今回はご自身や身近な方の相続を考える上でよく混同されがちな「遺贈」と「生前贈与」の違いについてお話したいと思います。どちらも「贈与」ですが、具体的にどのような特徴があるのかを確認していきましょう。

遺贈とは

遺贈とは「遺言によって財産を贈与すること」です。実際に財産が遺言者(遺言を書いた人)から贈与する相手に移るのは、遺言者の死後となります。遺贈によって財産を贈与した場合は、贈与税ではなく相続税の対象となります。

遺贈するメリット

(1)遺言書を作成するため相続人同士が揉めにくい

遺贈するということは、つまり遺言書を残すことにもなりますので、相続手続きで相続人同士が揉める事態が確実に減ります。これは非常に大きなメリットです。

相続が発生すると、預貯金、有価証券、不動産等の財産をどのように分配するのかを決めなければなりません。この作業が相続手続きの中でも非常に時間がかかります。しかし遺贈を選択する(=遺言書を残す)と相続人全員で遺産分割協議書を作る必要もなく、財産をどのように分配するのか悩まなくて済みます。よって、相続人の負担軽減が期待できるでしょう。

(2)法定相続人以外の人にも財産を分配できる

また法定相続人に含まれない子どもの配偶者や孫に対しても、遺言書に記載することで財産を分配できます。

(3)不動産の登録免許税が安い&特例を使って節税できる可能性がある

不動産を生前贈与した場合にかかる登録免許税は固定資産評価額の2%です。一方、遺贈の場合は固定資産評価額の0.4%と、かなり安くなります。また条件を満たせば小規模宅地の特例制度を利用でき、相続税が安くなる点も遺贈のメリットです。

遺贈するデメリット

(1)手間がかかる

遺贈を検討するということは、遺言書を作成しなければならないため、自分の財産を整理しなければなりません。自筆証書遺言を作成する際は無効になってしまわないよう細かな方式にも注意が必要ですので手間だと感じる方もいるでしょう。

(2)費用がかかる場合がある

自筆証書遺言(自分で作成する遺言書)であれば、特に費用はかかりません。しかし確実な遺言書を残そうと思うと、公正証書遺言や司法書士などの専門家に依頼することになりますので費用がかかります。

生前贈与とは

生前贈与とは読んで字のごとく、「生きている間に財産を贈与すること」です。生前贈与によって財産を贈与した場合は、贈与税の対象となります。

生前贈与のメリット

(1)好きなタイミングで必要な相手に贈与できる

生前贈与であれば、ご自身のタイミングに合わせてその都度財産を譲り渡すことができます。よくあるケースは、お孫さんが大学進学等で多額の教育資金がかかるタイミングや、お子さんが不動産を購入するタイミングでの生前贈与です。遺贈は、自分の死後にまとめて財産を譲り渡すことになりますが、生前贈与は、状況に応じて生前に必要な相手に対し必要な範囲で援助することが可能です。

自分の家族や身近な人にとっても、お金が必要な時に都度受け取れることが、最大のメリットでしょう。

(2)課税システムの活用次第で節税効果を得られる

さらに贈与税の課税システムを上手く活用すれば節税効果を得ることも可能です。祖父母や父母から20歳以上の子や孫への贈与については「特例税率」という通常の贈与税よりも低い税率が設定されていますし、住宅取得等資金の贈与税の非課税制度、教育資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度、結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税制度など多くの特例措置があります。

ただし、直近で税制改正があり各制度の詳細が大幅に変わったようです。節税を目的として生前贈与を検討される場合は、一度お近くの税理士に相談してみてください。

生前贈与のデメリット

(1)条件を満たさなければ節税効果を得られない

条件を満たしていないと、追徴課税や通常の贈与税、さらには相続税を課される場合もあり、余分に税金を納めなければならない可能性も出てきます。

(2)不動産を贈与する場合、3つの税金を納める必要がある

不動産の贈与を行うと、贈与税、不動産取得税、登録免許税を納めなければなりません。贈与の登記にかかる登録免許税は固定資産評価額の2%ですので、遺贈の0.4%に比べると多く税金を払わなければなりません。

(3)税制改正によって以前より節税効果を得られない可能性がある

2021年度の税制改正により、生前贈与の際の非課税枠や課税システムに一部変更があるようです。個人的に調べてみましたが、「改正前よりも節税効果を得にくい」という記事も見かけました。詳しくは税金の専門家である税理士に確認すると良いでしょう。

遺贈と生前贈与の比較

遺贈と生前贈与のメリット・デメリットについて以下の図表にまとめました。比較する際の参考にしてみてください。

【図表】
出所:筆者作成