12月、1月は高齢者のヒートショック対策がより必要に

厚生労働省の「人口動態統計」によると、2023年において、65歳以上の高齢者の不慮の事故の死因のひとつに「不慮の溺死及び溺水」があり、8,270人が亡くなっています。そのうちの約8割が入浴中に亡くなっており、暖かい浴槽内と寒い部屋(脱衣所、浴室など)との寒暖差で起こるヒートショックが原因とされています。

ヒートショックとは、温度の急激な変化により血圧が上下に大きく変動することで起きる健康被害のことです。血圧が急上昇すると、心筋梗塞や脳卒中などが起きやすくなり、逆に血圧が急降下し脳貧血や失神などが起きると、浴槽で溺れる原因となります。同調査を月別で見ると、特に12月、1月など冬の寒い時期に亡くなる人が多く、注意が必要です。

81歳になる私の母が暮らす岩手の冬は寒く、最低気温がマイナス10度以下になる日もあります。今回は、東京と岩手を介護で行き来している私が、母の住む実家でどのようなヒートショック対策を行っているかをご紹介します。

入浴前と入浴時、ヒートショックを防ぐために気を付けたいこと

消費者庁が公開している、入浴前や入浴時にヒートショックを防ぐためのポイントは下記のとおりです。

入浴前のポイント

・温度差を減らすために、前もって脱衣所や浴室を暖める
・部屋間の温度差が分かるよう、温度計を利用して「見える化」する
・同居者がいる場合は、入浴前に一声かけ、入浴中と知らせる

入浴時のポイント

・湯温は41度以下、湯につかる時間は10分までを目安にする
・湯温や入浴時間など、温度計やタイマーを使用して「見える化」する
・浴槽から急に立ち上がらない
・同居者にこまめに声かけをしてもらう

上記のほかに、実家で入浴する際は浴室暖房を利用したり、シャワーを使って浴槽にお湯を張って、湯気で浴室全体を暖めたりしていました。

しかし、母の認知症が進行するにつれ、浴室暖房の使い方が分からなくなったり、ヒートショックを気にしなくなったりと予防が難しくなりました。そこで、現在は介護職の付き添いのもと、浴室と脱衣所との温度差が小さいデイサービスでの入浴に切り替えています。

温度差と血圧の急激な変化による、トイレのヒートショックも要注意

浴室だけではなく、トイレもヒートショックの起きやすい場所と言われています。暖房のある部屋と暖房のないトイレとの温度差に加えて、排便の際にいきんで血圧が急上昇したり、排便後に血圧が急低下したりすると、ヒートショックが起きやすくなります。

築50年以上経った実家は気密性が低く、外から冷気が入ってトイレの室温が一桁になる日もあります。そこで、母が操作しなくてもいい、人感センサー付きのセラミックヒーターを設置して、トイレを暖めるようにしました。

2023年の冬には、母がトイレから出たあとフラフラになって倒れたことがありました。最初はヒートショックを疑いましたが、医師に診察してもらったところ、便秘で詰まっていた便が大量に出たことによる、血圧の急低下が原因と言われました。

現在は母の排便がスムーズになるよう通院をして、薬を処方してもらっています。トイレに暖房を設置するほか、排便や排尿など普段の健康状態を把握することも大切です。

玄関や廊下にも室温が分かるようIoT室温計を設置

ヒートショックが起きやすい浴室やトイレから対策を始めましたが、それだけではまだ不十分でした。

実家の玄関付近や廊下は暖房設備がないので、外の気温と変わらないほど室温が下がります。そのため暖かい居間や台所との温度差が、ヒートショックの目安といわれる10度以上になってしまうのです。

最初は玄関や廊下がどれくらい寒いのか分からないため、室温計で室温の「見える化」から始めました。室温計はIoTに対応しており、離れた場所でもスマートフォンから室内の温度を把握できます。

その結果、玄関や廊下の室温が0度以下になる日もあったため、廊下に灯油ファンヒーターを設置して、少しでも部屋間の温度差がなくなるよう対策をしました。

他にもDIYで天井に断熱材を入れたり、窓から冷気が入ってこないよう隙間を埋めたりするなど細かな対策をしましたが、大規模なリフォームをしないと気密性を高めるのは難しいと感じます。しかし、多額の費用がかかるため、踏み切れないのが現状です。

介護施設の越冬プランを利用する方法も

こうした細かな対策のほかに、介護施設の越冬プランを利用する方法もあります。すべての介護施設が対応しているわけではありませんが、寒さの厳しい12月~2月までの間だけ、ヒートショックのリスクの少ない介護施設で生活するという方法です。

大規模なリフォームよりもお金がかかりませんし、親と離れて暮らす家族は安心です。わが家でも越冬プランを検討したのですが、認知症の母が慣れない環境で生活に適応できないかもしれないと考え、利用に至りませんでした。

その代わり、ヒートショックのリスクが高い実家に居る時間を減らして、部屋間の温度差が小さいデイサービスやショートステイを利用する時間を増やすようにしました。

ヒートショックは実家の場所や環境によって、対応の仕方が変わります。まずはヒートショックが起きやすい浴室やトイレから対策を始めて、他にも部屋間の温度差の大きいところがないか調べてみましょう。