介護費用は、いくら必要?

将来、もし自分が介護される身になったら「費用はいくらかかる?」と不安に思っている方も多いのではないでしょうか。ネットで検索しても、様々な数字が出てきます。筆者も「100万円です」、「200万円です」と提示したいところですが、残念ながらそれはできません。なぜなら、どのくらいの期間、どのような介護が必要になるかによって、介護にかかる費用は異なるからです。

例えば、元気な状態から、突然倒れるとします。そのまま息を引きとるかもしれません(いわゆる「ピンピンコロリ」)。あるいは、寝たきりになり10年、20年と介護が必要になるかもしれません。言うまでもなく、両者の費用負担には莫大な差が生じます。

「いくらかかるか」ではなく、「いくらかけるか」

日本では、40歳以上の全員が公的介護保険に加入しており、保険料を払っています。そして、サービスを利用する際には自己負担分を支払うことになります。

実は、自己負担割合は前年の所得によって異なり、1割、もしくは2割、3割です。つまり、全く同じサービスを利用した場合でも、自己負担額が1,000円の方もいれば、3,000円の方もいるということです。

さらに言えば、公的介護保険で利用できるサービスには限度額(上限)があります。限度額以上のサービスを利用すれば、超えた部分は10割負担です。

結局、介護のお金は、「いくらかかるか」と考えることは難しく、「いくらかけるか(かけられるか)」という発想が必要になるということです。

施設介護を思い浮かべると、理解していただけるのではないでしょうか。見学したことがない方でも、様々なグレードの施設があることがわかると思います。料金は、低額なところから高額なところまで様々です。

“資産状況”の洗い出しが必須

では、どのように介護にかける金額を決めれば良いのでしょうか。まず、自分(配偶者がいる場合は2人)の資産状況を洗い出すことから始めてください。

・年金、その他の収入(月)
・預貯金
・株式、投資信託など
・民間医療保険・生命保険など
・不動産
・ローン、負債
など

すでに年金生活に入っている方は、それらの収入で日々の生活費、交際費、医療費などをまかなえているでしょうか。できるだけ介護費用も定期的に入る「収入」から捻出する方向で考えなければなりません。なぜなら、蓄えを取り崩すとなると、“長生きリスク”の問題が生じるからです。

例えば、1000万円の蓄えがあるとしましょう。70歳から介護が必要になり85歳まで生きる場合と、100歳まで生きる場合では、取り崩して使える金額は前者なら年間66万円、後者なら33万円と2倍の差が生じます。しかも、介護のスタート時点では、余命を推察することは難しいと言わざるを得ません。日々、医療は進歩しています。

実際、親の介護を担う子世代が「思いのほか親が長生きし、お金が足りなくなった」と慌てている姿を見ることがあります。男性なら100歳まで、女性なら105歳まで生きる想定で計算することをお勧めします。

“お金おろせない問題”とは?

介護のお金について考えるとき、忘れてならないのは「お金おろせない問題」です。あまり想像したくないですが、急に倒れて、意識が混濁したり、認知症が進行したりすることも起こり得ます。そうなると、自分で自分のお金を金融機関からおろすことができなくなります。

しかし、医療にしても介護にしても、お金は待ったなしで必要です。配偶者や子どもがキャッシュカードの暗証番号を知っていたら、1回50万円くらいまでなら出金できます。けれども、知らない場合、家族が窓口で通帳と印鑑を提示しても、本人の委任状がなければ簡単にはおろせません。「本人が認知症だから、代理で引き出したい」と家族が言ったところ、その口座が凍結されたというケースもあります。

近年こうした問題が多発しており、全国銀行協会では医療費などの支払いに関しては「親族でも出金可」との見解を示していますが、用途は限定的です。継続的に引き出しが必要な場合は「成年後見制度」の利用を検討することになります。

いざというときに、どのお金をどのように使えばいいか、配偶者や子どもらと話し合い、頼んでおきたいものです。2枚目のキャッシュカードである「代理人カード」を作って家族に渡しておく方法や、「代理人指定」をしておく方法も考えられます。まとまった現金を「預け金」として家族に託す方法や、任意後見制度、家族信託などの制度を使うことも選択肢となります。

「相続」については、あれこれ思案する方が多いのですが、自身の介護費用について考えている方は少数派です。思う以上に長い「老後」が待っています。自分のお金を自分のために使えるようにプランしておきたいものです。