という質問をいただいたことがあります。
為替レートと一言で言っても、経済学においては「名目為替レート」「実質為替レート」「(名目)実効為替レート」、そして「実質実効為替レート」の4種類あります。
今、市場を騒がせている円高ドル安の私たちが目にする市場相場が「名目為替レート」です。
為替レートというのは二国間の通貨の交換比率ですが、各国において物価水準が違いますので、通貨の実質的な購買力は需給だけで成り立つ名目為替レートでは表しきれません。そこで、名目為替レートを物価の動きで調整したレートが「実質為替レート」です。
為替レートは貿易と密接に関連し、その貿易量につれて値動きします。そこである通貨の他の諸通貨に対する為替相場の変化率を貿易量などの比率を使って加重平均して算出したレートが「(名目)実効為替レート」です。
その名目実効為替レートの変化率からインフレによる通貨価値の下落分を差し引いて加重平均したものが「実質実効為替レート」です。
その国における通貨の実際の実力を見るには「実質実効為替レート」が最も適していると言われますが、実際の市場でそのレベルを気にしながら取引している市場参加者はほとんどいないのが現実で、私たちはどうしても「名目為替レート」の水準から市場動向を判断していますよね。
ただ、長期的に見た為替レートの決定論として挙げられる「購買力平価説」はまさに物価水準に注目した理論(「為替レートは長期的には各国通貨の購買力が同じになるように決定される」)ですから、そういう意味からも上記質問にある「実質為替レート」を知っておいて損はないと思います。
前置きが長くなりましたが、物価を考慮した「実質為替レート」では現在の水準はどんなものなのでしょうか。
実質為替レートは以下の式から求められます。(自国通貨建て)
実質為替レート=名目為替レート×(外国の物価水準/日本の物価水準)
ドル円史上最安値の79円75銭は1995年4月の為替水準です。この1995年を基準年としてみると、この約15年間で、米国の物価水準は40数%上昇したのに対し、日本ではほとんど変化ありません。
その数字をベースに計算すると、実質為替レートは120円前後となりますので、たしかにそれほど円高水準とは言えませんね。
日銀では「実質為替レート」の推移は発表していませんが、「実質実効為替レート」は発表しています。それを見ると、こちらでも1995年当時よりやや円安となっています。
だからもっと円高になって然るべき・・・という判断材料にはなりにくいとは思います。前述の通り市場参加者の多くはこれらのレートを見ていないですから。
ただ市場参加者が過去の最安値を突破したいと望み、それを防止する対策等が政府・日銀から出てこなければ80円超えは十分にありえるでしょう。
廣澤 知子
ファイナンシャル・プランナー
CFP(R)、(社)日本証券アナリスト協会検定会員