岸田文雄内閣が2021年11月19日に閣議決定した55.7兆円と過去最大の財政支出を盛り込んだ経済対策では、飲食店の支援策である「GoToイート」事業について「来年の大型連休ごろまでを基本として実施」と明記されました。2021年12月15日だった期限が大幅に延長されました。2021年9月30日に全国19都道府県を対象とした新型コロナウイルス対応の緊急事態宣言などが解除され、全国の自治体で「イート」などの需要喚起策の再開も相次いでいます。一方、新たな新型コロナの変異種「オミクロン型」の感染拡大への警戒感が飲食関連銘柄を覆いつつあります。

外食需要、新型コロナ対策の解除で過去最大の落ち込みからじわり回復

外食産業は新型コロナウイルスの感染拡大で2020年4月に過去最悪の売上高の落ち込みに見舞われました。その後もコロナ禍前の水準を超えられない状況が続きましたが、コロナ対応の解除後の2021年10月には2019年10月に迫る水準まで売上高が回復しました。日本フードサービス協会の外食産業概況によると、政府による緊急事態宣言が全国に拡大した2020年4月の全店売上高は前年同月比39.6%減と調査開始以来で最大の落ち込みとなりました。2021年4月には36.7%増と前年同月に落ち込んだ反動から大幅に増えましたが、2019年4月の水準を2割程度下回りました。2021年10月は2019年10月比で6.1%減と一桁台まで減少率が縮小しました。

【図表1】外食店の全店売上高(前年同月比)
出所:一般社団法人日本フードサービス協会より株式会社QUICK作成

全体では売上高がコロナ禍前の水準に接近している外食産業ですが、業態によって回復度合いはまちまちです。全体をけん引するのはハンバーガーなど「洋風」のファーストフード事業です。2021年10月の売上高は前年同月比11.8%増と二桁の伸びで、2019年10月比でも22.2%の大幅増となりました。苦戦が続くのが酒類を提供する「パブ・居酒屋」です。酒類の提供制限が解除された2021年10月は休業していた店舗の営業再開が進みましたが、「パブ・ビアホール」は前年同月比23.8%減、「居酒屋」は35.1%減とコロナ禍だった前年を大幅に下回りました。コロナ対応が解除されたといっても、大人数の宴会見送りを呼びかける企業は多く本格的な戻りは見通せません。

感染者急減で「GoToキャンペーン」銘柄は好調、旅行・飲食予約サイトなどけん引

全国で確認された新規感染者数の「第5波」のピークは2021年8月20日の2万5992人でした。新規感染者数は8月下旬から急速に減少が始まり、2021年11月22日には50人とピークの500分の1程度まで減少しました。新型コロナの変異種「オミクロン型」の国内の市中感染も現時点(2021年12月1日現在)では確認されていません。QUICKが選定した「GoToキャンペーン」関連の25銘柄の11月26日までの過去75営業日の平均上昇率は6.2%と東証株価指数(TOPIX)の2.9%を上回っています。旅行や飲食関連の予約サイトの株価の戻りが全体をけん引しています。

飲食関連銘柄、過半数が感染ピークの株価を下回る

感染ピークの2021年8月20日以降の飲食関連78銘柄の株価騰落率をみると、2021年12月29日時点で感染ピークを上回ったのは31銘柄と全体の半数にも及びません。統計からも苦境がうかがえる居酒屋やパブなどの株価低迷が目立っています。一方で月次売上高や四半期業績などで収益回復が確認できた銘柄や「イート」以外にも「GoToトラベル」の再開で利用回復が期待できる予約サイト運営などの銘柄は上昇しています。感染ピークからの上昇率上位5社は以下のようになりました。

【図表2】飲食関連78銘柄の感染ピークからの株価上昇率上位5社
出所:株式会社QUICK作成

物語コーポ、「焼肉きんぐ」好調で既存店売上高がプラスに転換

首位の物語コーポレーション(3097)が2021年11月9日に発表した2021年7~9月期連結決算は売上高が前年同期比5%減、純利益が36%減と苦戦しましたが、2022年6月期の売上高が前期比22%増、最終的なもうけを示す純利益が24%増という強気な見通しは維持しました。10月の既存店売上高は2.2%増と増加に転じ、なかでも「焼肉きんぐ」が主力の焼肉部門が8.7%増と全体をけん引しコロナ禍前の2019年10月も上回るなど回復が鮮明です。2020年10月は「イート」による押し上げがありましたが、それを上回る売上高が好感されました。

サイゼリヤ、中国の好調がけん引し3期ぶりの営業黒字見込む

2位のサイゼリヤが2021年10月13日に発表した2021年8月期連結決算は売上高が前期からほぼ横ばいの1265億円、本業のもうけを示す営業損益は22億円の赤字(前の期は38億円の赤字)でした。一方、2022年8月期の売上高は19%増の1500億円、営業損益は70億円の黒字と3期ぶりの黒字転換を見込んでいます。中国の上海、広州、北京の既存店売上高が好調に推移しており、地域別営業利益は中国を含むアジアだけで58億円にのぼると見込んでいます。中国事業の回復を好感した買いを呼び込んでいます。

「GoToイート」の期間延長が決まり各自治体で続々と飲食店の支援策が打ち出されていますが、月次売上高や業績見通しなどで回復が確認できない飲食関連銘柄に対しては投資家の厳しい視線が注がれています。新型コロナの変異種「オミクロン型」の感染拡大を警戒し、政府は2021年11月29日に全世界からの外国人の新規入国を翌30日から原則停止すると発表しました。現在は落ち着いている国内の感染状況に再拡大の兆しがみられれば飲食店が再び苦境に立たされる可能性があるだけに上昇率上位の銘柄の上値も重くなっています。

次回はQUICKが選定した「検査キット」関連の10銘柄を取り上げます。政府が再開を決めたGoToトラベルや延長を決めたGoToイート食事券事業はワクチン接種証明やPCR検査による「ワクチン・検査パッケージ」を活用します。関連銘柄の株価は需要拡大期待に沸いているのか、それとも材料出尽くしなのか確認していきます。