ラガルド総裁の発言により、ECBは政策方針を大転換

先週2月3日に欧州中央銀行(ECB)理事会が行われて以降、市場ではユーロを買い戻す動きがかなり急になっています。

理事会は、事前の予想通り政策金利の据え置きを決定しましたが、その後の会見でラガルド総裁が「突然の変節」を露わにし、そのことが市場には大きなサプライズとなりました。前回のコラムで「ほぼ無風で通過する」と予想していた私も、ラガルド氏の豹変ぶりには目耳を疑う思いでした。

ラガルド氏は、ほんの2週間ほど前まで「米連邦準備制度理事会(FRB)に同調するつもりはない」などとハト派的な見解を示していました。そのラガルド氏が、今回は「インフレ見通しのリスクは上方向に傾いている」などと、突然インフレへの強い警戒感を示し始めたのですから、市場が泡を食うのも当たり前です。

これを受けて、市場は直ちに年2回程度のECBによる利上げ実施を織り込む動きへとシフトし始めており、これまで長らくユーロを売り叩き続けてきた向きも、慌てて買い戻す動きを急にしているといった状況です。

英中銀は政策金利を0.25%追加利上げ

同じ2月3日には、英中銀(BOE)の金融政策委員会(MPC)も行われ、事前の市場予想通りに0.25%の追加利上げが決定されました。ただ、後に「政策委員9名のうち4名が0.5%の利上げを主張していた」と伝わり、それがサプライズとなって英ポンドとユーロの買いを誘う結果となりました。

既知のとおり、英中銀は2021年12月の会合でもサプライズ利上げを決定しており、今回も「追加利上げ」については織り込む動きが見られていましたが、事前に「0.5%の可能性も」などという声はほとんど聞かれていなかったのです。

今回のECB理事会が行われる前までは、少なからぬ市場関係者の間からも「ユーロ/英ポンドをショートしておけば間違いない」などという声が聞かれ、実際に金融政策の方向性の違いを理由にユーロ/英ポンドは下落し続けていたという点も見逃せません。

そこへ突如「ECBが政策方針を大転換」との報が飛び込んできたことにより、まず先にユーロ/英ポンドに対して強烈なショート・カバーの動きが生じました。

ユーロ/米ドルは戻り売りが加速

一方、ユーロ/米ドルに関しては、1月28日頃から金融市場全体にリスクオフのムードが緩んだことでリスク回避の米ドル買いも動きが弱まり、もともと緩やかな戻り歩調を辿っていました。

その背景には、米アップルが発表した好決算をきっかけに米株式相場が持ち直しの動きを見せたことに加えて、米金融当局者が相次いで「過度にタカ派寄りの政策方針に対する慎重論」を唱え始めるという状況の変化があり、米ドルは対円でも調整含みの展開となっていました。

そのような中での「ラガルド氏の豹変」ですから、余計にユーロ/米ドルの戻りは加速しやすかったと言えるでしょう。

ユーロの戻りはどこまで進むのか

ここで1つ焦点になるのは、やはり「ユーロの戻りがどの程度まで進むか」ということでしょう。先週末までのユーロ/米ドルはショート・カバーの勢いを駆って、ついに一目均衡表の日足「雲」を上抜け、1月14日高値に顔合わせする水準まで値を戻してきましたが、それらの節目が目先の上値を押さえる可能性もないではありません。

そもそも、冷静に考えればFRBの方がECBよりもがずっと金融政策の正常化に前のめりになっていることも事実で、依然として双方の取り組み姿勢には大きな差異があります。まして、ユーロに対してはウクライナ情勢の緊迫化という地政学リスクも指摘されています。

先週末に発表された1月の米雇用統計が予想以上に強い結果であったことから、米10年債利回りは1.9%台に乗せてきており、再び米ドル強気の流れが強まる可能性もあります。

そうしたことも勘案した上で、仮にユーロ/米ドルが一段の上値を試す展開となった場合には、次に1.1480-1.1580米ドル処のレンジ内での動きになることを想定しておきたいと個人的には考えます。