世界各国でインフレが高進している。2021年12月の消費者物価は、米国で前年同月比+7.0%と約40年ぶりの伸びとなったほか、ユーロ圏では同+5.0%と統計を遡れる1997年以降で最大の伸びを更新した。

足元で物価が上昇を続ける背景には、エネルギー・食料など原材料価格の高騰などに加え、世界的なサプライチェーンの混乱(※1)が挙げられる。

コロナ禍をきっかけにサプライチェーンが混乱

サプライチェーンが混乱したきっかけは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた経済活動の制限や需要の急激な変動である。

【図表】世界のサプライチェーン混乱の概念図
出所:各種報道などから丸紅経済研究所作成
※サプライチェーンにおける原材料・部品の調達の寸断を黄色、生産の寸断を青色、物流の寸断を赤色で表示

具体的に振り返ると、2020年初に新型コロナウイルスの感染が拡大すると、各国で経済活動が制限されて生産が減少し、多くの労働者が時短勤務や一時解雇となった。

一方で、需要は一時的に落ち込んだものの、コロナ禍特有の巣ごもり需要や政府による現金給付などの景気刺激策を背景に、耐久財などモノへの消費が生産の回復を上回る勢いで急速に伸びた。

この結果、一部の商品で需給がひっ迫したほか、港湾に多くの商品が押し寄せた。例えば米国のロサンゼルス港とロングビーチ港では入港待ちのコンテナ船が100隻以上の列をなす状況に陥った(コロナ禍前の2019年は0~1隻程度)。

加えて、感染拡大時に一時解雇された労働者が、労働需給のミスマッチなどを背景に戻らず、港湾労働者やトラック運転手が一段と不足したことも物流の停滞に拍車を掛けた。

需要の増加は輸送能力を超過し、例えば中国・東アジア発、北米西海岸着航路のコンテナ船運賃は2021年9月に2019年平均の10倍超まで急騰し、中国・東アジア発、北欧着航路も約10倍になるなど、サプライチェーンに負荷が掛かった。

また、新型コロナウイルスの感染拡大を背景に一部の国で生産が停止して部品の供給が滞り、製品の生産にも影響を及ぼした。顕著な例としては、2021年の夏頃にかけて東南アジアで感染が拡大したことで半導体やワイヤーハーネスなどの供給が滞り、自動車生産などに大きな影響を与えたことなどが挙げられる。

このように新型コロナウイルスの感染拡大は、原材料・部品の調達、生産、物流というサプライチェーンの広範にわたって影響を及ぼした。

サプライチェーンの混乱の根底には効率性・経済性重視の秩序

上述の通り、コロナ禍がサプライチェーンの混乱のきっかけとなったものの、サプライチェーンの混乱の根底にある要因はコロナ禍前から存在していた。

すなわち、企業は安全性や緊急時対応、復元力よりも効率性・経済性を優先し、原材料や部品の在庫を最小限に抑えたほか、調達を特定国に集中させ、固定化した生産体制を敷いていた。

2018年以降の米中間の関税合戦や輸出管理の強化を受けてサプライチェーンの脆弱性が意識されたように、きっかけがあればサプライチェーンは容易に混乱する状況にあった。

サプライチェーンの強靭化は一朝一夕にはできず、断続的に混乱

サプライチェーンの混乱は今も続いている。一部の航路のコンテナ船運賃は高止まり、ロサンゼルス港とロングビーチ港では現在も100隻近くが入港待ちとなっている。

各国政府や企業はサプライチェーンの強靭化に向けて、半導体などの重要物資の国内生産や、海外サプライチェーンの多元化に向けて動いているが、サプライチェーンの再構築は一朝一夕には実現できない。新たな秩序が構築されるまでは、混乱が断続する可能性が高い。

(※1)サプライチェーンとは、原材料や部品などの調達、生産、在庫管理、物流・流通、販売までの一連の流れのことである。

 

コラム執筆:伊勢 友理/丸紅株式会社 丸紅経済研究所 アナリスト