テスラにとって重要なマイルストーンとなった2021年
イーロン・マスク氏率いるテスラ(TSLA)が2021年第4四半期の決算を発表した。今回のコラムでは、決算発表に伴いマスクCEOも出席して開催されたウェブキャストの内容から決算を振り返る。また、ウェブキャストの中で公表されたポイントを取り上げつつ、今後のテスラの戦略についても考えてみたい。
サプライチェーンの問題はあったが、ほぼ計画していた通り生産は90%増加した。それは偶然ではなく、サプライチェーンマネジメントなど多くの部署が力を合わせて最大限の努力をした結果だ。
マスクCEOはウェブキャストの冒頭、上記のようにコメントした。そして、2021年度については重要なマイルストーンであったと指摘し、「この重要な年を経験し、私たちは視点を将来に向けた」と述べた。まさに将来が期待できる着地だったと言えるだろう。
テスラが1月26日に発表した2021年10~12月期決算で、売上高は前年同期比65%増の177億1900万ドル(約2兆円)、純利益は8.6倍に拡大し23億2100万ドル、売上高と純利益ともに四半期ベースで過去最高を更新した。
上海工場からの出荷が好調だったことに加え、需要も旺盛だった。この好調な生産、販売を受け、一時的なコストの増加はあったものの、第4四半期の営業利益率は14.7%と前年同期に比べて大幅に改善し、この四半期も業界で最高の利益率を達成した。
2022年についてはインフレの影響が見込まれるとしており、利益率にどれくらいの影響が出るかは今のところ不確定だとした。追い風もあるが逆風もある、ただし営業利益率は生産量が増えて稼働が安定すれば今後も増加していくとしており、「2022年も成長と興奮の1年になるだろう」と述べた。
次のギガファクトリーの建設も視野に!生産は50%以上増加する見通し
半導体不足が自動車業界に重くのしかかっている。テスラはソフトウェアを書き換えることで対応したため、他社に比べればその影響は軽微だったと言われているが、それでもその波は決して小さくなかったようだ。
ウェブキャストの中でマスクCEOは半導体不足に関して「トイレットペーパーのようにパニック状態だった」とコメントし、さらに「昨年はひどかった。普通の半導体が手に入らなかった。それこそ椅子を前後に動かす半導体ですら手に入らなかった。影響は軽減してきているが、1万点ほどの部品があるため日替わりで足りないものが出てくる。ただし、長期的にこの問題が続くとは思えない。解決方向にある」と述べた。
2021年度の生産を確認していこう。2021年通年のEV販売台数は前年比87%増の93万6222台、生産台数は83%増の93万422台だった。テスラは国・地域別のEV販売台数を明らかにしていないが、日本経済新聞の記事「テスラ、利益率業界首位 トヨタ上回る12%」によると中国における販売台数が前年比3.4倍(約47万3000台)に膨らみ、米国を逆転したとのことだ。
2022年度の生産についても50%以上増やす見込みだとしている。これはフリーモント(カリフォルニア)と上海の工場のみで達成できるという。生産に関するマネジメントとして、どの工場もいつでも製造能力を増やすことができる体勢が整っており、常に改善を行っているため、最大の製造能力は常に向上している。1つの工場の製造能力よりも全体としてどう最適化するかを考えているとのコメントだった。
2022年の焦点は生産を全体的に拡大することであり、新車を投入しないことを明らかにした。短期的には工場立ち上げ時の非効率なオペレーションなどもあり、新車を投入すると全生産台数が減ってしまう。2022年は部品の調達にもまだ問題があるので、新車は投入しないとのことだ。
新しい工場建設についての質問に対しては、現時点ではまだ発表できないが、2022年末には新しい製造拠点を発表できるであろうと述べた。2022年は新しい場所を探し始める年であり、できれば年末には次の工場を発表するとした。
テスラが自社開発するスーパーコンピューター「Dojo(ドージョー)」
2021年11月2日付のコラム「テスラ(TSLA)の上昇でイーロン・マスクの個人資産は前人未到の3000億ドル(34兆2000億円)に」で指摘したように、テスラは研究開発に多額の投資を行っている。
企業にとって資本をどのように配分するのかは重要な事業戦略である。研究開発費や広告宣伝費にどの程度の資本を振り向けるのかについては業種によっても企業によっても異なるが、資本配分のバランスにはその企業が何を志向しているのかが見事に表れる。テスラは典型的な研究開発型企業と言える。
