今回の記事では、2021年利益ランキングで首位になった英ヘッジファンド「ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド・マネジメント(以下、TCI)」をご紹介したいと思います。

ザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンド・マネジメント(TCI)とは

TCIは、クリストファー・ホーン氏が2003年に設立したロンドンを拠点とするヘッジファンドで、積極的にアクティビスト活動を行っています。

TCIの由来は、ホーン氏と元妻が設立した慈善団体「The Children's Investment Fund Foundation (CIFF)」に由来しています。CIFFは発展途上国で貧困状態にある子どもたちの生活向上を重視しており、英国最大級の慈善団体の1つです。

ブルームバーグによると、TCIの運用資産は約440億ドル、ホーン氏の資産は82.3億ドルとなっています。

2019年、2021年ヘッジファンド利益ランキングで首位獲得

LCHインベストメンツがまとめた2021年のヘッジファンドの利益ランキングによると、TCIの2021年の利益は95億ドル(約1兆900億円)で、ランキング1位となりました。2位はケン・グリフィン氏率いるシタデルの82億ドル、3位はクオンツ戦略のDEショーの64億ドルでした。

TCIは、2019年も84億ドルの利益で同ランキング1位でした。TCIはリーマンショック時の2008年に40%余りの損失を出して以降、毎年プラスの成績を出しているトップファンドの1つとなっています。

Jパワーへの投資では損失も

2006年10月、TCIが電源開発(Jパワー)の株主であることが明らかになりました。当時の保有割合は5.1%でした。

TCIは2007年3月にJパワーと中部電力に対し、増配を要求する株主提案を出しました。しかし、いずれも6月の株主総会で否決され、中部電力株を売却。Jパワー株は継続保有しました。

TCIのJパワー株の保有は2007年3月時点で外為法規制の寸前となる9.9%に達しました。しかし、外為法の外資規制では、安全保障や重要インフラに関する企業の10%以上の株式保有が制限されています。

2008年、同社は日本政府からJパワー株式買い増し申請を却下されました。当時のJパワーは大間原子力発電所(青森県)建設計画があり、国の電力安定供給や原子力政策への懸念が申請却下の背景にあったようです。

同年6月の株主総会でJパワーに対し、増配と株式の持ち合いを制限する株主提案を出しましたが、否決されました。そして10月にJパワーの9.9%の保有株を総額631億円で売却。Jパワーの取得金額は約756億円だったので、TCIにとって約125億円の損失が発生したと報じられています。

JTへの投資では株価上昇で利益を確保

TCIは2010年に日本たばこ産業(以下、JT)(2914)の上位株主として登場しています。2011~2014年にかけて自社株買いや増配などの株主提案を毎年行ってきました。

2014年には当時の安倍首相に宛てた書簡でJTの保有株式すべてを売却するよう政府に促しましたが、受け入れられませんでした。しかしその後、JTは2013年3月に2,500億円、2015年3月に1000億円の自社株買いを実施。2014年の株主総会では配当性向に50%の下限を設定するなど、大きな変化を見せました。

TCIは2015年9月末までにJTの保有株式のほぼすべてを売却しました。10万株強を保有していた2011年6月時点のJT株価は1,500円前後でしたが、2015年7月には4,847円まで上昇していました。同社は、JTの売却理由を「株価が大幅に上がって利益を確保できたこと」としており、JT株において大きな利益を得たことがわかります。

トップファンドの1つであるTCIが次の標的にする日本企業はどの企業でしょうか。今後も同社の動向に注目していきたいと思います。