年明け早々の急騰から一変した米ドル/円

米ドル/円は、年明け早々この間の高値を更新、一時116円を大きく上回りましたが、先週は一転113円半ばまで急反落となりました(図表1参照)。2022年が始まって勢いよく飛び出した米ドル高・円安でしたが、早々に終わってしまったのかどうかについて、今回は考えてみたいと思います。

【図表1】米ドル/円の日足チャート(2021年11月~)
出所:マネックストレーダーFX

まず気になるのは、米ドル/円は、90日MA(移動平均線)からのかい離率で見ると、2021年10月頃から約3ヶ月も1~3%といった狭いレンジでの推移が続いてきましたが、先週の米ドル反落により、そのレンジを下放れる兆しが出てきたということ(図表2参照)。経験的に、同かい離率の長く続いた小動きが終わった後は一方向に大きく動く傾向がありました。その意味では、先週の米ドル/円の動きは、目先的に米ドル安リスクが拡大する可能性を試す動きだったと言えそうです。

【図表2】米ドル/円の90日MAからのかい離率 (2020年4月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

このようなプライス・アクションによる目先的な米ドル安リスクの示唆は、米ドル/円に限ったことではありません。ユーロ/米ドルは2021年11月以降、1ヶ月以上も1.12~1.14米ドルといった狭いレンジ内での小動きが続きましたが、先週それをユーロ高・米ドル安方向へブレークしました(図表3参照)。以上のように、チャートから見ると円、ユーロなどに対して米ドル安拡大の可能性が出てきたことは気になるところでしょう。

【図表3】ユーロ/米ドルの日足チャート (2021年11月~)
出所:マネックストレーダーFX

ところで、そんなユーロ高・米ドル安は、独米金利差からは大きくかい離する動きでした。先週発表された2021年12月の米消費者物価指数など、米国の物価上昇率の記録的な高い伸びが続く中で基本的に米金利上昇傾向が続いたことから、金利差はユーロ劣位(米ドル優位)拡大となったのに対し、為替相場は上述のようにむしろ長く続いた小動きからユーロ高・米ドル安方向へのブレークとなったわけです(図表4参照)。

【図表4】ユーロ/米ドルと独米2年債利回り差 (2021年10月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

そして、このような金利差からかい離した米ドル安は、米ドル/円においても最近にかけて目立ったものでした。先週にかけての米ドル/円の反落は、まさに金利差米ドル優位拡大を尻目とした動きでした(図表5参照)。

【図表5】米ドル/円と日米2年債利回り差 (2021年10月~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

以上を整理すると、先週にかけての米ドル反落は、それまで米ドル高を正当化してきた米金利上昇を尻目に起こり、さらに対円でも対ユーロでも、テクニカルにさらなる下落リスクを示す動きになったと言えそうです。

それでは、なぜ米金利上昇が米ドル高をもたらしにくくなってきたのか。これは、米国のインフレ率の上昇により、名目金利からインフレ率を引いた実質金利の低下の影響などが考えられます。

これまで米ドル高を後押ししてきた米金利上昇、それがさらに一段と進むことで、米ドル高を再燃させる可能性はあるかと言えば、懐疑的でしょう。米2年債利回りの90日MAからのかい離率は、足元でも空前の「上がり過ぎ」の可能性を示しています(図表6参照)。その意味では、目先的には米金利のさらなる上昇により、米ドル高・円安へ反転させる可能性は限られるのではないでしょうか。

【図表6】米2年債利回りの90日MAからのかい離率 (2010年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

以上のように見ると、目先的には米ドル安の可能性が高そうです。ではそれは、2021年1月の102円から続いてきた米ドル/円上昇トレンドが、年明け早々の116円台でもう終わり、新たな米ドル安・円高トレンドが始まっていることを意味するものなのか?

経験的に、米ドル円の基調転換は、過去1年の平均値である52週MAを、逆方向に1ヶ月、5%以上といった具合に、「長く」、「大きく」ブレークする動きとなります。足元の米ドル/円の52週MAは110円程度なので、米ドル/円はまだそれを大きく上回った状況が続いています(図表7参照)。

【図表7】米ドル/円と52週MA (2000年~)
出所:リフィニティブ社データをもとにマネックス証券が作成

上述のように、経験的には、52週MAを大きく、長くブレークすることがトレンド転換の目安になってきました。その意味では、足元で110円程度の52週MAをまだまだ大きく上回る水準を推移している中では、米ドル安・円高の動きも一時的な反動に過ぎず、米ドル高・円安トレンドの転換を考えるのは時期尚早ということではないでしょうか。