人手不足により賃金が高騰
新型コロナワクチンの接種が進み、経済活動が活発になっている米国では、労働者不足とモノ不足が問題になっています。労働者不足については、5月10日付のコラムでも書きましたが、コロナ対策として手厚い失業保険補助金が出されている米国では、最低賃金で働くより、失業保険を受給して働かずに家にいる方が、より多くのお金が入るという特殊な状況にあります。
平均的な1週間の失業保険は330ドルですが、現在、連邦政府の補助金300ドルが追加されるため、失業中の米国人は1週間630ドルを受け取っています。これは1年間では約32,000ドルになり、米国の平均的な最低賃金の倍に相当するのです。連邦政府の特別補助金は9月6日まで支払われることになっています。このような状況下において、働かないで家にいる米国人が大勢いても驚くには値しないでしょう。
この様な結果、米国では人手が足りず、賃金の高騰が尋常でない状況となっています。これはコネチカット州に住む友人が教えてくれた話です。コネチカット州の最低賃金は15ドル(約1,600円)ですが、現在マクドナルドの店舗では32ドル(約3,500円)の時給を提示しているそうです。調べてみますと、東京都の最低賃金は1,013円で、東京駅のマクドナルドの時給は1,100円です。ニューヨークのお隣の州のマクドナルドの時給3,500円は、どう考えても高いですね。それくらい払わないと働いてくれる人がいない状況なのです。
このように米国で生活している私の友人たちも賃金インフレを経験しています。ある友人宅の庭の草刈は、今まで週1回15分、50ドルだったのが、80ドルに値上げされたとか。業者の言い値です。お手伝いさん(家事代行)も今まで1時間20ドルだったのが、28ドルに値上げしたそうです。コロナ禍では、他人に家に入ってもらいたくなかったのが、ワクチンを接種し終えたため、生活が通常運転に戻りつつあるのです。
他にも、ニューヨーク・タイムズ紙によると、マンハッタンのウーバーの運賃も1年前と比べて50%近く値上がりしているそうです。運転手のなり手がいないからです。ニューヨークのタクシーリムジン委員会は、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港や、ラガーディア空港では、フライトの便が増え、タクシーの数が足りていないとツイッターで投稿しています。
トランプ政権下でビザの発給制限を行い、外国からの移民を入れなかった時期がありましたが、そのような過去の政策も人手不足の背景にあります。例えば、マイアミ周辺で、ウーバーに乗ると、よく南米からの移民労働者と思われる運転手を見かけましたが、一時的に移民が減ったことで、移民によってまかなわれてきた職種の人手不足に追い討ちをかけているのだと思います。
そのような状況下、共和党主導の少なくとも25の州では、1週間300ドルの補助金の支払い停止を9月まで待たずに止めようと発表しました。共和党としては、事業主の従業員不足の状況を何とかしたいと思っているのです。いずれにしても、この人件費高騰は秋までには解決されることになるでしょう。
モノの値段も高騰する米国
賃金上昇より深刻そうなのがモノの値段の高騰です。先週末ニューヨーク郊外に住む友人と話をしていたところ、彼女曰くシャンプーの値段が2倍になって困っていると言うのです。そんなことがあり得るのだろうか…と調べてみたところ、どうも値上がっているのはシャンプーの値段だけでなく、生活に必要な色々なモノの値段が上がっているようです。
私たち日本人にはあまり馴染みがないですが、一般家庭用のプールの消毒液も品不足で、今年プールを使えない家庭が多いという話も聞きました。また、オーブンが壊れたので、修理を頼んだら部品がない、ある部品は中国製、ある部品はインド製、つまり中国やインドからの部品が入ってこないから修理できないと言われたそうです。
米国でワクチン接種が進んだ結果、国内の経済活動は再開したものの、米国が製造業を安い海外に移転していたため、今や多くのものを輸入に頼らなければならない状況なのです。しかし海外、特に工場があるような新興国では、まだコロナ禍が収束に向かっていないので、製品が米国に届かないという事態が起きているようです。
また、3月後半に大型コンテナ船がスエズ運河で座礁してモノの動きが停滞したことや、2月のテキサス州での記録的寒波で電力が約3週間止まり製造業に影響を与えたことなど、様々なことが少しずつモノの供給に影響を与えています。一方、需要が急増したことにより、モノが不足し、値段の上昇に繋がっているようです。係る事態はいずれ時間が解決してくれるのでしょうが、足元の米国経済には大きな問題になっています。
製造業を米国に戻す動きが投資テーマに
バイデン米大統領は海外にある製造業を米国へ戻そうとする動きも見せています。この流れは長期的な株式投資のテーマを提供してくれます。工場を建設すると、工場のオートメーション化は不可欠ですが、そのトレンドから恩恵を受けるのはロックウェル・オートメーション(ROK)、エマーソン・エレクトリック(EMR)、イートン(ETN)などでしょう。また、米国内で製造施設が増えると、米国内での貨物の動きが増えるでしょう。そのような動きの恩恵を受けるのは、ユニオン・パシフィック(UNP)や、ノーフォーク・サザン(NSC)などです。