旧村上ファンド出身の丸木強氏によって設立された、ストラテジックキャピタルは、積極的に株主提案を行うことで有名です。今回はストラテジックキャピタルの企業へのアプローチ方法や投資手法について解説したいと思います。

ストラテジックキャピタルの投資方針

ストラテジックキャピタルは、旧村上ファンドのナンバー2だった丸木強氏によって2012年9月に設立されました。主に日本に上場している企業で、本来の企業価値より低く評価されている企業に投資しています。そして、市場からの評価が低い要因を改善するよう、少数株主として企業に積極的に働きかけています。

丸木強氏は、東京大学を卒業して野村證券に入社。その後、村上ファンドの前身である株式会社M&Aコンサルティング(後のMACアセットマネジメント)の創業メンバーとして、日本初のアクティビストファンドの運用を行いました。そして、アクティビストとしてメディアなどでも発言しています。

日本には企業価値が株価に反映されていない上場企業が多くあると、ストラテジックキャピタルは考えています。そこで、安定的な事業キャッシュフローがあり、コーポレートガバナンス(企業統治)と経営に改善余地がある企業に焦点を絞って投資するのです。

企業に対するアプローチは、友好的な手法を用いる場合もあれば、様々な株主権を行使する場合も見られます。投資先企業に株主の立場から提案し、株主価値の増大(株価の上昇)を図るのが目的だからです。

例えば、コーポレートガバナンスの改善要求では、経営者に株主価値の重要性を説明しながら、非中核事業や非効率な資産の売却を求め、株主価値を増やすために資産の効率的な活用を求めます。

京阪神ビルディングへのTOBは不成立

ストラテジックキャピタルは、2020年11月5日から1株1,900円で京阪神ビルディングへの敵対的TOB(株式公開買付)を開始しました。同年6月の株主総会で、取締役の選任や賃貸用不動産の売却などを求める株主提案を行っていましたが否決されたため、発言力を高めることを目的として、京阪神ビルディングへのTOBを開始することに決めたのです。

しかし京阪神ビルディングは、「短期的な利益のみを追求し、中長期的な企業価値向上になるかどうかは疑問だ」とし、ほかの株主にTOBに応じないように要請しました。

ストラテジックキャピタルは、当初TOB期間を2020年12月半ばまで予定していましたが、2021年1月12日まで延期しました。しかし、応募株数は買付予定数の下限を下回り、TOBは不成立となりました。

このようにストラテジックキャピタルは、自らの要求を通すためにTOBなど強硬手段を用いる場合もあります。

ESG投資にも注力

近年、アクティビストたちはESG(環境・社会・ガバナンス)投資に急接近しています。企業の従業員の処遇や、気候変動リスクへの対応が株価に影響しやすくなっているからです。

また、アクティビストに運用を委託するアセットオーナーの姿勢も大きく変わりました。これまではリターンを上げることだけを要求していましたが、最近は「ESGにも取り組んでほしい」と要求するようになったからです。特に海外のアセットオーナーから運用を受けるためには、ESG投資への取り組みが欠かせなくなっています。

ストラテジックキャピタルは2021年1月に PRI(責任投資原則)に署名し、「ESG投資の発展に貢献する」と宣言しています。ストラテジックキャピタルは、ESGの「G(ガバナンス)」については、日本で最も厳しい企業評価を行ってきたとされています。そして今後は、E(環境)やS(社会)にも積極的に取り組んでいく予定とのことです。

2021年4月7日付の日本経済新聞の記事の中で、丸木強氏はESG投資とリターンの関係について「最も重要なのはG、すなわち企業統治だ。EやSについての考え方は様々だろうが、私たちは常にリターンに結びつけて考えたい。本業に関係ない社会貢献や金銭の寄付行為は、単なる現金の社外流出であり、株主価値を毀損する行為だ。許容することはできない。本業を通じた社会貢献や社会問題の解決。これが進むべき王道だと思う。」と述べています。

ストラテジックキャピタルの株主総会での提案

ストラテジックキャピタルは、株主総会で積極的に提案を行っています。2021年の株主総会では、以下の企業に対して議決権行使を行いました。

株式会社ワキタ(8125)
文化シヤッター株式会社(5930)
世紀東急工業株式会社(1898)
株式会社タチエス(7239)
極東貿易株式会社(8093)
日本証券金融株式会社(8511)
株式会社淺沼組(1852)
株式会社有沢製作所(5208)
極東開発工業株式会社(7226)

例えば淺沼組に対しては、政策保有株を1年以内にすべて売却することと、配当性向100%の実現を求めました。また、多くの企業に対して取締役の選任に関する株主提案を出しています。

ほとんどの株主提案は否決されましたが、ストラテジックキャピタルは株主提案の詳しい内容や、株主総会での質疑内容、投資先企業との対話状況などをホームページに掲載しています。企業は緊張感を持って、ストラテジックキャピタルと対峙しなければいけないことがうかがえます。

ストラテジックキャピタルは、アクティビストとして積極的に活動しています。今後はESG投資にも力を入れていく方針のようですので、そのあたりの動きにも注目していきたいところです。