2022年2月初週の株式市場でひときわ注目を集めたのがFacebook親会社のメタ・プラットフォームズだ。決算発表後には株価が20%も急落。「Facebookはもはや成長していない」とまで報じられた。

創業経営者のマーク・ザッカーバーグからしてみれば、メタ社の時価総額がいくらになろうと大したことではないかもしれない。今なお30代の彼にとっては、今後数十年も市場で優位な位置を占められるかの方がより重要な問題だろう。

出所:strainer
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そしてそれこそが、今のメタ社がもっとも疑問視されていることだ。ユーザー数が前四半期比で「純減」する中、10〜12月の営業利益は前年比で減益となった。

「TikTok」をはじめとした競合プラットフォームの成長は続いている。メタ社が打ち出す「メタバース」の構築は、少なくとも今の時点では荒唐無稽な計画にも思える。

現実と理想、将来ビジョンと直近業績の間で舵取りを迫られているのが現在のメタ・プラットフォームズだ。先日の決算発表でザッカーバーグの口から語られた内容を中心に、同社の今後の取り組みについて整理する。

短尺動画「Reels」への転換に本腰

「2021年が土台を固める1年だったとすれば、今年は実行の年だ」とザッカーバーグはいう。具体的な投資領域として掲げるものは7つある。

Reels、コミュニティメッセージング、コマース、広告、セキュリティ、AI、メタバースの7つである。

筆頭に挙げられたのが、短尺動画「Reels」だ。お分かりと思うが、これは「TikTok」の後追いにすぎない。ザッカーバーグ自身、今やユーザーはとても多くの選択肢を持っており、アプリの競争環境が熾烈なことを認める。

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実際に、Facebookのデイリーアクティブユーザー数(DAU)は前四半期から純減。MAUの成長もほとんど止まっている。巨大なだけに、彼らの求めるものを提供しなければ規模を維持することなどできない。

そこで想定される「トレードオフ」

だからこそザッカーバーグは「消費者が短尺動画にシフトしているので、Facebookも短尺動画中心に移行していく」と宣言。ここで懸念として存在するのが、収益面でのトレードオフである。

アプリの「画面」は、広告事業を生業とするメタ社にとって限られた資源だ。新たなフォーマットに移行すると、既存のニュースフィードの表示回数は削られる。この結果、短期的にはインプレッション(表示回数)の成長にマイナス影響が想定される。

同様のトレードオフは、過去にも経験したことがある。1つはモバイル(スマートフォン)自体へのシフトで、もう1つは「ストーリー」機能だ。特に前者は、モバイル広告が十分に実現される前に敢行したため、Facebookの株価が一時期低迷する要因にもなった。

ザッカーバーグに言わせれば、短尺動画がコンテンツ消費の中心になるのは「もはや自明」のこと。実際にFacebook、そしてInstagram上にある「Reels」の成長は他のフォーマットをはるかに上回っている。

Facebookは「Watch」として動画プラットフォームを展開してきたが、収益化は遅れている。それでもザッカーバーグは、短尺動画にはフィードやストーリーのようにマネタイズする機会があると楽観的な見通しを立てる。

グループ向けのチャット機能を充実

続いて触れられたのが、コミュニティメッセージング領域だ。要するにグループチャットのことだが、仕事場では「Slack」、趣味では「Discord」のようなプラットフォームが台頭している。

メタ社では「WhatsApp」のような既存のメッセージングアプリが土台となり、グループチャット機能を充実。Facebookやメッセンジャーでも「Community Chats」と称したリアルタイムでのグループコミュニケーション機能を打ち出している。

3つ目は「コマース」。2020年以来、世界的に加速した消費のオンラインシフトによる恩恵をメタ社も一定享受した。アマゾンやグーグル(アルファベット)もそうだが、「事業者の収益化を支援する」という大義名分を掲げ、機能の拡充に取り組んでいる。

広告事業に逆風が吹く中での打ち手

4つ目が「広告」だ。アップルがiOSでアプリベンダーが収集できるデータを制限するなど、メタ社にとって事業環境は向かい風である。ヨーロッパでの規制強化もそうだ。

COOのシェリル・サンドバーグによれば、アップルは2つの側面で困難をもたらした。1つはターゲティング精度の悪化、もう1つは広告成果の計測を難しくしたのだ。

一貫して言えるのは、ユーザーへのパーソナライズのために使えるデータが少なくなっていくという潮流だ。エンドユーザーにとっては自分に関係ある広告が表示された方がいい。事業者側も、明確にターゲティングされた広告を出したいのは言うまでもない。

メタ社では、上記のような事業環境でも高精度の広告ターゲティングを実現するため、広告インフラの再構築を進める。

プライバシー、それからAIも引き続き投資していく領域の1つだ。今年初めには最先端のAIスーパーコンピュータ「AI Research SuperCluster」について発表。2022年には稼働するGPUの数を6,080から16,000に増やす計画。世界で最も高速なAIスーパーコンピュータになるという。

メタバース普及のため「既存アセット」を活用?

投資強化する領域の最後は、もちろん「メタバース」だ。ザッカーバーグは決算発表コールの冒頭、メタバース構築に向けた野心を再度強調した。

曰く、「メタバースは自分達だけで作ろうというのではなく、クリエイターや(外部の)開発者によって組み立てられるもの。相互運用が可能で、経済のあらゆる側面に接するものになるだろう」。

ザッカーバーグによる「社名変更宣言」から数ヶ月が経つ中、他にも多くの企業がメタバースへの野心を口にした。以前は一部でしか語られなかった「メタバース」というワードが大きく広まったわけだ。ザッカーバーグは、他企業とも協調する姿勢を打ち出している。

ハードウェア面では、VRヘッドセット「Quest 2」のトラクションが増している。Questストア上では既に10億ドルをこえる購入が行われ、仮想空間向けのコンテンツ開発が事業として成り立っている。

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ハードウェア部門「Reality Labs」の売上は初めて開示され、1年前から急増していることがわかる。年末ホリデーシーズンの結果も力強く、「Oculus」アプリはクリスマスに初めて米国のApp Store上でトップにランクインした。

今年の後半にも、ハイエンドなVRヘッドセットをリリース予定だという。「Project Nazare」として知られるARグラスについても開発を進める。

ソフトウェア面では、「Horizon」こそがメタバース実現の中核にあるものだという。米国とカナダでは一般向けに解放済みで、すでに多くの才能あるクリエイターたちが仕事をするためのレコーディングスタジオを作ったり、瞑想のためのリラックス空間が作られたりしているという。

今年は「Horizon」のモバイル版も公開予定だ。ザッカーバーグも認めるように、メタバース実現にはプラットフォームに参加するクリエイターや開発者の協力が鍵となる。いずれはFacebookやInstagramアプリからもその世界にアクセスできるようにすることで、VRに縛られない形で早期参加者を募る。

仮想空間上で自らを表現する「アバター」にも力を入れる。昨年12月には「r Meta Avatars SDK」を全てのUnity開発者に解放。QuestやRift、WindowsベースのVRプラットフォームにMetaのアバターを利用できるようにした。

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これらのアバターは、QuestだけでなくFacebookやInstagram、メッセンジャーでも使えるという。メタ社最大のアセットである「数十億人のSNSユーザー」に3D空間への入口を用意することで、2つの世界の間での橋渡しを図る。

メタ社は今回挙げたような投資を進めていく。その一方、アップルや欧州当局からの逆風の影響は2022年にかけて強まる見込みを立てる。2022年1〜3月期の売上予想は270〜290億ドル(前年比3〜19%増)と、大幅に鈍化することになる。