクラウド事業(アマゾン・ウェブ・サービス(AWS))が大きく伸びたこと。もう1つは人件費やサプライチェーンのコストを予想よりも抑えることができたことです。同社は賃上げを行った上、さらに配送コストも上昇しているのですが、それを上手く抑えています。

セクター別に売上を見ると、北米部門の売上が9.3%増の823億6,000万ドル、営業利益が2億600万ドルの赤字(前年同期は29億4,600万ドルの黒字)、国際部門の売上が0.5%減の372億7,200万ドル、営業利益が16億2,700万ドルの赤字(前年同期は3億6,300万ドルの黒字)、AWS部門の売上が39.5%増の177億8,000万ドル、営業利益は52.8%増の52億9,300万ドルとなっています。

部門別の収益を見れば分かるようにアマゾンの収益の大半はクラウド事業(アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)によるものです。北米部門、国際部門について伸びていないように見えますが、これはちょうど前年同期よりコロナ禍での巣ごもり需要が急拡大したことによるものです。

一方、北米部門、国際部門の利益が赤字となっている理由はコストが拡大していることもありますが、最も大きな理由は投資が拡大しているためです。

事業拡大のための投資強化期間は、短期的な利益が犠牲にされる場合も

アマゾンは2000年代から事業拡大のために投資を強化することが定期的にあります。この内訳の多くはECビジネスの要である最新の自動設備を備えたフルフィルメントセンター、ユーザー基盤を整えたプライム会員のシステム構築、その他様々なデジタルコンテンツの強化です。

このような事業投資を強めるフェーズでは費用が嵩み、利益は後回しとなるため、株価もそれを嫌って低迷(多くの場合は横ばい)したものでしたが、投資が実を結んで一段高い利益の回収フェーズに入ると株価も一段高という繰り返しを推移してきました。そして、現在は費用増で短期的な利益が犠牲にされるフェーズ中と認識できます。

しかし、これは長期的に見ると同社の競争力の強化に繋がりますので、中長期的には投資のチャンスと考えることもできると思います。なお、アマゾンは2022年2月に入り、米国のプライム会員の年会費を119ドルから139ドルに引き上げると発表しており、中長期的に見ると、着々と収益基盤が整っているところだと思います。

株価は2020年半ばから横ばいが続いており、2022年に入ってから調整が進んでいます。今後も投資フェーズが続く間の株価は上昇基調に戻ることは難しいかもしれませんが、その投資が実を結ぶ頃には、再び上昇トレンドに戻っている可能性があります。

メタ・プラットフォームズ、メタバースが次なる布石となるか

最後にメタ・プラットフォームズ(FB、旧フェイスブック)の2021年10-12月期の業績はGAFAMの中で最も悪い成績となりました。売上は19.9%増の336億7,100万ドル(市場予想は334億3,300万ドル)と予想を上回ったのですが、純利益は8.3%減の102億8,500万ドル(市場予想は108億8,000万ドル)と減益となっています(営業利益ベースでも1.5%減の125億8,500万ドルと減益です)。決算発表後に株価は大きく下落しました。

メタ・プラットフォームズの3つの逆風

アップル広告識別子の取得制限

1つはアップルIDの「IDFA」というiOS端末に割り振られる広告識別子に取得制限が掛かっている問題です。2021年春からすでに問題となってきたもので、アップルは、iPhoneをはじめ利用者の個人情報を保護するため、ターゲット広告に欠かせないこの重大な広告識別子を制限できるようにしました。

メタ・プラットフォームズはこれまでこの情報を最もうまく使って効果的で単価の高い広告収入を得てきましたが、それが仇となって、他社よりもこの制限による影響が大きく出ています。

ユーザーの可処分時間をTikTokに奪われる

2つ目の要因として中国のTikTokの台頭があります。米国でも短編動画が流行しており、TikTokは急速にユーザーの利用時間を獲得しています。

欧州の個人情報規制

3つ目の懸念は欧州です。欧州連合(EU)は個人情報の規制を特に強めている地域で、特に米巨大IT企業がEU域内で集めたデータを米国へ移管できなくするよう締め付ける可能性があります。

現在EUの最高裁判所で個人情報移転について争っており、判決によっては欧州からフェイスブック、インスタグラムなどのサービスを断念せざるを得ない可能性もあるとのことです。欧州はメタ・プラットフォームズにとって米国に次ぐ大きな市場です。 

事業モデルの転換による今後の行方

一方、同社は社名を変更してまで、将来的には広告収入モデルからメタバース世界での仮想体験を売るインターネット企業に変身しようとしています。しかしそれは相当先の未来の話であり、それまでに多額の費用も発生する見通しです。

同社の判断は今後の見方次第です。これまでも同社は様々な新サービスを作りあげてきました。例えば、フェイスブックの中でもストーリーズという新機能を誕生させ、マネタイズ手段を確立してきました。当初は新サービスの浸透に時間と費用がかかり、従来型収入モデルからの移行期に新サービスに対する懸念が浮上して株価も大幅調整したことがありました。

しかし、いずれもうまく従来モデルから新たなモデルへと移行し、より高い収益を上げてきた実績があります。現在TikTokの対抗策として打ち出している短編動画のリールズへの移行も、1年後にはうまく進んでいるかもしれませんし、長期的な時間はかかるかもしれませんが、メタバースの事業が急速に発展する可能性もあります。

今後の見方次第であるだけに、GAFAMの中でも株価は最も軟調な推移となっています。もちろん底力はある企業なのですが、今後も現在投資を行っている事業が実を結ぶまでは軟調な株価推移が続く可能性がある、ということを意識しておかなくてはならないかもしれません。

 

(2022年3月1日執筆)