ウェブキャストの中で、研究開発の組織をどうマネジメントしているのかとの質問に対し、社内にインキュベーターはいない、研究所もない、製品につながるモノに取りかかっている、世の中が必要としている製品かどうかを考え、「では、それを作ろう」という感じで仕事をしているとの話があった。
デザインして改良を重ね、それを合理的な価格で量産するというかたちで仕事をしているそうだ。研究所を持っているとモノを作るのを意識した仕事をしない。アイデアの創造に色々と費やすが、最も重要なのは世の中に必要とされるモノを作ることであると述べた。
開発を進めている自動運転についてマスクCEOは次のように語った。
間違いなく実現できる。私としては今年中に実現できるのではないか。この3-4年で生産されたテスラ車はすべて自動運転車に転身させることが可能だ。自動運転のもたらす変化はとても大きい。それは単なる機能ではなく、歴史的に最も大きなソフトウェアのアップグレードかもしれない。突然、今、ある車の稼働率が上がって4-5倍の車があるような状況になる。定量的にはまだわからないが、フィナンシャルなインパクトはものすごく大きい。
その自動運転を司る司令塔として、テスラは「Dojo(ドージョー)」という名のスーパーコンピューターの開発に取り組んでおり、2019年頃からマスクCEOも「Dojo」について言及してきた。「Dojo」は、自動運転に必要とされるレーダーやライダーのセンサーを使わず高品質の光学カメラを用い、視覚のみの自動運転を実現するために膨大な量の映像データを処理するコンピューターだ。
このスーパーコンピューター「Dojo」でトレーニングされた自動運転ソフトウェア「FSD(Full Self Driving)」の最新版がテスラ車に送信され、ソフトウェアの更新を行うと、車両に搭載したコンピューターが最新の「FSD」を自動運転に使うという仕組みになっている。
「Dojoは予定通りに進んでおり、今年の夏には意味のあるものを作る。重要な境界点はGPUクラスターに対してDojoが優れたものになるのかということである。Dojoが100%成功するとはまだ言えないが、来年にはその境界点が来るかもしれない。」
「FSDのベータ版を使っている人たちによれば、1マイル走る間に人間が介在する比率はどんどん少なくなり、改善のスピードはとても速い。これから数ヶ月後に発表予定のFSDには素晴らしい機能が搭載される。今年中にFSDが安全性において人間を超えなかったら、それは私にとっても驚きとなる。」
「Dojo(ドージョー)」は訓練場所を表す日本語「道場」から名付けられたようだ。この「Dojo」が目指すのはEVだけにとどまらず、同社が開発するAIを搭載した人型ロボット「オプティマス」にも及んでいる。また機会があればこの「オプティマス」についても取り上げたい。テスラが保有するキャッシュも増えてきており、企業としてのバッテリーチャージは進んでいる。テスラの攻めのスピードは加速しそうだ。
「人に投資する」のも相場の1つの考え方
私は、世界を変える革命というのは、マスクCEOのようなマイノリティー(少数派)が起こすものであると考えている。彼は不可能事に挑戦し、現実を変えるチカラを持っていると言えるだろう。ここでマスクCEOの言葉をいくつか紹介したい。
「私は息をしている限り諦めない」
「自分が本当に大切だと思えることなら、たとえ周りから何を言われようと最後までやり抜くことだね」
「失敗なんてひとつの選択肢にすぎない。失敗することがなかったら、どうしてイノベーションを起こせるだろう?」
「大学生の時に、世界を変えることに携わりたいと思っていた。そして、今も」
「私たちは世界に役立つことをしている。それが一番大事で、それこそが私のモットーだ」
「他人が大切にしている価値観を考え、それを形にしてあげれば人はお金を払う。お金は社会で常に必要性のあるところへ流動するものだ」
「週に80~100時間は働くべきだ。地獄のよう?でも、それこそが成功の確率を引き上げるんだ。40時間しか働かない人と100時間働くあなたが、同じタスクをこなしたとする。わかるだろう?他人が1年かかるところを 4ヶ月で達成することができるわけだ」
企業の業績を分析して投資するのも相場だが、人物を分析して投資するのも、また相場なのである。