シリコン半導体の次を担う化合物半導体

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)によって経済や産業、私たちの暮らしのデジタル化が急速に進みました。近年加速している脱炭素の流れや企業活動の効率化、地方創生など社会課題の解決には、デジタルの力が不可欠となっています。

日本企業においても製造装置や関連材料の需要の伸びが続いており、半導体の主な材料となるシリコンウエハーの需要も急激に伸びています。信越化学工業(4063)やSUMCO(3436)などのトップメーカーは、これまで消極的だった増産に向けた大型投資の検討を進めています。

そうした中で半導体材料の分野では、次世代の化合物半導体への期待が高まっています。現在の半導体の材料の主流となっているシリコン(Si)の原料はケイ素です。かつては火打ち石などに使われていた珪石(けいせき)を製錬・生成してイレブンナイン(99.999999999%)と呼ばれる超高純度のウエハーに加工します。シリコンが単一の元素から成り立っているのに対し、化合物半導体は炭素(C)とシリコン(Si)のように複数の元素により成り立っています。

化合物半導体は、シリコン製に比べて電子の移動速度が速いため半導体としての性能が高い半面、結晶が硬く加工や量産が難しいなどの難点がありました。しかし、デジタル化が急速に進む中で、必要とされる半導体の性能が高まっており、各企業は次世代の化合物半導体の研究開発や量産投資を進めています。

【図表1】
出所:株式会社QUICK作成

化合物半導体が活躍するパワー半導体市場

化合物半導体の活躍が期待されている分野の1つにパワー半導体が挙げられます。パワー半導体とは電気の流れを司る半導体です。電圧や周波数を変えたり、直流を交流に変えたり、電流を安定させる役割を担っています。

パワー半導体は私たちの身近な所でも広く使われています。エアコンなどでおなじみの電流を制御してモーターの回転数などをコントロールするインバーターでは、パワー半導体が重要な役割を担っています。また鉄道や電気自動車(EV)、産業機械などモーターで動く機械などには、ほぼ必ずと言っていいほどセットで使われています。世界の電力消費量の約半分はモーターが消費しているとも言われており、省エネの推進にはパワー半導体やインバーターの性能向上がカギとなります。

富士経済が2021年6月に発表したパワー半導体の世界市場の規模予測は2020年の2兆8043億円に対して、2030年には44.3%増の4兆471億円となる見通しです。EVなど自動車の電装化、5G(次世代通信規格)、産業用途での需要がけん引するとみられます。

海外勢もパワー半導体に注力

脱炭素や省エネへの流れもありパワー半導体は海外勢も注力しています。独半導体大手のインフィニオンテクノロジーズ(IFX)の2020年度の決算資料によりますと、2019年時点のパワー半導体の世界シェアは、1位がインフィニオンで19.0%、2位が米半導体のオン・セミコンダクター・コーポレーション(ON)で8.4%、3位がスイスSTマイクロ(STM)で5.8%と、海外勢が上位を占めています。その中で、三菱電機(6503)、東芝(6502)、富士電機(6504)、ルネサスエレクトロニクス(6723)、ローム(6963)など国内勢も多数ランクインしています。かつては重電大手と言われた東芝や三菱電機なども手掛けるパワー半導体は大型投資による量産が可能なデジタル半導体に比べて、根気強い作り込みが必要とされるため、日本のものづくりの力が活かされる分野の1つです。

図表2の通り、年初来の株価の騰落率をみても、上位9銘柄のうち6銘柄が上昇しています。米連邦準備理事会(FRB)による金融緩和政策の早期正常化への警戒感から相場が不安定になる中でも、堅調さを保つ銘柄が目立っており、それだけパワー半導体需要の拡大に対する期待が大きいとみられます。シェア上位の海外勢に対して、国内勢がどこまで迫れるか今後も目が離せません。

出所:株式会社QUICK作成
※マネックス証券ではインフィニオン・テクノロジーズ(IFX)の取扱いはしておりません。