史上最高値圏にある米国株と比べると日本株の出遅れが鮮明となっている。
背景は新型コロナウイルスの感染再拡大であろう。本稿執筆現在、東京都の1日当たり感染者数は初めて5000人を超え、日本全体では1万5000人の大台に迫る勢いだ。しかし感染者数そのもので言えば欧米のほうがはるかに日本より多い。米国は1週間平均で1日当たり8万人だ。今月中には30万人に達するという予測さえある。日本とはけた違いである。これは新型コロナウイルスの感染が世界的に広がったときから変わっていない。日本のほうが感染者数は少ないのに、なぜ日本株はこんなに弱いのか。日本株固有のリスク、より正確に言えば日本国内のリスクのせいだろう。

TOPIX、日経平均、東証マザーズを比べると、TOPIXのパフォーマンスが一番よく、マザーズが最低だ。TOPIXはトヨタ、キーエンス、ソニー、日立など世界で業績をあげられるグローバル製造業がパフォーマンスを支えている。一方、東証マザーズ指数は5月中旬以来2カ月半ぶりの安値だ。国内をメインの事業領域とする新興企業が多いからだ。マザーズの低迷はまさに国内リスクを反映している。

では国内リスクとは何か。感染再拡大は経済再開期待をしぼませるという意味において明確な悪材料だが、その感染拡大に対する政府の無策ぶりが失望を招き、日本株低迷の一因となっているのではないかと思う。

欧米の政府・当局・企業はコロナに毅然と対応している。ニューヨーク市のデブラシオ市長は3日、同市内のレストランやバー、スポーツジムなどの屋内施設を利用する顧客や従業員に新型コロナウイルスのワクチン接種証明の提示を義務付けると発表した。一方で接種を加速するため、接種者に100ドル支払う。アメとムチだ。企業もGAFAMが従業員にワクチン接種を求めている。欧州では新型コロナウイルスワクチンの3回目の接種の動きが相次いでいる。ドイツでは高齢者や免疫が弱っているリスクがある人を対象に9月から接種を始める。英国も9月の接種開始に向けて詳細の検討に入った。

こうした欧米の動きに比べると日本の対応は何もしていないに等しく思える。日本政府が決めたのは緊急事態宣言とまん延防止等重点措置である。こんなことで感染を抑制できると本当に思っているのだろうか。東京に緊急事態宣言が出されてから感染者数は増え続けている。飲食店に時短要請やアルコール提供の停止を求めるだけでは一向に効果がないことは実証済みなのに、同じことを繰り返すばかりだ。

無策、無能ぶりをさらすだけでも噴飯ものだが、国民の怒りに火を注ぐのが不適切極まりないメッセージの発信だ。西村康稔経済再生担当相が飲食店の酒類提供を巡って金融機関を使った「圧力」を加えようとした問題、データを無視しているとしか思えない「人流は減っている」という首相の発言、そして感染者が急増している地域では自宅療養を基本とし、入院対象を重症者と重症化リスクが高い人に限定する方針の決定だ。病床が逼迫した地域で重症者への対応力を高めるために、仕方ないとしても、もう少し丁寧な説明があってよかった。

結局、こうしたことが積み重なって政治不信につながり、投資家に政治リスクを意識させるようになっている。菅内閣の支持率は各種の世論調査で内閣発足以来の低さ。さすがに政権交代のリスクまでは浮上していないものの、今秋の衆院選で自民党が20~30議席を減らすシナリオはじゅうぶんあるだろう。都議会選の惨敗状況を見れば、最悪40議席減で自民党が単独過半数を確保できないケースも可能性はゼロではない。そうなれば政権はもたない。政治の安定が日本株の数少ない長所のひとつだが、それすら失うことになりかねない。これが、市場が見ている政治リスクのひとつだ。

もうひとつは衆院選の日程自体の不透明感だ。過去は衆院選が株高につながってきた。解散から総選挙の期間に日本株は上昇するというパターンが見られる。それだけ重要なイベントなのだが、肝心のスケジュールが読めないことで投資家は投資タイミングを決めあぐねている。

菅首相はいつ「解散」という伝家の宝刀を抜くだろうか。低い支持率のまま解散総選挙に打って出たくはないだろう。大々的な経済対策を掲げて少しでも人気を回復させてから選挙に臨みたいはずだ。

ただし、ポイントはコロナが終息しない限り、景気対策も解散も行いにくい、という点である。どんな景気対策であってもそれは景気を刺激する、経済を活性化させるものであり、自粛要請とは矛盾する。

解散は景気対策以上に使えないオプションだ。総選挙となれば、当然だが政治家は選挙活動が最優先になる。解散すれば「コロナ対策を最優先」とはもう言えなくなるわけだ。感染が拡大する限り、首相の伝家の宝刀である解散は封じられたも同然だろう。

感染がいつ下火になるか。こればかりは予測不能だ。そうなると衆院選の日程ももっとも遅いケースを想定することが必要だろう。もっとも遅いケースとは衆院の任期満了日である10月21日に解散するというものだ。法律上は可能である。首相サイドにすれば、できるだけ解散を先送りして、ワクチン接種も進展し感染が沈静化する可能性に賭けたいというインセンティブが働いても不思議ではないだろう。

10月下旬の解散は実は株式相場にとっても季節的に相性がいい。株の買い場として「ハロウィーン効果」はよく知られている。実際、11月~12月にかけて年末高の季節性もある。解散総選挙のタイミングが「株のシーズン」である11月に来るなら、それは株価浮揚の起爆剤となるかもしれない。

「麦わら帽子は冬に買え」という相場格言がある。季節外れのものは安値で拾えるという意味だ。株式相場で言えば、夏は「夏枯れ」で、株にとっては「季節外れ」。2000年以降のTOPIXの月次リターンの平均値は7月が最も悪く、次が8月(1975年以降の平均では9月がもっとも悪い)。「株のシーズン」=年末に向けて相場が弱い今こそ、仕込み時と言える。