サード・ポイントは、インテルやソニー・グループなど大企業に変革を要求してきた典型的なアクティビストですが、未公開企業にも積極的に投資しています。この記事では、同社がなぜ未公開企業に投資するのかについて解説します。(サード・ポイントについての詳細は以前の記事をご参照ください)
未公開株への投資に積極的なサード・ポイント
2021年、米国ではIPO(新規株式公開)の件数が過去最高を更新し、プライベート・エクイティ(PE、未公開株)投資を展開していたファンドは大きな恩恵を受けました。未公開株は比較的安く取得することができるので、投資家の人気も高まっています。
サード・ポイントも、未公開株投資で大きな利益をあげました。同社のファンドは、11月末までのリターンが25.7%に達しました。パフォーマンス上位の以下の3社には、いずれも上場前から投資しており、過去13ヶ月の間に上場を果たした企業でした。
(1)アップスタート・ホールディングス(UPST)
(2)センチネルワン(S)
(3)リビアン・オートモーティブ(RIVN)
サード・ポイントを率いるダニエル・ローブCEOは、1-3月(第1四半期)に記した顧客宛ての書簡で、「早期に出資することで、素晴らしい企業の大きな割合を保有できる。最終的な上場後のバリエーションと比べれば、参入時の価格はわずかでしかない」と述べています。
サード・ポイントはイベントドリブン型のヘッジファンド
サード・ポイントは、日本においてもソニーグループ(6758)やセブン&アイホールディングス(3382)などに投資し、アクティビストとして知られています。しかし、ローブ氏はアクティビストに特化しているとは考えていないようです。
同社は、未公開株への投資やディストレスト債(経営破綻や不良債権先などが発行する債券)、ハイイールド債などへの投資のほか、リスク・アービトラージ(M&Aに伴う裁定取引)なども手掛ける「イベントドリブン型」のヘッジファンドなのです。
上場前の企業に投資する背景
ローブ氏が投資対象企業に対して送った手紙は公開されており、なかには経営に関する厳しい内容も含まれています。サード・ポイントは、約170億ドル(約1兆9000億円)の資産を運用しています(2021年6月時点)。主な運用先は上場企業ですが、ユニコーン企業(評価額が10億ドル以上の未上場企業)が増え、有望企業が上場するとバリュエーション(企業価値)が一気に高まることから、未公開企業にも投資しています。
未公開企業に先に投資しておき、上場以降のバリエーション上昇を享受するという手法をとっているのです。
ゴールドマンサックスのレポートによると、2020年末までの10年間で、ヘッジファンドの平均利益が7.1%であるのに対し、ベンチャーキャピタルやプライベート・エクイティなどによる未公開企業への投資によるリターンは14.2%とヘッジファンドのリターンを上回ったとのことです。
2021年9月9日付のフィナンシャル・タイムズ紙によると、ヘッジファンドは(2021年9月時点で)既に770件の未公開企業への投資を行っており、753件で総額960億ドルに達した2020年の記録を更新したとのことです。
サード・ポイントは、2021年に最大3億ドルの新しいベンチャーキャピタルファンドを立ち上げるとも報じられました。ローブ氏が今後も未公開株企業への投資を増やしていく可能性は高いと考えられます。
サード・ポイント自身もアクティビストのターゲットに
先述の通り、サード・ポイントはインテルやソニー・グループなど大企業に変革の要求を突きつけてきたアクティビストです。しかし、ロンドン証券取引所に上場するローブ氏の投資会社「サード・ポイント・インベスターズ」は、ほかのアクティビストのターゲットになっています。
サード・ポイント・インベスターズは、主に米国や欧州、中東などの株式や債券、未公開企業に投資しています。しかし、同社の株式の10%以上を保有するイギリスのアセット・バリュー・インベスターズ(AVI)は、株価がNAV(純資産額)に対してディスカウント状態であるとして、変革を求めました。サード・ポイント・インベスターズは、AVIの提案を拒否していますが、問題解決のために一貫した方針を作成するとしています。
2021年は未公開株に投資して高いパフォーマンスを出したサード・ポイントですが、ローブ氏自身の投資会社がアクティビストのターゲットになるなど様々な動きが見られます。引き続き同社の動向に注目していきたいと思います。